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束の間の平和

「はぁー・・・やっと終わった・・・」


苦戦を強いられつつもやっとのことでデスラーを倒した。


緊張が解けて一気に力が抜けてしまった俺は、その場にぺたんと尻もちをつく。


「お疲れ様ですマルス様。治癒をさせていただきますね?最善を尽くしますが、恐らく骨をくっつけるのは難しいと思いますのでご了承ください」


アテーネが駆け寄ってきて、俺の傍に腰を下ろすと右手を怪我した箇所に当てた。彼女の右手からは緑色の魔力が溢れ、俺の傷がみるみるうちに塞がっていく。


予め保険をかけて治癒を開始するアテーネ。


「デスラーの死体はどうしましょうか?」


「うーん、念の為に埋めとこ。こんな場所に死体を放置してたら大問題だ」


俺も敵といえども死体を放置して帰る程、畜生でもない。グロ耐性が低めな僕は遠距離から氷を使って、丁寧にバラバラにした後に地面に埋めた。


南無阿弥陀仏。


ん?この言葉で祈られても宗教違うし嬉しくないか。


「まあ、宗教の聖地が村人ごと壊滅した時点で問題になるのは避けられないですけどね」


アテーネが苦笑した。


俺は治癒される姿を心配そうに見守っていたテレンくんに話しかける。


「そうだ、テレンくんに聞きたいことがあるんだ」


「なんですかい?」


「このグランデルって神器なんだよね?」


「はい、そうですぜ」


「神器ってどんな効果があるの?今んとこはただ魔力を流しやすい頑丈な剣ってだけの認識なんだけどさ」


これが俺のグランデルに対する正直なレビューだ。神器って呼ばれてるんだから、特別な力とか 期待しちゃったせいで、どうも肩透かし感が拭えない。


「今はまだ、その時ではないのでさぁ。いずれあなた様が神器の力を必要とした時。必ず神器たちは応えてくれます」


俺が望んだ回答とはかけ離れたこの神器に関するフワッとした説明、どうも納得できない。デスラーとの戦いでも神器とやらの力を必要としたんだけどな、結構際どかったでしょ。一つ間違ってたら俺死んでたと思うんだよね。


テレンくんは満足そうに笑う。話に一区切りついた感じがする。僕はまだまだ聞きたい事があるのだけれど、既にそういう雰囲気は消え去っていた。


「あ、待ってもう一つだけ頼むよ」


「ええ、いくらでもお答えしやす」


俺は旅に出発した時より考えていた、いやそれ以前からずっと考えていたあることを尋ねた。


「・・・テレンくんは俺の家系に仕えてたって認識で合ってる?」


「ええ、その通りです。初代様に生み出された俺っちは五千年間。そしてこれからもエルバイス家に尽くすために存在してますぜ」


「じゃあさ、テレンくんは知ってるよな?」


「はい?」


「俺の母さんについて」


テレンくんの顔色が変わった気がした。


目を瞑りどう言葉を紡ぐか考えている様子。


これが俺が一番聞きたかったこと。どうして俺の母さんはいないのか。記憶すら残っていないのはさすがにおかしい。


生前の父さんに何回か聞いてたことがあったが、終ぞ教えてくれた試しがなかった。


「・・・すいやせん。それに関しては俺の口からはなんとも・・・」


「・・・」


「ですが、一つだけ言えます。マルス様の母上様はどこか遠くの地にて生活しておられますぜ」


ここにきての衝撃的な事実が発覚。


速報、俺の母さん生きてる件。


「えっ?生きてんの?」


「はい、ご存命であられます」


ふむ、つまりは俺を産んですぐに離婚したってわけか。


なんとも無責任な母親だ。まあ、別に大して困るような出来事もなかったし・・・いいや。探そうとも思わん。


あっちはあっちで楽しく生きてればいい。俺も俺で結構楽しくやってるからさ。相互不干渉で行こうじゃないか。


「そっか・・・でさ、話は変わるけど────」


満足した答えを得た俺は話題を変える。


それからは楽しい話題を選び三人で談笑した。


話に夢中になるあまり時間を忘れていた俺たち三人。気付けば太陽が真上に登るような時間帯となっていた。


「おお、もうこんな時間。あっという間だったね」


「もうちょっとお話してたかったですけど・・・しょうがないです」


アテーネが寂しそうに呟く。


今回は俺も彼女の意見に賛成だ。


「んじゃ、俺っちはこれで失礼しますぜ。マルス様、女神様。この度は本当にありがとうございました」


深々と頭を下げて礼を言うテレンくん。


「うん、こちらこそありがと。テレンくんはこれからどうするんだ?」


「おれっちはまた神器調査の旅に出ますぜ。この聖地来たのも、神器が隠されていると風の噂で耳にしましてね。ですが、デスラーの奴がおれっちたちが来るのを見越して既に対処してあったんでさ」


どこか遠くを眺める彼の目には、邪教の総本殿らしき建造物が映る。


「おれっちはまだ知らない事が多すぎる。いずれ訪れる大きな災いから世界を守る為にはもっと力もつけなきゃいけねぇ。世界にもまだまだ未開の地が山ほどあることですし、世界一周といきますぜ」


「そっか」


考えすぎじゃないかと思うけど妖精が考えるならそうなんだろう。


俺は頷いておいた。


テレンくんも豪快に笑って頷き返す。


「では、マルス様も女神様もお元気で!!」


「またねー!」


テレンくんの背が見えなくなるまで手を振って見送った。


大剣を背負って新たな旅路へとつくテレンくんは勇ましく、まさに王道バトル漫画の主人公のようだった。


「じゃあ、俺たちも帰るか」


重い腰を上げて帰る準備をする。


「そうですね。馬車内でまた勝負の続きでもしましょう」


「いいけど、お前また負けるぞ?」


「なっ・・・!こ、今度こそわたしが勝ちますよ!」


「いやぁー、無理だろ」


「見くびらないでください!絶対に勝ちます!いいでしょう、負けたらなんだって言うこと聞いてあげます!!これでどうですか?」


ムキになったアテーネが宣言する。


お、ラッキー!これで今日の酒とおつまみ買ってもらえるぞ!


