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教祖のご乱心

デスラーに告げられた邪神祭の開始時刻は午前三時。


招くんだったらもっと招待客を労った時間帯にしてくれよ。なんで貴重な青年期の睡眠を削ってまでカルト集団の祭りに行かなくちゃならないんだ。


俺もさ、一晩中考えてみたんだよ。可能な限りのプラス思考でね。早起きしてまで十中八九俺の命と神器とやらの刀を狙っているデスラーの元に、自ら行く自殺行為のメリットを。


考えに考え抜いた。授業で抜き打ちで行われた小テストよりも全神経を注いで考え込んだ。


その結果、メリットなんて皆無だった。


だから俺はもう深く考えないようにしたんだ。


前言撤回、成り行きに任せるのが一番。


といった具合でまだ朝日が昇らない真っ暗闇の中を俺たち三人は指定された会場へと歩いている。


人と比べて早起きが苦手な俺とアテーネは二人して目を擦りながらだ。とぼとぼと気の乗らない重めな足取りで徐々に広場へと近付いていく。



「マルス様、剣は持ってきましたか?」


部屋を出た時からずっと気を張っているテレンくん。


「うん、もちろん。どうして?」


俺は腰に携える絶剣・グランデルをそっと撫でた。


「念の為です。デスラーが突然仕掛けてくるかわからないので」


「考えすぎじゃない?」


「念には念をですぞ。おれっちの調査だとデスラーはかなりの強敵ですからな」


そりゃそうよね。


いかにも強そうな名前に、強烈な印象を与えるあの大きな鎌。


遠距離戦では氷柱でゴリ押しつつ、アテーネの援護射撃でデスラーを追い込む。トドメは・・・その時考えよう。


近接戦闘だとグランデルとブルートガングで対処できるか?でもな、絶対デスラーって近接戦得意だよね。鎌使う人と戦った経験ないからなんとも言えないけど。


「マルス様、確かに用心する越したことはないです。わたしも一応いつでも魔法の発動が可能なように杖の準備はしておきます」


真面目モードのアテーネが鞄から折り畳み式杖を取り出して組み立てている。


それいつ見ても羨ましい。


俺なんて腰に一本、背中に一本の剣を持ち運んでいる。神器なだけあって結構な重量のあるそれ二つは長距離移動には適さないし、殊更目立つ。


通常時はどっか異空間とかに閉まっといて、いざ必要になったら魔法陣から取り出せる。みたいな都合の良い魔法でも道具でもあればなぁ・・・まあ、あるわけない。


「もうすぐ着きます。気を引き締めてくだせぇ」


テレンくんの言葉に俺は背筋を伸ばし、右手で軽く剣の柄を握りしめた。


この角を曲がればそこが会場に示された広場。今から一時間も経つ頃には戦いは終わっているだろう。泣いても笑ってもこの先が運命の分かれ道。


再度手に力を入れて柄を握る。


小刻みに震えている体を深く呼吸をして落ち着かせた。


よし、大丈夫。思ったよりも冷静だ。


自分に言い聞かせた俺は角を曲がった。



「おお、すっごい」


「ビックリ仰天です・・・」


会場に到着した僕らを出迎えたのは、無数の棺桶であった。


四方八方には一列につき、十段以上ずつ積み上げられた棺桶。


黒く塗られたそれは信徒達が着ている死装束と同色。


たいまつが何本か置かれてはいるけど気休め程度だ。ただでさえ灯りが足りてない気味なのに、統一された黒一色のせいで余計に暗く感じる。


「ん?」


「マルス様、どうされました?」


「いやさ、なんか鉄臭くない?俺の鼻がおかしいのか?」


アテーネがクンクンと鼻をひくつかせる。


「んー?そうですね。何か匂いますね」


「だよな。結構強い匂いだと思うんだけど・・・」


周囲の信徒たちに視線を流すが、俺ら以外は誰も気に留めていない。


嫌な空気を感じつつも広場を進む。


「うわぁー・・・ここまでくると気味の悪さよりも神聖さが勝つな。どこ見ても棺桶ばっかじゃないか」


「テレンちゃん、これは意図的に作られてますよね?」


「ええ女神様。デスラーの奴が厄介なことでも企んでいるのかもしれませぬ」


険しい顔をするテレンくん。通常時でさえ厳つい顔が更に強ばっており、まるでヤクザみたいだ。


どこを向いても棺桶が視界を埋め尽くす異常な光景に圧倒されていると、広場の真ん中に集まっていた信徒たちが口を揃えて何かを唱え始めた。


『邪の心を持って、邪の道に生きる。さすれば邪神様に全てを委ね、あの御方よりこの世で再び生を得るであろう』


これが邪教の教え。


