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侵入者

ここはアースガルズ王国の王都へ続く道を塞ぐ国境門。


現在の時刻は明朝午前五時。


本日この国境門に配置された門兵はアースガルズ王国騎士団に所属する猛者の中でも選りすぐりの騎士十名だ。


彼らはリターンズの侵入を防ぐ、又は事前に察知して、いち早く王宮に伝える役割をライアス公爵から言い渡されていた。


魔闘祭の影響で普段の倍以上に人の出入りが激しくなると予想される。彼らは豊富な経験も買われて、この大役を任されたのだ。


人が出歩くにはまだ早い時刻。


しかし、来訪者は音もなく忍び寄ってきた。


朝霧が漂う視界不良の向こう側に、ぼんやりと二つの人影が現れたのだ。


ゆったりとした足取りで近付いてくる不審者に門兵の警戒心は高まる。


「・・・人を呼んでこい」


部隊長を務めるモーブンがこっそりと部下に指示を送った。長年の騎士団生活で培った勘が働いての咄嗟の行動である。


「通行証を出してください」


モーブンは通行証の掲示を要求した。


この書類を持たぬ者は如何なる理由でも王都へ

通すわけにはいかないのだ


謎の男は深く被ったフードの奥で笑っている。


「通行証?そんなもんいるんすか?聞いてないんすけど」


「申し訳ございません。本日は魔闘祭が開催される日でして、前日までのお越しになった方々は不要だったのですが・・・お手数お掛けしますがご協力お願いします」


モーブンは既にこの二人組を危険人物と定めていた。しかし、万が一の可能性を考慮するのも、門兵としての仕事。丁寧な対応で彼らを出迎える。


「どうしますー旦那ぁ。通行証ってのが要るらしいっすよ」


「あぁん?先に潜り込ませた奴らは、んな事言ってなかったろ。俺はお前のクソみてぇにトロ臭い魔物のせいで全身が痛ぇんだよ。乗り心地も最悪だったぜ。だから、お前がなんとかしろ」


相方は悪態をつくと傍にあった切り株に腰を下ろした。


敵の話を楽観的に信用し切るのも が座り込んだ男の様子を見るに、本当に手を出すつもりはないらしい。


「えー、マジっすか?デスラーの旦那はクロースさんのこと言えないっすよ。同類っすよ、同類」


「うるせぇぞ、オウラル!あんな奴と一緒にすんな!さっさと終わらせろ!」


会話の中で明かされる二人組の名前。


どちらもライアスより挙げられた敵組織の幹部の名だ。


瞬時に抜剣し、戦闘態勢に入る。


「き、貴様は!?指名手配中の【最狂の召喚士】オウラル・フラッシー!!やはりライアス様の予感は正しかったのか!」


モーブンは素早いバックステップでオウラルとの距離をとった。


「あちゃーバレちゃいましか」


ちっとも気に留めてない、軽い口調でオウラルは頬をかいた。


「オイラは大事にしたくはないんすよね。見逃してあげるんで、通してくんないすか?」


「お前たちの口車なんぞに乗るわけなかろう!我々の王国への忠誠心を甘く見るでない!!」


「忠誠心ねぇ。全員が等しく熱量を持ってればいいんすけど・・・まぁ、無理だわな」


「貴様っ!それはどういう意味だ!」


モーブンは睨むが、オルラルはただ軽薄な笑みを浮かべるのみ。


すると、オルラルは急に真面目な顔でモーブンを見詰めた。


「落ち着け」


「すぐに王宮から増援がやってくる!それまでは俺が死ぬ気でお前たちの足止めをさせてもらおう」


部下を走らせてしばらく経った。もうじき王宮からの援軍が到着してもいい頃なのだが、遅れているようで


「落ち着けって」


「絶対に逃さないぞ。リターンズやらなんやら知らないが、犯罪者共め!覚悟しておけ!」


「怖くないよ、落ち着け」


会話が噛み合わない。


おちょくられていると感じたモーブンは声を荒げた。


「貴様ッ!さっきから俺を馬鹿に・・・」


「待て、だよ。落ち着くんだ、タイロン。ご飯は逃げないからな」


「へ?」


モーブンはようやく気づいた。


最初からオウラルは自分を見ていない。


ある一点を眺めていた。


・・・そう、己の背後を。


一度意識がそこに向けばもう他のことは頭に入ってこない。


そしてモーブンはもう一つ、気づいたのであった。


自分以外の門兵の声も気配も消失していることに。


飢えた魔獣の荒い吐息が背中に触れて、触れた箇所から鳥肌が


モーブンはゆっくりと振り返った。


己の背後では目と鼻を持たぬ大きな口を開き、自分を捕食対象と定めている化け物が飼い主の指示で「待て」をしている姿であった。


「あ、ああ・・・」


声にならない声がモーブンから発せられた。


化け物の歯には見覚えのある布が絡まっている。


間違いない、つい先程自分の指示で王宮へと向かった部下の騎士服だ。


背筋がぞくりと震えた。


「よし」


オルラルが短く言うと、同時に化け物は口を歪めた。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


国境門周辺で寛いでいたオウラルとデスラーの元に黒いローブを羽織った男が訪れた。


横目で自分を見る二人の前で跪く。


男はリターンズの組織員であった。


「お迎えに上がりました、デスラー様、オウラル様。屋敷へと案内致します」


「おう、ご苦労さん・・・あ、ちょっと待て。屋敷には当然邪神像を用意してあんだろうな?」


目を細めるデスラー。


「はい、もちろんでございます」


「おし、よくやった。褒めてやる」


「はっ!有り難きお言葉でごさいます」


一連の会話を気怠そうにオウラルは眺めていた。


「えぇー、旦那またあの面倒な祈りやるんすか?仕事の日くらい辞めときゃいいのに」


オウラルはあくびしながら呟いた。


「オウラル、次言ったらぶっ殺すぞ!邪神様を馬鹿にすんじゃねぇよ!」


「はいはい、すんません」


宗教関係者の相手は疲れると、再度認識したオウラルは適当に謝罪して会話を切りあげた。


「ねぇ、君」


「はい、なにか?」


「ここで警備してた門兵をタイロンが全部食っちゃったんすけど、代わりとか用意してるっすか?」


オウラルの問いに答えるのは組織員ではなくデスラーであった。


「あいつがやんだろ」


デスラーは名前を言わなかったがオウラルにはそれだけで伝わった。


「あぁ、あの人は王都で活動してましたね。よくよく考えてみればオイラと新入りを派遣する意味なくないっすか?あの人がやれば済む話でしょ。大体いつもいつも俺を酷使し過ぎなんすよね」


脳内で自分に命令を下した上司の顔を思い出してオウラルは愚痴る。


「まったくだ。あの野郎、俺にまでわざわざ足を運ばせやがって」


同調するデスラーに疑問符が浮かぶ。


「いや、旦那は自分の意思で着いてきたじゃないっすか。オイラとは訳が違うっすよ」


「んだとぉ!」


こうしたやり取りを続けた後、二人は組織員の案内に従い屋敷へ向かった。


学院を挙げての魔闘祭が開催される陰で密かに進む神器奪取計画遂行に向け、リターンズ幹部が遂に王都へ足を踏み入れたのである。

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