報告
元聖地・マハバードが存在した場所より少しだけ離れた村に駐在する兵士は今日も見回りを行っていた。
「憂鬱だべさぁ~」
「またぁ、あいつらの勧誘受けるべよな。王国様方はほんっとにどうにかしてくんろー!」
来る度に熱烈でうざったい勧誘が相次ぐ街。
見回りだとしても邪教の信徒らとの接触は極力避けたい兵士の二人組は遠目に街の様子を眺めながら周囲を歩く。
普段ならまた頭のおかしな連中が騒いでいるが、街は妙な静けさで人っ子一人の気配すら感じない。
意を決して兵士は街へと入った。
そして異変に気付く。
「これはてぇへんだぁ!!今すぐ村に帰ってアースガルズ王国に手紙を出すべ!!」
「んだんだ!」
踵を返して村へと舞い戻った彼らはすぐさま王国宛ての手紙を書き上げ伝書鳩ならぬ伝書魔鳥へと括り付けると、王国へと放った。
「嵐がくんどぉ~」
飛び立つ魔鳥を眺めながら兵士は呟く。
アースガルズ王国方向の上空には黒い雨雲が立ち込め、それは次期に訪れるであろう災厄を予期させるものであった。
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その日、王宮にある一報が舞い込んだ。
「王様!ご報告です!」
王の間に一人の兵士が慌ただしく駆け込む。
ヘルメースや臣下たちと談笑していたアースガルズ王は一旦話を中断して彼の報告に耳を傾けた。
「急ぎの知らせか?申してみよ」
「はっ!聖地・マハバード周辺の村からの報告でございます!」
「聖地・マハバード・・・まさか!」
「邪教の聖地でございます!」
兵士よりその名を告げられた王様は苦い顔をした。
邪教と言えば問題児が集まり、その行動が目立っていたカルト集団だ。おまけにその教祖が、現在の世の中を騒がせているリターンズの幹部ときたもんだ。
(もしや・・・村が焼かれたか・・・最悪、一国落とされたかもしれぬな・・・)
王様は身構えた。
「続けよ」
目を閉じて、彼の口から告げられるであろう被害を想像し、背筋を凍らせる。
臣下たちも王様同様に報告を受けてからすぐに対策を練れるように、と準備していた。
「はっ!報告によれば一夜にして聖地マハバードが滅んだとのことです!原因は不明。わかっているのは住民の信徒たちの姿は一切確認できず、街の広場は半壊!激しい戦闘の痕跡がいくつも残っていたようです!」
予想に反する衝撃的な報告内容に王様は危うく腰を抜かしかけた。
「そ、それは真か!?」
机より身を乗り出して確認する。
「はい!教祖デスラー・ハウンドの消息も不明!現在周辺の警備隊で捜索中です!」
「いったい誰が」
王様の問いに答えたのはヘルメースであった。
「マルスくんだね」
「マルス・・・?エルバイス家の跡取りか?」
「うん、そうだね」
静かに微笑んで肯定する。
だが王様は彼の言うことをにわかには信じがたく、鵜呑みにはできなかった。
まだ学生の身分、四英傑でも序列の低い家系と色々理由はあるが、一番はやはり相手だ。
デスラーは運などで倒せる相手ではない。これまで様々な強者が挑んできたが、ことごとく返り討ちにあってきたのだ。ヘルメースの言うことだとしても、疑わずに信じろってのは無理がある。
「し、しかし、彼はまだシャーレットと同じく学院の一年生であろう?不可能だ。デスラーはリストのS級だぞ?お前ではないのだから・・・」
「いや、彼だよ。小生は彼が聖地に向かうのを見たんだよ、丁度休暇申請もしてた。これは疑いようのない真実だ。今はまだ知られていないけど、彼はデスラー討伐に見合った実力も兼ね備えているよ」
きっぱりと断言するヘルメース。
珍しく譲らない彼を見て王様はヘルメースを信じることにしたのであった。
「ふむ・・・」
ヘルメースはニヤリと笑う。
「アースガルズ王、彼に褒美を与えてほしい。デスラー討伐で周辺の国家が怯えていた危険因子を取り除いたのは大きいよ。王国としても鼻が高いだろう」
王様は悩む。
たしかに、アースガルズ王国の者がS級を倒したと広まれば周辺国家からの信用は上昇する。外交もこのカードを切ればアースガルズ王国有利に話は進む。もしもの際の援軍要請などの面で多少の融通も効くだろう。
「わかった。ではヘルメースよ、金貨二十枚でどうだ?わし個人のかんがえでは妥当だと思うのだが・・・」
王様の提示した報酬に周囲はざわついた。
金貨二十枚といったらそれなりの庭が付いたそれなりの家を一括購入してもお釣りが出る。一度の成果で出すには破格の報酬であった。
しかし、ヘルメースは首を縦に振らなかった。
「それだけだと弱いね。小生でさえも驚くほどに耳ざとい連中がわんさかといる、それが貴族だ。彼の力を知れば是がひでも手に入れたい輩は実力行使にでるよ」
「となると・・・爵位を上げるか」
エルバイス家のように領地を持つ者は爵位で格付けされる。しかし、領地を持たず王宮で王様に使える直臣たちは階位と呼ばれる格付けをされる。
アースガルズ王を最上位と定めて一位。二位上は王女であるシャーレット。二位下は王族続き大臣と、王様に近い者の位が高くなる仕組みだ。
王との謁見の権利が与えられるのは六位下からで、男爵家以上の家には自動的に与えられる権力となっている。
ヘルメースは三位上の地位にいるので、こうして気軽に王宮を訪ねて王と談笑できるのである。
「足りない、もう一つ必要だ。貴族のではない、王国の戦力として彼を保有させるだけの称号も与えるべきだね」
「さすがにまだ若すぎやしないか?」
「いいんじゃないかな?功績に年齢は関係ないからね。成功を収めた者が相応しい褒美を得るのは当然だ。今後彼背中を追って功績を上げようと努力する子も増えるかもしれないし、宣伝の意味も含めて妥当だと思うよ」
「じゃがなぁ・・・いきなり任命するのは王宮の保守派や公爵家が黙っとらんぞ?特にウルガンド家とかな・・・」
「保守派なんて小生たちがなにしてたって文句つけてくるじゃないか。今更耳を貸す意味がないよ。小生たちは最適だと思った決断・やり方を貫けばいいんだ」
包み隠さない物言いのヘルメースに臣下たちは冷や汗を流す。
「ヘルメース様、もう少し波風立たぬような言動を・・・」
「おっと、これは失敬」
ヘルメースは笑った。
反省するつもりも、言動を改める気も彼にはない。
王様は顎に手を当てる。
「・・・あいわかった。そこの者!後日、マルス・エルバイスを城へ招くのだ。王国内の貴族・・・国外の者もありったけ呼べ!叙勲式を開くぞ!」
「はっ!」
王様の一声で臣下たちは揃って準備に取りかかった。
貴族たちの日程の確認、送る書状の手配、式典終わりに開かれる晩餐会の食事で出されるコース料理の決定までやるべきことは山積みだ。
文官から大臣格まで王宮で仕える者たちは、準備に奔走するのであった。