「アテーネがそこまで言うなら仕方ない・・・負けた方が今日の酒とおつまみ奢りな?」


「くっ・・・!」


アテーネが歯を食いしばる。


彼女は葛藤しているのだ。強敵との戦いを終えた俺たちには自分で感じている以上に達成感がある。


だから今日は好きなだけ飲み食いしてパーッとやりたい気分。それをする為には食べ物と酒を買わなければならない。


当然出費もいつも以上に嵩む。


まだ自分たちの手で収入を得られない俺たちみたいな準男爵以下の貧乏学生にとってはかなり手痛いのだ。


「ほら、行くぞ。少しだけ馬車の中で眠りたいんだ。朝早かったからな」


「あ、待ってくださいよぉー!」


こうして俺たちは聖地・マハバードを後にした。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


結局馬車内での今夜の晩酌の奢りを賭けた真剣勝負は俺の圧勝で終わった。


王国に到着してからラウンズ武具店に向かう途中にあるお店で、ありったけの酒と食い物を買い込んだ俺とアテーネはようやく帰路についていた。


命のやり取りをしたおかげか随分と懐かしく感じる街の風景に心がほっこりとする。


「いやー勝った勝った。戦いにも勝って最高の気分だよ」


「うぅ・・・わたしのお金が・・・」


「なんだよ、お前が言い出しっぺだろ。文句言うな」


「わかりましたよ。今日はマルス様も頑張られたことですし、盛大にやりましょう」


「そうそう、そうこなくっちゃ」


「もう文句は言わないので荷物持つの手伝ってくれませんか?重いです」


上目遣いでアテーネは言う。


「お前は怪我人に荷物を持たせるのか?慈悲はないのか?元女神のくせして」


「元じゃないです!現在進行形で女神やってます!」


「あっそ、まあどっちにしろ無理だよ。俺片手折れてるし、剣二本持ってるからね。神器って結構重いんだ」


俺が折れた方の手をプラプラとされてみると彼女は言葉に詰まった。


そしてアテーネは諦めたのか、渋々と荷物を抱え直したのであった。



俺たちがラウンズ武具店に帰ると、ラウンズさんとメーガンさんは留守だった。


そこまでは別に不思議でもない。ラウンズ武具店は結構繁盛していて忙しいからね。


で、ここからが問題だ。


なぜだかシャーレットとフレイがエプロン姿で玄関に腕を組んで仁王立ちしていたのだ。


「おかえりマルス」


「おかえりないマルスくん」


暖かい出迎えの言葉だが、声のトーンは低く放つオーラは冷たい。


「あれ?なんでシャーレットとフレイいるんだ?ラウンズさんたちは?」


俺の問いにシャーレットは無表情で、フレイはただニコニコと笑みを浮かべるのみ。


「そんなのどうでもいいでしょ。それより・・」


「はい?」


「「わたしにする?ご飯にする?わたしにする?お風呂にする?それとも・・・わたしにする?」」


おお、状況が状況じゃなければ即答できるんだけどな。めちゃくちゃ”わたし”を強調して俺の顔を覗き込む彼女らに冷や汗が止まらない。


美人って怒ると怖いよね。


「えーと、おふたり共どうされました?」


アテーネがそろりと俺の背中から顔を出す。


「あら、アテーネ。今日も可愛いわね。マルスと二人でどこへ行ってたのかしら?まさかとは思うけど、抜け駆けじゃないでしょうね?」


冷たい笑顔のシャーレットに気圧されたアテーネに、俺は服の裾を引っ張られた。


「ん?なに」


「なに、じゃないですよ!この朴念仁!王女様とエルフのお偉いさんの娘さんに変な誤解されてます!助けてください!!」


朴念仁とは失敬な。


まるで俺が女の子二人に好意を寄せられているのに全く気付いていない鈍感系主人公みたいな言い草。


俺はどっかのラノベ主人公とは違って、しっかり女の子の気持ちを汲み取って、同時進行で攻略しようとしているだけの純粋無垢な男の子だぞ。


「シャーレットはかなりご機嫌斜めだな。フレイはまだ笑ってる分マシかもしんない」


「わたしはフレイ様の方が怖いです!目が笑ってないですもん・・・」


小声で会話をする俺とアテーネ。


不意にチラっと前方に目を向けたアテーネが


「ひっ!」


小さくアテーネが悲鳴を上げた。


女の子に対して悲鳴なんて失礼な奴だな。


俺は今の悲鳴を誤魔化す為に彼女たちの方へ振り返った。


「二人とも今のはアテーネの・・・・・・ひぃぃぃぃいっ!!」


振り向きざまに拝んだ二人の表情は、般若の如く。


「話は部屋で詳しく聞かせてもらいますね」


とフレイ。


「覚悟しときなさい。今日は寝かせないから」


ああ、願わくばもっと別のシチュエーションで聞きたかった台詞。


俺は心の中で十字を切って、目の前から飛んでくる拳が顔面にクリティカルヒットするのを待つのであった。

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