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到来!主人公ムーブ

今朝、普段通りに学院へ登校してからというもの妙に視線を感じるのは俺の気のせいだろうか?


悪意の籠った視線でもなかったので俺は特に気にも留めずシャーレットらとの会話に花を咲かせていた。


今日は朝から座学らしいけど、授業の前に大会の説明があるらしく教科書だけを机の上に準備して待機していた。


「マルスくん、心苦しいですがやむを得ない事情にて今日のお昼はご一緒できないのです」


フレイは俺の手を握りながら本気で悲しむが、そんな彼女の話を適当に聞き流しながら俺は考えていた。


やっぱりフレイの正妻感って凄いよね。シャーレットもあれはあれで王道だけど、彼女はどんな面倒事にも率先して首を突っ込むお転婆系ヒロイン。対してフレイは主人公の間違いを冷静に指摘して正しい道へと導いてくれるお淑やか系ヒロインだろう。


どっちかが悪い、とかの話じゃないんだ。


男の好みの話。


非モテに分類される男子との相性が良いのはたぶんフレイの方だろう。


まあ、俺はどっちも同じくらい好きだけどね!


「大丈夫だよ。気にしないで」


本当に気にしなくていい。


「ですが・・・本日はシャーレットは午後から公務、ナリータは友人と、そしてアテーネは・・・まだ登校してません。これではせっかくの二人っきりのチャンスが・・・。こほん、これではマルスくんが一人になってしまうのです」


途中でなにか言いかけた気がしたけど、追求するのは野暮ってもんだ。


「慣れてるからいいよ」


前世で嫌ってほどに経験済みだ。


「はい?」


「なんでもないよ」


笑って誤魔化す俺の手を彼女は両手で包み込んでいる。


「イチャイチャしてんじゃないわよ」


シャーレットに小突かれた。


俺たちは二人で一つの机を三人で共有していた。


中々に窮屈なのだが、両隣が美女だと話は別だ。


ちょっとだけ視線を動かせばクール系美女の巨乳があり、反対を向けばまな板だけど顔・性格最高なエルフの女の子が俺を癒す。


「ちょっと聞いてんの?」


「聞いてるよ」


胸ぐらを掴まれて顔を寄せられる。


え、俺が怒られる要素あったか?


