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出発、妖精ちゃん探しの旅!

ナリータとのデートから一週間が経過した。


俺と彼女はあの日以来、お互い授業や各々の友人関係がある為にあまり顔を合わせる機会は訪れなかった。


四日目くらいまでは言葉選びミスったか?とか服装がダサかったか?とか自身の過失を勘繰ったが、次第にどうでも良くなってきた。だって俺にはまだシャーレットやフレイがいるからね。他にも気になる女の子がたくさんいるし俺は俺で忙しいんだよ────的な考えをアテーネに打ち明けたらゴミを見るような目で引かれた。というか彼女は俺をゴミと認識していた。


あ、ちなみにアテーネには結局バレちゃったんだよ。あいつそういえば元女神だったからさ、女神特有のセンサーでわかるらしい。


なにからなにまで面倒な女だよね。




さあ、今日も今日とて剣術の授業がある。初授業を行ってからというもの、ほぼ毎日組み込まれるんだ。そろそろ飽きたしもっと別のことがやりたい。


そんな俺の気持ちに反して毎度おなじみ、対が始まった。


いつもなら俺は無理矢理シャーレットか、有無を言わさない圧力のフレイか、俺から率先して誘うワイドくんと組んでるんだけど、今日みたいな気の乗らない日は珍しく朝から登校したアテーネと組むようにしてる。


午前からぶっ通しで剣術の授業があったので疲労感が溜まっていた俺は、常に授業には不真面目な態度で臨むアテーネを誘って二人して先生の目を盗んでダラダラと木刀を振っていた。


こいつには気を遣わず素の態度で接することができるから楽でいい。サボりたい時はなにも言わなくてもアテーネは俺の傍に寄ってくるのだ。


こんな女だけどクラス内では人気者で男女問わず誘いが多い。


やっぱ世界は容姿至上主義なんだと思い知らされた。


俺以外の四英傑の跡取りたちもみんな揃って容姿が優れている。エルフ族のフレイは言わずもがな。同じ人間族のヴィーザルは国宝級イケメンだ。父親がめちゃくちゃ厳つい系の漢の中の漢なのに、息子は女と見間違うくらいの美青年。もう一人は獣人族なんだけど・・・まだ顔を見たことないからわかんない。


