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異世界風馬車!

月が浮かび暗闇を照らす午前三時。


俺は少しの仮眠をとって、物音を立てないよう忍び足で自室を出た。


照明は既に消されている真っ暗闇の中を慎重に進む。


その道中、暗かったせいでネズミの存在に気付かなかった俺は不覚にも尻尾を踏んづけてしまった。廊下にはネズミの「チュウゥゥゥー!」って鳴き声が響く。


「やっべ!」


慌てて俺は近くの棚に身を潜めた。


しばらく様子見をしても父さんの部屋からは物音一つしない。


「・・・あっぶな。父さんは起きてない、と。ごめんよネズミくん」


九死に一生を得た俺は更に慎重になって、時間をかけながら廊下を渡り切り、見事一階へ降りることに成功した。


立て付けの悪い扉をゆっくりと開き家を出る。敷地内から歩いてしばらくの場所にある大きな木の影で俺は座り込み、荷物の最終チェックを行った。


「護身用の剣、着替え三着、世界地図に森までの運賃500ゼニーか・・・うーん、心許ないけど途中で山賊とか狩っちゃえば問題なしと」


お世辞にも前世のように治安が良いとは言えないこの世界。至る山々、海には山賊・海賊といった乱暴者たちが蔓延り悪さの限りを尽くす。


王国や領主たちが討伐に向かうが未だに全滅には至っていない。


むしろ年々増えてるんじゃないかな?


父さんだって仮にも四英傑と崇められる存在なので討伐要請は年がら年中ひっきりなしに寄せられる。


倒しても倒しても減らないどころか増えてゆく賊に父さんも頭を悩ませていた。


俺にとってはちょうど良い実践相手にもなれば、小遣い稼ぎにもなるので大助かり。


周囲の村々に悪影響を及ぼす山賊たちの討伐という大義名分も得た俺を止める者はどこにもいないのだ。


だから今回も道中に山賊のアジトがあれば是非とも侵入してガッポリと稼がせてもらおう。


「おっと、そろそろ馬車の到着時刻だな。父さん行ってくるよ・・・俺はビッグな男になって帰ってくるぞ!」


リュックを背負い直して俺は歩き出した。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


俺は村から出てすぐのところに設置されている馬車乗り場に到着した。


この馬車は今回の旅の目的地であるケンネムルンの森の山二つ分手前まで運んでくれるとても便利な交通手段だ。


しかし、馬車は馬車でも前世で昔から馴染みのある形態とは少々・・・いや、かなーり異なるイーセカイの馬車。


もはや馬との表現が適切でない巨大な生物がたくさんの乗客を乗せた、縦横それぞれバス五台分の二階建てキャビンを引く。


各々が降りたい地で下車し、乗りたい地から乗車する。


異世界ならではの乗り物。


そんな馬車が停車する予定の馬車乗り場には先客がいた。


「あれは・・・げっ!モン爺じゃん!一番会ったらダメな人と出くわすとか、ツイてねぇ」


俺より先に乗り場へ訪れ、馬車の到着を待つのはこの村最年長の男性。モン爺との愛称で呼ばれ慕われる初老の男性だった。


「この間、アースガルズ王国に旅行に行くとか話してたっけ?不味いぞ。モン爺は父さんと仲がいいし、もしバレたら面倒だな」


一応俺はこの村の領主の息子であるので顔が知られているので、対策として俺はバレないように深めのフードを被っていた。


それを更に深めに被り直すとゆっくりと乗り場へ近づき、そろりと椅子に座る。


なるべく存在感を出さずに空気と化するよう努めた。


「おお、おはようさん。今日は良い天気じゃのぉ」


のんびりした口調のテンプレ挨拶。


俺の計画は普通に失敗した。惜しくもなんともなかったから下手に動揺せずに済む。


「まだ日は昇ってないですし、辺りも真っ暗ですけど、旅日和の良い日になりそうです」


「空気が澄んでるのじゃよ、これはきっと快晴になるぞ」


「だといいですね」


会話が途切れる。


微妙な空気感となる中、突如モン爺が眉間に皺を寄せると俺の顔を覗き込んできた。


バレたか?


