試合まであと少し
生徒会に所属するフレイが畏まった姿勢でリンドウに挨拶する。
「やぁ、フレイくん。しばらく生徒会の仕事も無かったせいか、君と顔を合わせるのを久しく感じる」
「お疲れ様です。会長の試合を全て拝見させていただきました。完璧な試合運びで他を寄せ付けず、華麗に勝利を手にする御姿の随所に会長が最強であられる理由を感じました!」
「そこまで熱心に君がわたしの試合に注目してくれていたとはな、誠に光栄の極みだ。誰に見られても恥ずかしくない戦い方を心掛けてはいたが、そう言ってくれて嬉しいよ」
「わたくし程度の実力者なんて世界には五万といます。会長はわたくしを買い被りすぎです」
「そうか?」
「はい、今はまだ何の実績も無いただの一年生。勿論、このまま呑気に学院生活を終える気は毛頭ありません。いつか必ず会長に追いつき、追い越してやります!」
「君は本当に努力家の良い子だな。まるで昔のわたしを見ている気分だ」
「んっ・・・」
リンドウは優しく目を細めると、フレイの頭をゆっくりと撫でた。
フレイも満更でない様子で、されるがままにそれを受け入れている。
気付けばそこは二人だけの世界を形成していた。
美女同士の微笑ましいやり取り。
周りの者はそう思った。
一人を除いて。
蚊帳の外に追いやられたシャーレットの顔が険しくなった。
「おっほん!会長さん、フレイが嫌がっているわ。今すぐ離れなさい」
シャーレットはわざとらしく咳払いをすると、フレイの肩に手を伸ばし、強引に自分の方へと引き寄せた。
「そうなのか?すまない、配慮が足らなかった」
リンドウは焦ってフレイから手を離す。
彼女の瞳は悲しげに揺れていた。
「誤解です!決してわたくしは嫌じゃないですよ!むしろ大歓迎というか、嬉しかったというか。シ、シャーレットはいきなりどうしたんですか?あなたらしくもない」
「・・・フレイが悪いのよ」
そう言ってシャーレットはプイッと顔を背けた。
シャーレットの不可解な行動に、フレイの頭には疑問符が浮かぶばかり。
「君は王女様だね。わたしが無意識のうちに君の機嫌を損ねる行いをしたのなら、謝らせてくれ」
「べ、別に謝罪なんていらないわ!」
例えわがままな王女でも、学院のトップに下手に出られれば多少なりとも罪悪感を覚える。
しかし、腕を組んでリンドウと一切目を合わせようとしないのは、シャーレットがまだ不満を抱いている証拠だ。
フレイは憧れの会長の登場に普段の冷静さを欠いており、二人の仲を取り持つ方法を見い出せずオロオロとしている。
このどうしようもない状況を解決に導いたのは意外な人物であった。
「はぁ~~~みんな鈍感だね」
面倒臭そうな顔で静観していたナリータがやれやれと首を振った。
「ナリータ、どういう意味ですか?」
お手上げなフレイは彼女に縋った。
「シャーレットは会長と楽しそうに話すフレイを見て大切な友人が取られたと思っちゃったの」
「ちょっ・・・ナリータ!」
「つまり嫉妬してるのよ。ほんっとに独占欲が強いね。前から知ってたつもりだったけど、マルスくん以外にも適用されるとは思わなかった」
「う~~~!」
一応隠していたつもりの感情をナリータにあっさりと看破され、シャーレットは真っ赤な顔で唇を噛んだ。
フレイは自然と頬が緩むのを感じた。
「へぇ~そうですか。わたくしの事をそこまで大事に思ってたなんて・・・シャーレットって案外可愛いいとこもありますね?」
「くっ・・・!そ、そうよ嫉妬したわよ!あたしが嫉妬したら悪いかしら!数少ない心を許した友があたしの元を離れるかもって考えたら居ても立っても居られなくなっちゃったの!」
言う必要のない事までぶっちゃける。
「可愛い~」
