マルス出世する
────その日、停滞していた一つの家系の歴史が遂に動いた。
五千年という途方もない時間、ずっと準男爵の地位に留まっていた四英傑のエルバイス家が子爵の地位まで昇進を果たしたのだ。
しかも成し遂げだのはまだ学院に通う生徒。
十五歳という若さでの異例の出世であった。
それだけデスラー・ハウンド討伐及び邪教壊滅の功績が、アースガルズ王国にもたらす恩恵が殊更大きいと評価されたのだ。
世界中で悪名を轟かせるリターンズの幹部に勝った若き英雄を一目見ようと王宮には招待を受けた大勢の貴族が押し寄せた。
「マルス・エルバイス準男爵様のご入場~!」
扉は開いた。
正装に着替えたマルスが貴族たちの拍手に出迎えられて一歩踏み出す。
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王様の横にはシャーレットと妃様。
玉座から扉へと繋がるように敷かれた超高級カーペットを挟んでアースガルズ王家の臣下や国の重鎮が列を作って並ぶ。右大臣やら左大臣に、三大公爵家の当主。
モーガンの姿が見えないのはありがたい。目出度い日にまであんなクソ野郎の面を見て気分を害したくはないからな。
あ、ヘルメース先生もいた。
俺がカーペットの中央を歩いていると耳に入るのはやはり俺の陰口。
『あいつは・・・無能家系の跡取りか?失態でも犯したのかな?』
『十中八九そうですわよ。あの家のせいでわたくしたちが尻拭いをする羽目になったらと思うと、腹立たしいですわね』
おい、クソババア。いつ俺たちエルバイス家がお前らに尻拭いさせたよ?むしろてめぇらの取り逃がした山賊や海賊を退治してたのは俺たちじゃねぇか。
やっぱどこも変わらないな。
多分彼らはまだ俺の功績を知らされていないのだろう。今日は俺の叙勲式だと貴族たちに通達したとシャーレットは言ってたんだけどな。
どうせ使用人に任せっきりで自分たちは悠々自適に遊び回ってるんだろうな。だから今日の式典開催の内容を充分に理解してないのも頷ける。
知った時のリアクション及び手のひら返しが楽しみだぜ。
ヒソヒソと俺の耳に届く悪口をそのまま通過させて無視する俺。意に介さない俺の態度が気に食わないの舌打ちも聞こえ始めた。
俺は内心で中指を突き立てながら歩みを進める。
そして俺は玉座の前で跪き顔を伏せた。
右大臣が王様に目配せをした。
王様が頷くのを確認すると右大臣は口を開いた。
「皆様、本日は忙しい中での式典ご参加、誠に感謝致します。式典が終わり次第、晩餐会も開かれますのでどうぞ本日は楽しんでいってください。王宮一同、誠心誠意を込めて皆様をもてなさせていただきたく存じ上げます」
右大臣は一礼して下がった。
「では、叙勲式を始める。マルス・エルバイス、おもてをあげよ」
俺は顔を上げ王様を見た。
そして遂に俺の功績が読み上げられるのであった。
「貴殿はこの度のリターンズ幹部である、十焉星デスラー・ハウンドを討伐という快挙を成し遂げた。勇敢な青年の功を讃えエルバイス家に子爵の爵位と、王宮階位・五位下の地位を与えるものとする」
王様の威厳がある野太い声が響く。
一瞬の沈黙を生み出したあと、会場ではどよめきが巻き起こった。
『ば、馬鹿な!?こんなガキがS級を倒しただと!?・・・そ、そうだ!誰かの手柄を横取りしたのだろう!?絶対にそうだ!俺は認めん!!』
『そうザマス!四英傑の足でまといが、わたくしたちよりも出世なんて許せないザマスよ!』
口々に飛び交う俺の功績を疑う言葉に罵詈雑言の嵐。