「む?お前さんはこの村の者ではないな?わしの勘がそう告げておる」


バリバリ領主の息子ですけど?でもまぁ、勘違いしてくれるならありがたい。


「はい、俺は今自分探しの旅の最中なんです。それで馬車に乗って次は西の方へ行ってみようかと思いまして」


「ほお、そうかそうか、それは良いのぉ。若いうちはたくさん世界を歩いて自分の目でその先にある光景を見るのが吉じゃ」


「ですね」


俺は相槌を打ちながらモン爺と会話する。


「して、お前さんや。話は変わるのじゃが、お前さんはこの村の領主様のことは知っておるかの?」


「は、はい、耳にはしております。有名で素晴らしいお方だと」


一瞬ビクッとなったが平静を装う。


「ふぉっふぉっふぉ、そうかそうか。お前さんなかなか見込みのある男じゃのぉ。みんながみんなお前さんのようにちゃんと理解のある者ばかりだったら良いのじゃなが、世間はそう思わんようでな。外の者は力の強弱しか見ておらん」


「はぁ」


「真の人としての器を見誤っておるのじゃ。あの方はとてつもなく大きな器を持っておられる方なんじゃよ。最近の若い者にはないモノをな」


「そうなんですか」


「わしらは領主様にはいつも感謝しとるんじゃよ。この村には領主様の名を恐れて野盗やらが来んのでな、おかけでさまで毎日安心して農作業に精を出せるというもんじゃ」


「領主様も村の人々にそう思っていただいてるなら嬉しいと思います」


「じゃが・・・」


「ん?」


一転して険しい顔をするモン爺。


急に変わった風向きに俺の直感が不穏なものを感じ取った。


「一つ心配なのはご子息のマルス様じゃの。なんでも剣の腕は確か、らしいんじゃが・・・これは村での噂・・・魔法に関して全く才能がないとか」


モン爺が嘆くように話題の人物に向かって語る。


俺は思った。


ほっとけ、と。


「どうですかね?で、でも俺も・・・ごほん、マルス様も日々の鍛錬に励んでいますし、父さ・・・ご領主様も何かお考えがあってのことなのではないでしょうか?」


引きこもりは基本的に自分に甘く、自分可愛い、な奴らなので漏れなく俺も自分の擁護に回らせていただく。


「おーん、そうかのぉ?」


おいおい爺さん。そこは自分たちの村の長の跡取りを信じてくれよ。


幾分かのダメージを心に負いながらも、たわいのない会話を続ける俺とモン爺。


早く終われ!と思っていると、突然辺りに地響きを立てて何かが近づいてきた。


「おお、時間通りじゃな」


モン爺の声を聞いて、フードを少しだけ上にずらす。その視界に飛び込むのは、思わず見上げてしまうほどの身体と龍のような顔を持つ四足歩行の馬らしき魔物。


キャビンの窓からは外の景色を眺める者から煙草を吸う者まで色々な人が乗っているのが窺えた。


「さて、お別れの時間じゃの。お前さんと話すのは楽しかったぞい。こんな老いぼれのお相手をしてくれて感謝する」


よっこらせと腰を上げてベンチから離れるモン爺が俺にお礼を告げた。


「いえいえ、俺こそ楽しいお話を聞かせてくださって嬉しかったです」


「ふぉっふぉっふぉ、老いぼれ冥利に尽きるわい」


「ではお元気で」


「あ、そうじゃ」


ふと何かを思い出したかのようにモン爺は振り返り俺に向かって


「くれぐれも父上にご心配をかけないようにのぉ!」


と告げた。


「へっ?」


俺はモン爺を見る。


「ふぉっほっほぉ」


してやったりな顔で俺を見下ろすモン爺と目が合った。


あちゃー、普通にバレてんじゃん。


でもこの様子だと黙っててくれるみたい。話のわかるおじいちゃんで助かった。


一安心した俺はモン爺の背中を見送ると自分も乗務員にお金とチケットを渡しキャビンへと乗り込む。


これでも貴族な俺は予め個室を予約していたのだ。


俺は個室へと入り窓を全開にして外の景色を眺める。


しばらくそうしていると乗務員が出発の合図を告げて、魔物の巨大な脚が動き出した。


「よし、これまでは予定通りと。順風満帆、前途洋々。チート武器をちょちょいと回収して父さんにとっとと魔法を教えてもらう!華やかな学園生活の為に!」


俺は希望(チート武器)を手に入れる為の旅の始まりに心躍らせる。


しかしこの時の俺はまだ知らない。


この旅をきっかけに俺の、そしてイーセカイの運命が大きく動き出して世界が終焉に向かい始めたことを。

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