昨日の夜にテレンくんが”敵を倒すにはまず敵を知れ理論”で熱弁を奮っていたせいか、嫌でも脳裏に浮かんでくる。


怪しい教えの大合唱が夜の聖地に響き渡る。


棺桶が壁の役割を果たしているので声がこだましていた。


少なく見積って三百人は居るな。たぶんこの街の住人全員が集まっているみたいだ。ほんっと律儀なことで。


「あっ、マルス様。人が来ましたよ」


アテーネの声に促されて俺は顔を上げた。


「お待ちしておりましたマルス殿。教祖様より話は聞いております。どうぞこちらへ」


俺たちは案内されるがまま、事前に集団の真ん中に用意されていた椅子へと腰を下ろした。


かなり居心地が悪いが文句を言えるような雰囲気でもない為、我慢だ。


「邪神酒はもうお飲みになられましたか?美味しいですよ」


俺が椅子へ座るのを確認するや否や、間髪入れずに寄ってきてシュババババッ!!と目の前に差し出されるのは恒例の邪神酒。


その一連の動作は随分と慣れているように感じた。


「いえ、結構です」


丁重にお断りをさせていただく。


事ある毎に勧められるそれに気を取られていた俺。


気付けばステージには信徒の男が登壇していた。


「皆様ご注目ください!我らがデスラー様のご登場です!!拍手でのお迎えを!!!!」


途端に歓声が湧き上がる。老若男女問わず信徒達はパチパチと手を叩いて、デスラーの登場を待つ。口笛を吹き盛り上げる者もいた。


お誕生日会かな?


そして遂にデスラーが姿を現し、ステージへの段差をゆっくりと登った。


「「「デスラー!デスラー!デスラー!」」」


広場にはデスラーコールが始まり、会場のボルテージはぐんぐんと上昇していく。


うん、やっぱり宗教って怖いわ。今日を境にもう二度と、ぜってぇー関わらん。


デスラーは片手を上げた。そして円を描いて空気を掴むかのように握り込むと、デスラーの手の動きに合わせて信徒達は口を閉じ、広場は静まり返った。


指揮者が曲の最後にやる、はぁぁーいぃ!的なやつ。


デスラーの服装は昨日と変わらずに死装束姿。だけど着ている死装束の種類は昨日とは異なっていた。


胸元には大々的に文字が刻まれているのだ。


たいまつの火に照らされ、暗闇に浮かび上がるのは


”RaGNaRok”


ラ・・・グナ・・・ロク?ラグナロクってのは前世での神話で有名な神々と悪の世界の終末を架けた戦いの名称だ。


リターンズ、十焉星、そしてラグナロク・・・


関連性があるのか・・・は今の俺ではわからない。


しかし、頭の奥で引っかかる数々のキーワードは不思議と俺に重大なメッセージを伝えているのか、パズルのピースが徐々にハマって完成に近づいていく。


世界の裏で犇めき合う────


わけないよね。


うん、偶然偶然、ただの偶然だ。


ラグナロクって響きがカッチョいいからね。使いたくなる気持ちすんごいわかるわぁ~。



「今日、苦難を乗り越えて再び皆とこの邪神祭を開催できたこと誠に嬉しく思う。今宵のみ一時の間、信仰を忘れてみんなで楽しもうじゃないか」


デスラーの言葉を受けて周囲の信徒達は感激したのか、俺の耳には鼻をすする音や涙を拭う衣擦れ音が入ってくる。


俺らにとって胡散臭いデスラーの言葉は信徒ちにとっては感動の名台詞。


「さて、今日は俺の客人を招いたんだ。名高き四英傑の子孫マルス・エルバイスくん。みんな拍手で祝福してくれ」


デスラー登場時よりも控え目な拍手音。


ふいに横にいた信徒と目が合った。


どうでもいい、興味ない、みたいな感情が手に取る様に伝わる。


「今日は祝いの席だ。俺と同じく邪教を信仰する仲間を”使って”マルスくんをもてなそうと思う」


鋭く目を細めたデスラー。


言葉の真意を理解できていない信徒たちの間ではザワザワとどよめきが起こった。


「教祖様?我々を使うとは?」


信徒の一人が質問する。


「そこのお前、こっちに来い」


質問には答えずにデスラーは声を発した者を指名した。


事前に知らされていない信徒の男は首を傾げながらデスラーの横に立つ。


「協力感謝する。君と共に邪教を崇拝できた記憶は俺の中で残り続けからな、安心しろ」


意味深な発言をするデスラー。


デスラーの手が信徒の男の肩に触れた。


その瞬間、


「教祖様・・・?・・・っ・・・!!ぎぃやぁぁぁぁ!き、ぎょうぞぉざまぁぁぁ!?!!」


信徒は漆黒の業火に包まれた。

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