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父さんと魔法

俺には母さんの記憶がない。


前世の記憶を取り戻してから以前のマルスとしての記憶を遡ってみても、一切それらしき女性は思い浮かばなかった。


父さんに尋ねてみたこともあるが、満足のいく回答を得られた試しがない。しつこく問いただすも決まって父さんは、俺の頭を撫でながら「お前のワインレッドの瞳は母さん譲りだ」と悲しい笑みを浮かべて聞かせてくれるだけであった。


前世と異なり山賊や海賊といった犯罪者集団が蔓延るこのご時世。両親のどちらかが欠けててもなんら珍しくない。


五千年前に勃発した世界を終焉に追い込む大戦で、もう懲り懲りだと普通は考える。


しかし時も経てば、当時の共に協力して強敵へと立ち向かった団結力、侵略される恐怖、勝利への執念・熱意などといった形のない感情の部分で植え付けられたモノはやがて薄れ冷めてゆく。


古の大戦を経験した者が減れば徐々に平穏は揺らぎ始める。次第にそれは語り継がれるだけの昔話へと成り下がってしまうんだ。


前世でだって同じだった。人は懲りずにまた領地・資源を巡って争う。比較的資源に富んでいた地球でこれなのだから魔法という概念があり、異なる種族がそれぞれの大陸で栄え、各々が高いプライドをその身に宿すこの血の気の多い異世界では、永遠の平和などは不可能に近い。


「父さん!今日こそ魔法を教えてくれよ!」


世界の平和なんて壮大なことを考えながら、俺は夕食の最中に向かいの席に座ってスープをすすっていた父マレス・エルバイスに、もう何度目か数え切れなくなるほどのお願いをした。


「ダメだ。何度もお前にはまだ早いって言っているだろうに。剣の腕だってまだまだ未熟、その証拠に未だに俺から一本も取れてないしなぁ」


父さんは俺の願いをあっさりと一蹴。


しかし、ここで簡単に食い下がる俺ではない。


「いやいや、父さんから一本取るなんて今の俺じゃ無理だよ。導勝の四英傑の末裔の現当主にこんな子供が勝てっこないじゃん」


「子供と言ってもお前はもう十歳になる。そんな弱気でどうするんだ。それに俺は去年の大会で一勝もできずに負けたんだぞ?」


笑いながら自虐する父さん。


四年に一度行われる”導勝の四英傑”と呼ばれる四人の貴族の間で行われる英傑内の序列を架けた総当たり戦。世界各国、様々な種族が集まり開催場所のアースガルズ王国を挙げての一大イベント。まさしく、前世で世界中の人々が沸いたオリンピックみたいな催しだ。


そんな大会で俺たちエルバイス家は万年最下位。一勝もできずに毎度毎度、観客から笑われる始末で第四席に甘んじていた。


いわゆる、四天王の中でも最弱!!な家系なのだ。


「だ、だとしてもさ!子供の俺じゃ、やりようがないじゃん!」


「そうか、だったらもっと剣の稽古をしないとな。その歳で自分で課題を持っているのは偉いぞ」


「剣の稽古はもう充分だよ!周りの子供にだって負けない自信はある。それより魔法を俺は覚えたいんだ!」


「なんでだ?」


「なんでって・・・」


「理由を言えないんじゃなぁ。人の説得なんて不可能だぞ。俺に構って欲しかったのか?父親冥利に尽きるし俺としても嬉しいが・・・いつかは親離れもして欲しいものだ」


やれやれといった様子で父さんは再びスープに口をつけた。


小っ恥ずかしい勘違いをされたが、大丈夫俺は至って冷静だ。


「そ、それじゃあ!父さんはなんで俺に魔法を教えるのを渋るのさ!父さんこそ理由を言えるの!?」


「ん?言えるぞ。お前は俺から一本たりとも取れていないからだ。魔法を教えるに値する実力に達していない」


即答。一刀両断。俺はぐうの音も出ない。


「とにかくお前にはまだ早い」


こんな感じで軽くあしらわれて俺は未だに魔法を教えてもらえない。


他の貴族の跡取りたちは既に魔法を使えるっていうのに。


それに俺は十五になったらアースガルズ王国にある魔法学校への入学が決まっている。今度こそ薔薇色の学園生活をこの異世界で送る為には突出した魔法の才能は必要不可欠なのだ。


