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王女とエルフと悪徳貴族

遡ること一時間前。


入学式を控えた俺は仮下宿先から出発し徒歩で学院へと向かっていた。


そして特筆すべきイベントも起きずに学院の校門まで辿り着く。


晴れ渡る青空に耳を優しく駆け抜ける鳥のさえずり。入学式日和の素晴らしい穏やかな日に僕は感激した。


というのも、これまでの過酷な修行の日々からようやく抜け出せる解放感もあったのだろう。


とにかく俺の心は頭上に広がる広大な青空の如く澄み渡っていたのだ。


が、そう思ったのも束の間。校門をくぐった直後に心の中の青空にはどす黒い暗雲がたちこめる。


学院の敷地内に入ってすぐに、俺の視界に入った見覚えのあるシルエットが二人分。


「あなた・・・性懲りもなく、またマルスのことを馬鹿にしたわね?」


「はぁ!?言いがかりだ!俺様は事実を言ったまで。馬鹿になんぞしていないぞ!」


他生徒の好奇の視線なんざ意に介さず、激しい口論を繰り広げるのは俺と修行を共にした、現在片思い中の幼なじみであるシャーレット・アースガルズ。


そしてそして、シャーレットと相対するのは父さんの葬式で俺に絡んできた典型的な悪役貴族のモーガン・ウルガンドだ。


俺は足を止め考えた。


ここで変に間に割って入ると絶対にろくな結末を迎えない。だが、スルーして俺だけ先に行けば後にシャーレットに切り刻まれるだろう。


どっちを選択しようが大なり小なりのリスクは伴う。


ならば、優先すべきは自分の命だろう。


「シャーレッ」


俺がシャーレットに声をかけようと彼女の名を呼びかけたその時


「マルスくん!」


背後より自分の名前が重なって呼ばれた。


それは聞き覚えのある懐かしい声。


「この声は・・・フレイ!!」


振り向いたその先には五年前に共に戦った友達。フレイがいたのだ。少し大人びた顔つきになったが相変わらず美人で背丈も伸び、俺の目線が合うほどに成長していた。


が、成長していない箇所もあった。まあ、それは言わずもがなってことにしといてくれ。


「久しぶりだね」


「はい、お久しぶりです!」


はちきれんばかりの笑顔のフレイ。


「また会えるなんてね。偶然って凄いよな」


「言ったではありませんか。わたくしたちは再び出会う運命にあると。偶然だなんて寂しいこと言っちゃダメです。必然と言ってください」


拗ねたように頬を膨らませているが、彼女の口調は穏やかであった。


こんな感じで俺がフレイと談笑して心を和ませていると。


「マルスどうしたの?・・・あなたは!?」


こちらに気づいたシャーレットが近寄ってきた。


俺より先に動いたのはフレイであった。


「あら、シャーレット王女。お久しぶりですね」


どうやら顔見知りらしい。


「ええ、久しぶりねフレイ。二年ぶりだったかしら?」


「君たち知り合いなんだね」


「当たり前でしょ。マルスは知らないの?この子はあなたと同じ導勝の四英傑の跡取りなのよ?」


へ?


「ごめんなさいマルスくん。別に隠していたつもりはなかったのですよ。ただ言うタイミングがなかったのです」


てへっ、といたずらっ子みたいに舌を出すのはフレイ。


「改めて自己紹介させていただきます。わたくしの名はフレイ・サーペント。導勝の四英傑が一角、ライズ・サーペントの娘です」


くるっと一回転してお辞儀をするフレイ。一回転する意味が俺にはわからなかったけど、回転したせいで風でフワリと舞ったスカート。


俺はその瞬間、最大限に目を見開き、思春期男子なら誰もが気になるその先を拝めるというラッキースケベが起きたのでどうでもよかった。


「じゃあさ、フレイはなんで山賊に捕まってたの。あんなに強かったのに手下くらいほんの一捻りで倒せたでしょ?」


俺はフレイに問いかけた。


すると彼女は少し照れ気味に答えてくれた。


「あれは作戦だったのです。敵陣営の奥深くに潜入して一網打尽!作戦。わたくしは日頃から趣味として賊退治を嗜んでおりまして、偶には一風変わった作戦で山賊達を退治したいと思ったのです。それで閃いた作戦を実行しちゃいました。結果は・・・あれでしたけど」