世の中不平等だよね、まったく嫌になる。


さあ、対の授業もそろそろ終わりに差し掛かった頃になった。


ずっと頭の隅に漂っていたほんの小さな疑問。


俺はそれをなんとなしにアテーネへ問いかけてみた。


「お前さ、俺が絶剣を取りに行った時どこからあんなくっさいセリフ出てきたんだ?自分で考えたのか?」


お互いのまるで力が篭ってない、ブレブレの剣筋をした木刀が交差する。


「違いますよ。元いた妖精ちゃんに一時的に役目を代わってもらったのです」


あくびをしながらアテーネは答えた。


サラリとぶっ込まれた事実。大きすぎた衝撃に思わず力を込めて木刀を振り下ろしてしまった。


「いったぁぁあ!!マルス様、なにをするんですか!?」


アテーネは頭を抑えてうずくまる。


が、そんなもん知ったこっちゃない。


「えっ、なに?お前、彼女の仕事を奪ったの?」


「奪ったとは人聞きの悪い。彼女?ああ、妖精ちゃんは旅に出てくると言ってましたね。出発する時にカンペくれたんですよ。人が来たらこれを読んでって」


アテーネは懐から一枚の紙を差し出した。


あ、ほんとだしっかり書いてある。このタイミングで目をうるうるさせるべし!とか。アテーネが言ったような覚えのある台詞などが一言一句間違いなく記されている。


こいつ女神のくせに丸パクリしたのかよ。


「ふーん、その妖精はどこにいんの?」


「たしか・・・正教って宗教団体の聖地に行くとか。旅行じゃないですか?」


「へぇー、そんなんだ」


「そうです」


「ねぇ、アテーネさんや。明日から暇ですかね?」


アテーネは答えない。


黙秘の構えを取るようだ。


「おい、アテーネ」


「・・・マルス様、肩にゴミがついてますわ。取って差し上げますね」


「あっそ、ありがと」


「いいえ、当然のことをしたまでです」


「・・・で、アテーネ」


「どうなさいましたか?」


あ、こいつ絶対俺が言おうとしてること理解してるわ。


「探しに行くぞ」


「ですが・・・学校が・・・」


「探しに、行くぞ」


「仰せのままに」


アテーネは折れた。


前世の引きこもり時代とは打って変わって、思いついたら即行動派の俺は放課後に職員室に行った。


四英傑の名前を出せばすんなりと許可された休学制度を利用して妖精ちゃん探しの旅に出発するのだ。


アテーネを連れて。


俺は四英傑の名前を使って公欠としたがアテーネはそうもいかない。


だが、こいつの出席日数は気にしない。


アテーネは多分出席日数の制度すら理解していないのだろうけど、俺は言わないでおいた。


どっちにしろ頻繁に遅刻をかましてるし今更だろ。


ちなみにシャーレットとフレイには黙って行く。


言ったら絶対に二人とも着いてくるからね。



ラウンズ夫婦には旅行とだけ説明した。俺がラウンズさんに、アテーネがメーガンさんにね。


ラウンズさんは「お前ら・・・ようやくか・・・」なんて嬉しそうに笑ってる。


メーガンさんに至っては「アテーネ、良かったわね!わたしはシャーレットやフレイもいいけどあなたたちが一番お似合いだと思ってたのよ!」と涙を流して感激していた。


それに対してアテーネは顔に引き攣った笑顔を貼り付けることでやり過ごした。


俺が無の感情で二人のやり取りを眺めているとラウンズさんがこっそり


「これ、お守りな!仲が良いのは歓迎だが、その歳で間違いだけは起こさないように気をつけろよ?」


と薄っぺらいゴム状のアレと、大人ならではの注意を添えて渡してきた。


俺は笑顔でそれを受け取る。何気に人生で初めて触れた。機会が機会じゃなければ興奮していたが、この時の俺は冷めていた。


夜中、三人が寝静まったのを確認して俺はラウンズ武具店を飛び出した。


そして向かうはゴミ捨て場。


俺の手に握られているのは薄いアレ。


「明日はゴミの回収日・・・」


大小様々なゴミが積み重なったそこに、俺はポイッとそれを放り投げた。


ラウンズさんが俺らを心配して渡してくれた避妊具。


特に俺の良心は痛まなかった。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


ケンネムルンの森へ向かった時と同様に異世界馬車に揺られること三日。


やはり退屈な時間を持て余していた俺とアテーネ。


「アテーネ、暇なんだけど」


俺はアテーネに愚痴った。


「わたしに言われましても・・・それにわたしも暇です」


「なんか暇潰しの道具とか持ってない?」


ダメ元で聞いてみる。


普段からポンコツな元女神がそんな気の利いた道具持ってるわけ・・・


「トランプありますよ」


持ってた。


「え?まじで。なんで持ってんの?」


「そりゃあ、旅とかなったら暇じゃないですか」


こいつ、遠足かなんかだと思ってるな。


馬車の予約やら何まで準備させ、提供してもらう立場だけど苦言を呈させていただく。


「もしや・・・UNOなんて・・・あるわけないよね?」


「ありますよ?」


やっぱり持ってた。


アテーネは次々と鞄から取り出す。


オセロ、将棋、すごろく、マージャンまで。


どこぞの猫型ロボットみたいだ。


玩具限定の。


「もうなんでもいいや。アテーネ、勝負するか?」


「ふふっ、受けて立ちますよ!」


俺とアテーネは数々の室内用玩具を挟んで睨み合った。


彼女の瞳は烈火の如く燃え盛る。


授業中には見られない真剣な眼差しだ。


「「いざ、尋常に勝負!!」」


マルスVSアテーネ。世紀の一戦の火蓋が今切って落とされた。





「マルス様、到着しました。降りますよ」


アテーネとの白熱したトランプバトルを制して満足した俺は気づけば寝てたらしい。


アテーネが俺の肩を揺すって起床を促す。


「着きました!正教の聖地・マハバトに!」


鼻息を荒く、窓の外を指差す。


「どうした張り切っちゃって。変な物食ったのか?」


「うふふ、ぶん殴りますよ?」


ワイバーン・クエストのお姫様の面を被ったアテーネが柔らかな笑みで告げてくる。


「遠慮しとくよ」


「もう!とにかく着きました!はやく降りましょう!」


やけに気合いの入っているアテーネに促され、俺は馬車を降りた。


爽やかな風が吹き抜け、寝起きの俺には心地よかった。


これが聖地の風か・・・


と黄昏ていた俺だが、


「おお、ここが聖地・マハバトかぁ・・・ん?」


視界の先に広がる景色に違和感を覚える。


「どうしました・・・あら?」


後から降りてきたアテーネも目の前の景色を見てポカンと口を開けて立ち尽くしている。


「ここが正教の聖地って言ってたよな?」


「ええ、そのはずですが・・・」


俺たちを出迎えたのは巨大な鬼の石像二体が向かい合った禍々しい門であった。

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