「どうどう、落ち着いてシャーレット。ここは教室ですよ?」


仲裁に入ってくれるのは有り難いと思う。でも、言い方が悪いかもしれないけどさ、この状況は君がまいた種だとも思うんだ。


「フレイはあたしを犬とでも思ってるのかしら?」


可愛く微笑んだつもりだろうけど、シャーレットの無意識に放つオーラは教室内を底冷えさせた。


「嫌ですわ、王女様ったら。ご自覚があるのならわたくしのようにもう少しお淑やかな立ち振る舞いを心掛けた方がよろしいかと存じ上げます」


フレイの煽りを含んだアドバイスをシャーレットは鼻で笑う。


「ふん!お淑やかですって?笑わせないで。あなたが大人しいのはその小さい胸だけでしょう」


自分のGカップに手を当て強調する。


意地悪なシャーレットの言葉はフレイの心に突き刺さり、彼女の目尻には雫が溢れた。


「な・・・!胸のこと出すのは反則だと思います!」


俺たちの中でフレイとの会話では胸の話題はNGという暗黙の了解があったが、シャーレットはフレイと口論に発展するとそのカードを躊躇なく切ってくるのだ。


シャーレットはもちろん。ナリータもアテーネも巨乳なので、より一層彼女の胸部の乏しさが際立つ。


動揺するフレイを見て、勝機を悟ったシャーレットは追撃する。


「ごめんなさいね~図星突いちゃって。あたしって嘘つけない性格なのよ」


嘘つけ、と俺は心の中で呟いた。


「ず、図星じゃないです!」


恐らく図星なのだろう。


冷静さを欠き、顔を真っ赤にして反論するフレイでは説得力の欠片もないのだ。


ちなみに俺も少しずつ顔が赤くなっている。


まあ、俺の場合はシャーレットの手に力が加わっていくことで首が締め上げらるからなんだけど、彼女たちは気づいていない。


激しさを増す一方の二人と、呼吸困難で命の危険度が増してゆく俺。


それを生暖かい目で見守るクラスメイト。


いや、助けてくれよ・・・


俺の願いが届いたのか、その人は突然やってきた。


教室の扉が静かに開かれた。


クラスメイトの注目は当然そちらに移る。


そしてその人物を視界に入れた彼らは・・・


『うおぉぉぉぉぉぉおお!!!』


大いに沸いた。


やんややんやと騒ぎ立て、口笛を吹く者もいる。


依然としてシャーレットに殺されかけている俺だが、この反応に加えて周囲にダダ漏れのイケメンオーラを感じるので、誰だか見当はついている。


そして、俺の予想を決定づける反応が美女二人より同時に示された。


「「ちっ・・・ヘルメースかよ」」


扉を開けて颯爽と入ってきたのはみんなが大好きヘルメース先生だ。


アンチヘルメースがいつの間にか二人に増えていたことは一旦置いといて。俺は先生に助けを求めるべく視線を送った。


「相変わらず仲が良いね。仲が良いのは構わないが、いい加減離してあげないとマルスくんが死んじゃうよ?」


教壇に立ち苦笑する先生。


唐突なイケメンスマイルに両隣からは二度目となる舌打ち、最前列に座る俺たちより後方の席では、女子の黄色い悲鳴と共にガタンッとなにかが倒れる音がした。


「あらヘルメース、忙しい身のあなたが今日はなんの用で?もしかしてサボりかしら?お父様に言いつけてやるわ」


「魔闘祭の連絡事項できたんだよ。小生が適任と校長に任せられてね」


性格の悪さが滲み出るシャーレットに先生は冷静に返した。



一通りの説明を終えた先生は、今にも教室を出ようとするシャーレットとフレイを呼び止めて話を続けた。


「みんな聞いてくれ。勇敢にも君たちのクラスから一年生での出場者が誕生した。その生徒とはマルス・エルバイスくんだ。マルスくんの参加は小生も予想外だったね。てっきり君のことだから誘われても拒否すると思ってたけど」


俺は隣をチラッと見てから答える。


「あはは、俺もそのつもりだったんですけどね。シャーレットに無理やりぃぃぃいってぇ!!」


途端、足に激痛が走った。


もう一度隣を見れば冷たい瞳のシャーレットと目が合った。


踏まれた足を抑える俺の耳にクラスメイトの会話が届く。


『え・・・エルバイスくん出場するんだ?』


『へー、意外ね』


はぁ・・・また馬鹿にされるのか。


この期に及んで苦い記憶ばかりが蘇り臆病になってしまう。


しかし、そんな俺の不安はクラスメイトの声によった掻き消されるのであった。


「エルバイス頑張れよ!」


「そうよ!うちのクラスから出場者が出るなんて誇らしいわ!」


「えっ?」


予想外の応援に俺は困惑した。


「マルス、どうかしたの?」


頬杖をついたシャーレットが顔を覗き込んでくる。


「いやさ、てっきり馬鹿にされるかと思ってたから意外で。どう反応していいやら迷ってしまって・・・」


俺がそう言えばクラスメイトたちは黙り込んだ。必然的に訪れる静寂に教室内が支配されかけたが、一人の男子生徒が声をあげるとそれを皮切りに次々とクラスメイトが俺に声援をくれた。


「は?クラスメイトを応援しないわけないだろ?みんなお前の強さを理解してるよ。少なくともこのクラス内でエルバイス家を四英傑の足でまといなんて思ってる奴はいない」


「そうだぜ。てか、対の授業でエルバイス見てたら俺らとはレベルがちょっと違うのわかるんだよ。だって、あの王女様やフレイさんに着いてけるのお前くらいだぜ?」


彼らの熱い言葉に目頭が熱くなる。


「モーガンなんてぶっ飛ばしちゃって!わたしはあいつ大っ嫌いなの!」


後ろの席で女子生徒が叫ぶ。


忌々しい者を思い浮かべる彼女はモーガンに酷いことでもされたのだろうか。


「俺も俺も!あいつには散々嫌がらせ受けたし、権力を盾にして無理難題を振ってくるんだぜ?あいつだけには負けるなよ!」


「わたしも生徒会長が本命だけど準優勝にはエルバイスくんを推すわ!決勝で二人の戦いを楽しみにしてる!!」


以前に生徒会長の話で盛り上がっていたモブ子ちゃんが言う。


あれ、なんだこの主人公ムーブは・・・!?


心が超満たされるぞ。


「よかったわねマルス」


シャーレットが聖母のような笑みを浮かべ俺の頭をよしよしと撫でた。


俺はなにかに目覚めそうになるのを我慢して言う。


「みんな、ありがとう。精一杯頑張るよ」


そう俺が宣言すると教室内では拍手が沸き起こり、みんなが俺の健闘を祈ってくれた。




「先生!そういえば最近モルトン先生の顔を見てないんですけど、授業も代役の先生が務めてるし」


クラスメイトが質問する。


「ああ、彼は謹慎処分を受けたんだ」


「えぇ!?」


クラスメイトは大袈裟に驚いた。


「うーん、思想が極端なんだよね、あの先生。一向に改善する兆しが見られないよ」


ふーん、なんかやらかしたんだな。まぁ、どうでもいいけどご愁傷さま。


「最後に一つだけ忠告をしておく。みんな、この話は真剣に聞いてくれたまえ」


真面目な顔の先生に俺たちは背筋を伸ばした。


「最近王都に出入りする謎の集団がいるんだけど、そいつらは魔闘祭の優勝商品を狙っているという噂だ。当日小生は用事があってその場にはいないけど、みんなは自分の身は自分で守るように。誰かを宛にするようでは立派な騎士は夢のまた夢さ」


俺たちが首を縦に振ると先生は微笑んだ。


後方の席でバタバタバタンッと複数のなにかが倒れる音がしたけど、俺は振り返らない。


「話は終わりだ。小生も次のクラスに行かなきゃならないからね。みんなも授業頑張るんだよ」


そう言い残して先生は次の授業の担当教師と入れ替わるように教室を後にした。

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