あっ、説明が遅くなってしまったけどこの世界には魔法という概念が存在してるんだ。その人が脳内でイメージした魔法の形が魔法陣からそのまま飛び出す。


例えば火炎放射とか水鉄砲とか。


だけどイメージしたからって絶対に成功する訳じゃない。そのイメージした魔法を使うに見合った実力、魔法の素質伴わなければ、ただ脳内で妄想しているイタイ奴になってしまう。


各々に適正があって、伸び代があるのは一つの属性だけだ。残りの属性は必死に頑張って修行したとしても、精々低級の魔法を実践レベルまで使いこなせるようになれれば御の字だ。


他の属性に手を出すなら自分の得意な属性を極めた方が良いってのがこの世界の常識だ。


属性は基本的には火、水、雷、風、土の魔法が存在する。細かく言えばこの五属性から派生して属性となったり、その人が編み出した特殊属性魔法があったりと、一重に魔法と括っても特性は人それぞれ。使用者によって何百通りにも形を変える俺たちが思っているよりも奥の深いものなのだ。


前世の例として挙げるなら、そうだな・・・人種の問題が適切だと思う。


俺たちはヨーロッパに住む人たちを”ヨーロッパ人”って呼ぶことがある。だけど、彼らからしてみれば全然違うのに俺たちは一括りでヨーロッパ人と呼ぶのだ。逆に海外の人も俺たち日本人と、その他アジア人の区別がつかないらしい。中国人、韓国人、日本人なんて特に見分けがつかないとよくネットで目にした。


つまり何が言いたいかって言うと─────個性を大切にしようね!ってこと。


そうだ、魔法は個性なんだ。


みんな違ってみんな良いね!


まぁ、俺は使えないけどな!


そんな使えない割に、知識だけに富んだ俺が憧れる属性魔法が存在する。


その魔法とは”氷魔法”だ。


氷ってだけで不思議な特別感が感じられる。


御伽話の最終盤に登場すると、悪を封印して世界に平和をもたらすカッチョイイ魔法。


男心をくすぐるそれを是非とも使ってみたいが、氷魔法は存在したかすら怪しい物語上で耳にするだけの伝説的な属性魔法だ。


名前として言い伝えられるだけで実際に誰も見たことがなく、御伽話によってその効果はバラバラで曖昧な表現で濁している。


氷魔法の仕組みなどを記された文献も残っておらず、全てが謎に包まれた氷魔法。


特に俺なんかが知る由もない縁もゆかりもない属性。


なぜなら俺は四天王の中でも最弱!!の息子に転生した元引きこもりだから。


大抵の場合は親からの遺伝で子供の特化属性が決まる。所詮俺なんて父さんと同じで水魔法のしょぼいやつが既定路線だろう。


そんで大会では無様に負けて世界中の笑いもの、永遠の負け組人生を歩むのさ。


いったいご先祖さまはどんな手を使って四英傑の仲間入りをしたのか、永遠の謎である。


「はぁ・・・」


こうして俺は一向に進展しない話に今日のところは匙を投げ、夕食を終えた。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


場面は移ってここは俺の寝室。


父さんの就寝は確認済み。目を覚まさないように細心の注意を払って音を立てないように旅支度をしていた。


なんで急に旅支度をしているのか、だって?


仕方ない教えてあげよう。


転生される際に、忘れもしない思い出しただけで腹が立つあのクソ女神に言われた転生特典《絶剣・グランデル》を回収しに行くつもり。


もしその特典を使えば父さんから一本取れるかもしれない。


仮に取れなかったとしてもその剣は俺の成長を促し、手助けしてくれるだろう─────


なんて安易な考えから来る突発的な行動。異世界ならではの思いつきだ。


異世界にきてまで惨めな人生は真っ平御免だからね。自分の道は自分で切り開くのも異世界っぽくて楽しそうだ。


様々な観点から設定した作戦決行日。


それが今日、というか明日の早朝ってわけさ。

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