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三大公爵家

アースガルズ王は目の前で繰り広げられる口論に頭を抱えていた。


本日はアースガルズ王国剣術兼魔術指南役のヘルメースを招いての国際情勢、国家予算の振り分け、その他諸々を兼ねて重要な会議が開かれた。


会議が始まってから二時間弱で大半の議題は滞りなく消化され、残るは一つとなっていた。


しかし、その一つが大問題。


その議題というのは⋯


「だからあれほど口酸っぱく言っておったろう!!出る杭は打て!まだリターンズが小規模だったうちに壊滅させていればこれ程までに全世界に影響を与える国際テロ組織にまで成長しなかったはずだが!?」


机に資料を叩きつけるのは、アースガルズ近衛騎士団を統括する三大公爵家が一人、ライアス・ローンウェルだ。


正義感の塊な彼は会議が開催される度に、こうしてリターンズの名前を挙げ組織の壊滅を訴えてきた。しかし、王国はその訴えを長年退け続けていた。


「僭越ながら言わせていただくが、どこの国だって裏では動いておるのだぞ?奴らの戦力は既に一つの国として成り立つほどに強大なものとなっている。我々は慎重に動かなければならないのだ」


アースガルズ王の直臣であるボール・ドーラン右大臣が苦い表情をしながらライアスに言う。


王国は組織幹部らの力を恐れて後手後手に回っていた。だがそれも仕方のないことだ。一人で一国を落とす力を持つとされている奴らにどう立ち向かえば良いのか。倒したとしてもそれの代償として、いったいどれだけの犠牲を払う結果となるのか。


自らが戦場に赴いて軍の指揮を執り戦果だけを求める騎士とは違って、文官達は戦後の処理や遺族への対応に追われて忙しいのだ。


おいそれと戦を仕掛けては他国が攻めてくる可能性も考慮しなければないらない。


戦果を挙げて民から賞賛されるだけの彼らには理解できない悩みだろう。


「だから、俺はもっと初期の頃に動けと言ってるんだ。今更行動を起こしたところでもう遅いわ!」


口は悪いが彼は彼なりに王国を、民の安全を願っての発言。誰も彼を咎めるなんてできない。だからもどかしいのだ。


「そうだ!散々ライアス様の訴えを無視したのはどこのどいつだ!!既に組織の規模及び戦力は我々アースガルズ王国にも匹敵しうるのだぞ!!」


ライアス派の男がライアスに便乗して非難をする。


「そこまで言うのであれば貴様らが単独で動けば良かったのだ!アースガルズ騎士団を簡単に動かせると思っての発言か?万が一負けるようなことがあれば、他の種族にどうやって対抗する?人間族の武の象徴が負

けてはならぬのだ!!」


反論するのはいわゆる保守派と呼ばれる、最後の三大公爵家マーレン・ミルズのマーレン派の人間だ。


本日の会議にはマーレン・ミルズは参加していないが、真っ向から意見が対立する両陣営は会議が開かれる度にこうして討論に火花を散らせている。


しかし、このままでは一向に会議が進まない。


険悪な雰囲気に陥った室内を変えるべく、ある人物が口を挟んだ。


「まあまあ、落ち着いくださいライアス殿。小生も王国の対応が少し遅れ気味だったのは認めるけど、彼らの言い分もわかってあげてほしい。マーレン派の方々も、ライアス殿たちは王国を思っての叱責なのは理解してるだろう?」