もっぱら文句を言っているのは国内の俺と大差のない貴族の連中。俺に越されるのがさぞ悔しいのだろう。
実に愉快だ。
だが意外にも、国外から招かれた位の高い貴族やアースガルズ王国内でも序列の高い公爵家、その他の貴族たちは素直に俺を称賛しているようで拍手を送っていた。
文官が文句の絶えない低級貴族たちを宥めるが事態は収束するどころか悪化してゆく。
終いには大臣クラスも駆り出される。
この光景を目の当たりにして額に青筋を浮かべたのはアースガルズ王であった。
「えぇい!うるさいぞ!彼の功績は事実じゃ。若者が手柄を上げるのがそんなに気に食わんのか?大の大人が情けない。悔しければ己の力で功績を挙げてみよ。個人を示しはせぬが、常日頃よりサボってる奴らが文句ばかり言いおって!世界を救った四英傑の家系へ敬意すら払えないお前たちを抱える我が国を他国の者は笑わっておるわ!アースガルズ王国の顔に泥を塗るつもりか貴様らぁ!!」
王の間が騒然となった。
王様の叱責に文句を言った貴族たちは狼狽える。
俺憎しの感情が強すぎた彼らは王様の決定にケチをつけたのだ。あいつらの出世はかなり遠のいたと俺は見る。
ぷっ、いい気味だな。もっと言っちゃってくださいよ王様!
『お、王様!我々は、決してそのようなつもりはなく・・・』
必死に弁明を図るが王様は取り付く島もない。
「見苦しい言い訳など聞きとうないわ!貴族のくせしおって謝罪すらできぬのか!?もうよい、そやつらをつまみ出せ!」
俺を蔑んだ連中は肩を落として王の間から退出した。
総数ざっと数えて四十名。本日招かれたアースガルズ王国の貴族が百名だから約半数近くが俺を馬鹿にしたってことだ。
嫌われすぎじゃね?
にしても、迫力あったなぁ・・・あんな王様初めて見たおかげで危うくチビりかけたのは内緒だ。
「小生も彼の功績を認めるよ。自分の教え子が偉大な功績を挙げてけれたのは小生も鼻が高い」
ヘルメース先生も加勢してくれる。
っぱ持つべきものは恩師よな!
俺がうんうんと、頷いていると
「加えてもう一つ」
もう一つ?聞いてないぞ。
シャーレットやフレイを見ると彼女たちも驚いた顔をしている。
「王宮はデスラー討伐の功績、爵位二階級だけでは物足りないと判断し、彼には【独立騎士】の地位を与えるものとする。今後も王国のためにその力を存分に発揮してくれ。期待しておるぞ」
独立騎士とは一定以上の武功を挙げた者に送られる称号だ。基本的に彼らは王宮や地方の村、はたまた実力を買った他国からの依頼で主に山賊・海賊退治を生業としている。
騎士団には所属せずに単独で依頼に挑む。
だから給料は王宮に天引きされず、形としては王宮の一員として賊退治を引き受け、正式な給料が発生する公務員ってわけだ。
でも、学生の身分で独立騎士とか前代未聞だ。
周りの反応を見ればわかる。
黙っている俺に王様首を傾げた。
「マルス・エルバイス?」
えーと、この後どうすんだっけ?
シャーレットに助けを求めるために視線を向けると彼女は口パクで”礼”と伝えてくれた。
そうだ、思い出したぞ。
「はっ!ありがたき幸せであります。今後も王国のために。そしてアースガルズ王国の民のために。この身を捧げて王国の平和に微力ながら尽くすと誓いましょう」
棒読み気味だったが、まあ及第点だ。
俺は自己採点は甘めなタイプだからね。
王様が立ち上がり俺に近寄る。
そして子爵昇進の賞状と騎士の証とされる剣を模した装飾品が贈呈される。
俺はそれを左胸の辺りに付けて、最後に深々と頭を下げ王宮への誓いを示す。
こうして叙勲式は幕を閉じた。




