海だ!花火だ!魔闘祭だ!
夏祭りに海水浴に花火大会。
陽キャが集い騒ぎまくるイベントが目白押しの八月。
このクソ暑い季節にて学院では恒例行事のアレが開催される季節だ。
アレじゃわかんない?
心配しなくても今から誰かが説明してくれるさ。
『いよいよアレの季節ね!』
『あ、毎年夏に行われる学院内最強を決める大会のエントリーがもうすぐだったね』
『【魔闘祭《まとうさい》】!!年に一度のビッグイベント。武を示す為、己の力試しに勇敢な生徒がこぞって参加する大会!!』
モブ子ちゃん、モブ美ちゃん。説明ありがとう。
創立以来、欠かさずに毎年開催される学院一の大規模イベント。
その名も魔闘祭。
学院最強を決めるこの大会には多くの来場者が押し寄せ、学生たちの熱闘に一喜一憂して大盛り上がり。アースガルズ王国内で開催される数多のイベントの中でも指折りの人気を誇っている大会だ。
ちなみに俺は今回に限っては参加を見送るつもり。
デスラー討伐後。子爵への昇進だけではなく、独立騎士としての称号も与えられた件をきっかけに俺への賊退治依頼が殺到してるからだ。
今はまだ断っているけど、秋頃には受け付けを開始しようと思ってる。
賊退治は小遣い稼ぎに最適だからね。
しかも、公欠扱いで俺の単位は減らずに授業をサボれる。
もうこれはやるっきゃない。
俺はシャーレットとの会話の際にその旨を伝えると
「え?あなたの分も参加申請しといてあげたわよ。感謝しなさい」
「嘘でしょ」
「本当よ。あたしを誰だと心得ての発言なのかしら?」
足を組み頬杖をつき、俺の瞳を覗き込むシャーレット。
俺は彼女のそれから逃れるように視線を逸らし答えた。
「王女様です」
でも、おかしい。
魔闘祭は本人がエントリーしないと参加を受諾しないはずだ。
「その通り。あたしはアースガルズ王国の王女よ?あたしの一声でルールの一部変更ぐらい造作もないわ」
すまし顔で答えるシャーレット。全く悪びれる様子もなく、自身の下した決断をなんら疑わないその姿勢は返って清々しい。
ちくしょう!結局は権力かよ!
だけど嘆くのはまだ早いぞ、今回は俺に奥の手があるのだ。
「でもさ、俺の腕折れちゃってるし・・・難しいと思うよ?」
そうだ、俺は腕が折れている。
ある程度はくっついたけど、まだ少しだけ痛むんだ。
王女様ならば、怪我人を無理矢理にでも大会へ参加させるような野蛮な行いをするはすが・・・
「はぁ?なに弱気なこと言ってるの。ヘルメースとの修行の方がもっと過酷だったわよね。腕の一本や二本、まだ完治してない程度でゴタゴタ言わないで」
俺は諦めた。
「そんな無茶な・・・それとヘルメース先生ね。敬称をつけようか」
「別にあたしの勝手でしょ。あの男だって気にしてないわ。第一、あたしはヘルメースを信用してないんだから」
「どうしてさ」
少し不機嫌気味なシャーレット。
触らぬ神に祟りなしだが、俺と一緒の席に座る彼女を無視するのは不可能だろう。
「完璧過ぎるのよ。どうも胡散臭さが拭えないわ。欠点のない人間なんておかしいもの」
「じゃあ、シャーレットにも欠点あるの?」
「んー?強いて言うなら可愛過ぎることくらいかしら?」
クールな表情で言うシャーレットの瞳には迷いが一切ない。彼女の美貌を一番理解しているのは彼女自身なのだ。
こうして俺は大会に参加する羽目となったのである。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
今年の魔闘祭、実は数日前までは参加者のネームバリューの乏しさで来場客数の伸びが不安視されていたのだ。
諸事情やらなんやらで獣人族が有力者も四英傑の跡取りも揃って里帰り中で不参加。
四英傑の一角、ヴィーザルも父・オーディンと共に魔竜討伐に向かっている為に長期休み中だ。
フレイも俺の勇姿が見たいとのことで見学を決め込みエントリーしてない。
四英傑の跡取りが同学年で入学するのは、学院の長い歴史を遡っても初めての事例であったので、大会の観戦に訪れるファンたちは落胆したようだった。
このままでは外部からの観客が減ってしまう。そうすれば学園の大事な運営資金源となる観戦料が充分に得られない。
事態を重く見た学園は起死回生の一手を打つ。
なんと学園最強と呼ばれる生徒会長が参加を表明したのだ。
一昨年、去年と続いて優勝を飾った為に今年は辞退するとばかりに思われていたが、どうやら学園長が直々に頭を下げてお願いに行ったらしい。
平民出身ながらにして学院の生徒会長に君臨し、大会連覇。
最強の称号を持つ生徒会長の参戦にファンは大いに盛り上がった。
基本的に一年生は参加しない傾向にあるので、一年からは俺とモーガンのみの出場となった。
優勝予想はもっぱら会長一択。
『今年は誰が優勝するのかなー?』
『わたしは生徒会長を推すわよ!あの凛とした佇まいに男子をも軽く凌駕する実力・・・あー!かっこいいわ!』
こんな感じでモブ女子たちみたいな同性からの支持も獲得している会長一強のムード。
対抗馬として挙げられるのがモーガンと二、三年生の極一部の実力者。
俺の名前でキャッキャウフフしてくれる可愛らしい女の子なんていない。
「はぁー・・・やはり顔か、顔なのか?」
俺の悲壮感の籠った呟きは誰に聞かれるでもなく、他生徒の話し声に混じり掻き消された。