宥めるのはヘルメース。


指南役として信頼を寄せる人間族最強に言われたら、ライアスとて矛を収めざる負えない。


「ふん!奴らは神器を狙っていると聞く。そんな代物を優勝商品として学院の青二才共に渡していいのか、ヘルメースよ。俺は反対だ」


「ライアス殿、それはあなたのご子息も含んでのお言葉かな?」


ヘルメースが揶揄うように言う。


「当然だ。あいつは素質はあるがまだ若い。幹部らと対峙したら十分もあれば殺されるだろう。」


ライアスの眉が一瞬ピクっと動く。それに伴い周りの文官達は身構えたが、彼は冷静に自分の息子の現在地を理解しており軽く流した。


「神器に関しては小生の方でも独自に調査はしておくよ。小生は当日席を外すけど、神器は彼が守ってくれるさ」


「ん?彼とは誰だ。以前よりお前が目をかけていると言うエルバイスの跡取りか?」


ライアスが問う。


「そうだね。彼は無限大の可能性を秘めた子だ。マルスくんなら幹部と対等に渡り合える」


ヘルメースが真面目に言うが、この会議に出席するライアスを始めライアス派もマーレン派も内心では話半分で聞いていた。


遥か昔より植え付けられた先入観を取っ払うのはヘルメースとしても至難の業。


彼らの心の内を見透かすヘルメースは思わず苦笑した。


「報告漏れなどはないな?なければこれで会議を終了とするが」


「お待ちを」


王が会議を締めようとする間際、ライアスが挙手をした。


「アースガルズ王、最後によろしいか?最近俺の元に妙な噂が入ってくるのだが⋯」


目配せをしてアースガルズ王に発言の許可を求めた。


王はただ頷いて彼の発言を許可する。


「俺が敷く情報網から入手したのだが、最近になってから王都に不審人物が紛れ込んでいると。そしてその人物らの侵入を先導している愚かな貴族の家があるとな」


斜め向かいに座る男に視線をやって言う。まるでその貴族こそが犯人だと指すように。


視線に気付いた男が目を細めた。


「ライアス殿、もしや俺を疑っているのか?同じ三大公爵家として信頼されていないとはな。俺は寂しいよ」


とぼけて言うのはクロノス・ウルガンド。モーガンの父親で特徴的な悪人面は親子揃ってだ。


「さあ、どうだろうな。少なくとも俺はその胡散臭い芝居は大っ嫌いだ」


「芝居とは酷いな。俺が犯罪者集団に手を貸すメリットがないだろ?」


「そうか?金銭だとか国を混乱させている間に国家転覆を図るとか・・・」


「これ以上バカの妄言に付き合ってられん。俺は退席させてもらう」


呆れて席を立つクロノス。


追撃するようにライアスは彼を罵った。


「逃げるのか?腰抜め。己に掛けられた疑いも自ら晴らさないまましっぽを巻いて逃げるような奴は三大公爵家の名折れ。これからは二大公爵家とでも名乗った方が得策だな」


「貴様、俺をウルガンド家を愚弄する気か?喧嘩ならいくらでも買ってやるぞ。丁度最近の山賊共は弱くてな腕が訛ってしょうがなかったんだ」


ライアスの煽りはクロノスの逆鱗に触れた。


「ああ、いいぞ。そろそろお前が腹底に鎮める野心を暴きたかったんだ。どちらが上か白黒つけようじゃないか。お前のとこのバカ息子も学院で悪名を轟かせているようだしな」


「俺は放任主義だ。愚息の振る舞いなど知ったことか」


お互いに殺気を放ち、冗談では済まない空気となる。


王様も国を支える公爵家には強く出れない為、途方に暮れていた。文官たちはアワアワしつつも、自分に飛び火しないよう目を逸らす。


見かねたヘルメースが仲裁に入った。


「二人とも、今身内で争って誰が得をするのかわからない程に頭は弱くないだろう?リターンズの思うつぼだよ」


「ちっ!」


クロノスは舌打ちをすると荒々しく席に座った。


「ヘルメースの言う通りだ。では各々、今後のリターンズの動向に注意しておけ。王国に刃を向ける者は断じて許さぬからな、心しておくように。これにて会議を閉幕とする」


アースガルズ王が急いでヘルメースに便乗して、場を収めた。


こうしてリターンズに対する具体的な対策案が出ないまま会議は終了を迎えたのであった。

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