「あ、当たり前でしょ!いったいあたしを誰と心得ているの!巷で噂の完璧美少女シャーレットとはあたしの事よ!」
「何それ、初耳なんだけど。自分で言ってて恥ずかしくない?」
ナリータが冷静にツッコム。
「いーえ!アンタに言われるまではね!」
「君たちは仲が良いな、羨ましいよ」
仲睦まじい掛け合いを披露する下級生をリンドウは穏やかな気持ちで見守っていた。
これにて一件落着─────といきたかったところであるが、そうは問屋が卸さない。
結局自分の恥ずかしい部分を晒しただけのシャーレットがリンドウに仕掛けた。
「・・・会長さんはこの席で準決勝を観戦するつもり?」
「うむ、君たちさえ良ければ是非ともご一緒させて欲しい」
「やった!会長は何か食べます?お腹すいてますよね!この席無駄に高い食べ物揃ってるので、何なりとお申し付けください!」
フレイがはしゃぐ。
「ちょっとアンタは大人しくしてて。いいわ、会長さんの同席を許可します。その代わりと言っちゃなんだけど、一つだけ条件を提示します」
「その条件とは?」
「可愛い後輩の質問に答えてくださいな」
怪しい笑みのシャーレット。
ナリータとフレイはこの笑みを浮かべたシャーレットが良からぬ事を企んでいるのを知っている。
内容がろくでもないのは二人の中で確定、三人は続きを待った。
「会長さんは誰が優勝すると思う?」
「ふむ」
わざわざ出場する選手にする質問としては不適切なのは明白で、ましてや相手は学院の生徒会長。いくら王女と言えども学院内での序列はシャーレットが下である。
そんな目上の人に躊躇無く粗相をしでかすシャーレットにフレイは目眩がした。
「シャーレット、いい加減にして!さっきから会長の何が気に入らないんですか!?独占欲が強い女は嫌われますよ!」
「構わないよフレイ。これくらい強気でいなきゃ大国の王女は務まらないだろう」
「会長・・・あぁ、なんて心が広い方・・・」
無駄に溢れ出るリンドウのカリスマ性にあてられたフレイは、すっかり彼女の色気に酔ってしまった。
それを見て歯軋りするシャーレット。
ナリータはもう関わるのを止めた。
重苦しい空気が流れる中で、リンドウは普通に答えた。
「無論、私自身だ」
迷いを微塵も感じさせずに堂々たる態度で答えたリンドウに、聞き耳を立てていた周りの貴族は無意識に拍手を送っていた。
リンドウならではの、彼女だから許させる完璧な返答にシャーレットは心の中で白旗を振った。
負けを認めたシャーレットはこれまでの非礼を謝罪した。
「意地悪しちゃってごめんなさいね。私の顔に免じて許しなさい」
「─────と言いたかったんだけどな。彼を知るまでは」
リンドウの答えにはまだ続きがあったのだ。
「「「えっ?」」」
三人の声が重なった。
そして嫌な予感もした。
代表して尋ねるのはフレイ。
「ちなみに誰か聞いても?」
「いいよ」
リンドウは快く後輩の願いを了承した。
「マルスくんだ」
三人の肩がピクリと跳ねた。
そしてわなわなと震え出す。
ナリータは耳と尻尾の毛が逆立っていた。
「彼は素晴らしいよ。繊細で美しい剣技、国の為にリターンズの幹部を自ら倒しに向かう忠誠心、顔も私好みだ。それから─────」
次から次へと語るマルスへの思い。
頬が染まっている、好きな箇所が止まらない、身体をくねくねさせている。
もうスリーアウトであった。
「会長、わたくしたちと少しお話しましょう─────マルスくんについて」
冷たい声でフレイが言った。
彼女にはつい先程までの、心より先輩を慕う無邪気な後輩の面影は残っていない。
「あぁ、いいとも!普段の彼の様子を余す事なく聞かせてくれ!」
リンドウは花が咲くように笑ったのであった。




