正教・・・?
正教の聖地・マハバトは、山を丸々二つぶんを切り抜いたかのような地形に、アースガルズ城と同等レベルに巨大な教会が建っており、遠方より足を運ぶ者たちに正教の持つ力を知らしめる。
そしてその下には綺麗な街並みが広がって、年中多くの観光客で賑わう一大観光地としても有名で。そこいらの小国では太刀打ちできないくらいに多くの収入を得ているらしい。
らしいんだけど・・・
妙だな。現在、俺の目の前に広がる景色は聞いていた話とは随分と異なっている。
ここは平野に栄える街。
空気は重く、全体的に暗い雰囲気の街並み。
街の大通りは主な割合を人間族が占めており、ごった返している。しかし異様な点が数点あり、俺らと同じく初めて聖地に訪れたであろう者から、元よりこの街に住んでいる者までが至る所でコップや杯を手にしてなにかを飲んでいたのだ。
住人は真っ黒に染まった死装束を着ていて、彼らの瞳には色がなかった。
そして特に異様なのが、街中の至る所に無造作に置かれた棺桶。
真ん中にドクロのようなマークが描かれた棺桶が数え切れないほどに右を向いても左を向いても、振り返っても大量に転がっている。
「マルス様あの酒は口にしないでください。嫌な感じがします」
アテーネがコソッと忠告する。
あれだけ泣きべそかいてたくせに変わり身の早い奴だな。
「名物の邪神酒はいかがですか~?」
胡散臭い笑みを貼り付けた信者の男性が近寄ってくる。
その手に持つのはどす黒いオーラを放つ酒らしき飲み物。
アテーネが険しい表情で言うのも頷けた。
「遠慮しときます。俺たち未成年なんで」
「いやいや、この酒はアルコール入ってないんで心配要らないですよ!」
いや、酒って言ってるがな。
「そこのお美しいお嬢さん!一杯どうですかな?」
「えっ?超絶美しいお姫様?ふふっ、仕方ないですね」
「おい、お世辞だ。バカ女神」
アテーネの頭をひっぱたいて場を離れる。
一度断った後も信者が代わる代わる執拗に声をかけてきて埒が明かなくなった俺とアテーネは、一旦室内に避難することに決めた。
「正教の奴らって想像以上に諦めが悪いな。思ってたのと違う」
「わたしもイメージしてたのとは随分と差がありますね。もっとこう・・・明るい王道なイメージでした」
誘いから逃れ、適当に路地裏をぶらつく。
「どうする?結構人も多いし、聞き込みするのも一苦労しそうだけど」
「そうですね。どこかに情報通が集まっている怪しいお店でもあればいいのですが」
「怪しいお店ねぇ─────おい、アテーネ」
「なんでしょう?」
「俺に宛があるぞ」
「どこですか?」
「酒場だよ、酒場!」
人探しには酒場へ行け、とゲームで得た知識から俺とアテーネはとりあえず酒場へを目指すことになった。