なるほど。十歳でその作戦を実行に移すとはかなり大胆な女の子だね。しかも随分変わった趣味をお持ちのようで。まあ、考えてみればこれぐらいの気概がなきゃストームに一人で立ち向かえないし、一回離脱したのにまたスカイムの元に戻ってこれないか。


俺がフレイとの思い出に浸っていると、


「ちょっとマルス。今の話はなにかしら?あたし聞いてないんだけど」


鬼の形相をしたシャーレットが俺に詰め寄った。


「あら、シャーレット王女。それはさすがにあなたと言えどもお教えできないです。あの出来事はわたくしとマルスくん二人だけの秘密なのです」


火に油を注ぐフレイ。


「ふん!ごちゃごちゃうっさいわね。いいからどきなさい、まな板さん」


シャーレットのディスリにフレイの眉がピクっと動いた。


「あら誰がまな板ですって?私は着痩せするタイプなのです!」


フレイの返しにシャーレットは口に手を当て嘲笑う。


「着せやせ?何を言ってるのかしら、着痩せするタイプってのはあたしみたいな女性を指すのよ」


「な、なんですって!」


「ほら、マルスの視線を辿ってみなさい。彼がどこを見ているのか一目瞭然でしょ?あたしはねマルスが大好きな隠れ巨乳なのよ!」


速やかにシャーレットには、的確に人の性癖暴露行為をやめていただきたい。


「そ、そんな脂肪の塊になんの魅力があるのですか!女は細身!モデルスタイル!これに尽きます!」


「あら~見苦しいわねフレイ。あたしは太っているわけではなくてよ?ただマルスが大好きなボンキュッボン!なスタイルを持っているだけだわ」


「うぐ・・・!」


あ、フレイの目尻に涙が。


「はぁ・・・」


俺の目の前で飛び交う言葉の応酬。


シャーレットはそう言うけど、別にフレイはまな板ってわけでもない。スラッとしているだけで一応胸はある・・・と思う。


だが今はそんな細かいこと、彼女らにとってはどうでもいいんだ。


相手を負かせれば勝利。


相手が反論出来なくなるフレーズを言い放つことに全力を注ぎ、思考を巡らせているからね。


前世でネットサーフィンをしていた時に頻繁に目にした掲示板でのレスバトルみたいなもんだ。


「わたくしだって!・・・はっ!そうです、わたくしは五年前にマルスくんと出会い、感動的な別れをする際に彼と熱い抱擁を交わしたのです!つまりマルスくんはわたくしのことを好いてくれているのです!」


やめてくれそれ事実だから。


あっ言ってなかったけど、俺さぁ・・・フレイも好きになっちゃったんだよね。


てへぺろ。


うん、屑発言ってのは自覚してるさ。


でも仕方ないでしょうよ、モデル体型の超美人で清楚系なエルフちゃんと関わりを持っちゃったら惚れるなって言う方が無理があると思うんだ。


つまり不可抗力ってやつ。


それにねイーセカイでは一夫多妻制はおっけーだから前世で散々やり尽くしたギャルゲールートも選択可能ってわけよ。


タイプが異なる美少女二人が俺を取り合う・・・うーんいいね。実にいいよこの状況!


幸せを噛み締め、その余韻に浸っている俺の気分を害する者の声が飛ぶ。


「おい、お前たち!俺様を無視すんじゃねぇぇぇぇぇえ!!」


ちっ、すっかり存在を忘れてたのに。


そしてもう一人の乱入者が遅れて登場。


「マルス様ー!なんで起こしてくれなかったんですかぁぁぁあ!!!」


はあ、起きたか。遅刻しとけよ。


昨夜、明日は入学式だからちゃんと寝ろよ、と注意したのにも関わらず夜更かしを決行した元女神が息を切らせて走ってきた。


で、冒頭に至るってわけ。

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