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やはりあいつは面倒くさい

「君は誰?」


俺は尋ねる。


「わたしはこの泉の守護を仰せつかりました妖精・テーネ。遥か昔、この世界を闇で支配し大地を血で染めて世界を絶望の淵に落とそう、と目論んだ厄災たちを封印する際に生み出されたのです。あなた様を五千年もの間、ずっとお待ちしておりました」


少女は俺の頭のてっぺんからつま先までをまじまじと眺める。


まるで品定めでもするかのように。


そしてしばらくしてから満足したのか頷くと顔を綻ばせ満面の笑みで告げた。


「あなただったのですね。主様の仰っていた古より続く因縁を断ち切る者は・・・」


少女の榛色の瞳に溜まってゆく雫。それは次第にとめどなく溢れてゆき、ついには決壊。


キラリと光る涙が少女の真っ白な頬を伝って、それはやがて光の粒子となり弾け飛ぶ。


「どゆこと?」


「あなたは氷魔法の使い手。わたしの主人ヘイルダム・エルバイス以来の世界最強の称号を得るに相応しい人物なのです」


妖精ちゃんの言葉を脳内で噛み砕いて整理する。


俺の先祖が世界最強だって?なに寝ぼけたこと言ってんだろうこの妖精ちゃんは。


「いやいや冗談でしょ。だって俺の家系は万年第四席。四天王の中でも最弱な家系なんだぞ?そんな家系を作った先祖が世界最強とか有り得るか。それに氷魔法なんて本当に存在したかも怪しいやつを言われちゃ、余計に信憑性も薄まったぞ」


本当は自分が氷魔法を使えるのを知っているがなんとなく伏せておいた。


「わたしは嘘はつきません。記憶にないでしょうがあなたは昨日の戦闘で格上の敵に対し圧倒して勝利を手にしています」


「え?やっぱりあいつは俺が倒したん?」


「その通りです」


うっほー!異世界まじ最高!やっぱり俺が主人公なんだよ。誰だよ父さんと同じしょぼい水魔法使いになるとか言った奴は!?


こりゃあ、帰ったら早速父さんに報告しなきゃな。


「しかしですね、一つだけ欠点があるのです」


欠点?ふん、今の俺には返って他の人間たちとのハンデって思うくらい些細なことだ。さぁ、何でも言ってみなさい!


俺は何を言われたって動じないぞ!


「その欠点てのは?」


「あなたの魔力キャパは強力すぎる氷魔法によって大半が占められ、他の属性を使用するのは不可能に近いのです」


サラッと告げられる衝撃の事実。


うっそぉーん。待て待て、それはちょっと不味いんじゃないでしょうか?


「まじで?」


「はい、まじです」


「ホントのホントにガチで?」


「はい、ホントのホントにガチです」


一気に谷底に突き落とされた気分。


実はアースガルズ魔法学院にはクラス分け試験という大変ダルいものがあるのだ。使用した魔法の精度や威力を元にクラスが振り分けられる。強いから一番上のクラス、という単純な仕組みではないのだろうけど強いに越したことはない。


氷魔法しか使えないんじゃ俺はどうやって入学式後のクラス分け試験に挑めばいいのさ!試験では火、水、雷、風、土の低級魔法を放つと聞いている。どんなに元の属性の原型を留めていない魔法の使用者とて、起源になっている属性の低級魔法くらいは扱えるとの事なので、毎年不合格者なんてのは出ていないらしい。


「案ずることはありません。あなたは世界を救う選ばれし子。イーセカイの救世主となる人物なのです!」


妖精ちゃん、それはなんの慰めにも解決方法にもなっていない件について。


「ふふ、今はまだ大丈夫です。しかし、いずれそう遠くない未来に必ずあなたの前に・・・違いますね。平和を願う者たちの前に世界を終焉へと向かわせようと奴らは復活します」


「はぃ・・・」


「あなたは切り札なのです。初代エルバイス様が施された自封の魔法は遂にあなたで解かれました。五千年の時を経て、ようやく本来の力を発揮できるのです。歴代のエルバイス家当主の方々には悪いことをしましたが・・・これも全ては世界を救うためには致し方なかったのです」


「なるほど」


つまりどういう意味だ。


「油断だけはしてはいけません。奴らを率いる悪神は自身が封印される寸前、分身を創成して虎視眈々と封印を解こうと企んでいます」


妖精ちゃんは熱く俺に語りかける。


が、あいにく俺は上の空。


シャーレットしか友達がいない俺はなんとしても彼女と一緒のクラスに入らなければならないのに、急遽浮上してきた大問題のせいで頭がパンク寸前なのだ。


「マルス様、一つの封印は今年に入って解封されました。残り三つです。絶対に奴らの復活を阻止してください。主様が命を懸けてこの世界に猶予を下さったのです。幸運にも今の時代には悪を討つべし強者が揃っています。この世界に真の平和をもたらすには絶好の機会なのです!」


世界の危機以前に俺は理想の学生生活の大ピンチなのです。


「待ってよ。氷魔法以外使えないってのどうにかなんない?困るんだよ」


「申し訳ございません。こればっかりは・・・」


妖精ちゃんは俺から顔を逸らして言う。


しかし、俺は引き下がらない。


ここは奥の手を使おう。


俺は両膝を地面につけ手は三つ指で地面に添える。そして深々と額を地面スレスレに。


「君の力で助けてくれ!この通り!」


渾身の俺の土下座。なんちゃって貴族な俺にはプライドなんてものを持ち合わせちゃあいない。そんなもんは犬にでも食わせとけ。


少女は目を見開き黙り込んで俺を見詰める。若干その瞳が冷たくなっているようにも感じるが、俺の思い過ごしだろう。


少女が口を開いた。


「ネチネチ男のくせにうるさいですね。んなのわたしが知ったこっちゃないですよ。自分で解決してください」


「え?」


少女の口から発せられた乱暴で横暴な言葉に俺は耳を疑った。


「聞こえませんでしたか?もう一度言ってあげてもよろしくてよ?」


こいつ・・・


少女の態度の豹変ぶりに俺の脳裏に既視感が。


ん?待てよ。こいつみたいな女と、どっかで会ったことあるような・・・もしや。


「おい、クソ女神」


俺はかまをかける。


絶対に当たって欲しくない俺の予想。


だけど、現実ってもんは残酷なんだ。


「なんですって!女神たるわたしに対して無礼ですよ!それにマルス様、さっきからタメ口!前にも言いましたよね!?ほら、敬語を使いなさい!」


あ、ビンゴ。


「お前やっぱアテーネだろ!」


俺は基本的に初対面の人に対しては敬語を使うお利口さん。でもこいつにはなぜか敬語を使う気にならなかった。


つまりそういうことだったのか。


「ちっ!バレましたか・・・」


「女神が舌打ちするなよ。あ、でもお前はクソ女神もどきだからいっか」


「あー!またクソ女神って言いましたね!?しかも、もどきって!わたしは正真正銘、女神です!いい加減怒りますよ?女神の顔も三度までです!!」


「うるせぇ!それよりなんでお前こんなとこにいるんだよ!なんださっきの茶番は!」


「わたしだってこんなファンタジー的なイベントしたかったんです!あそこ凄い暇なんですよ!」


「知るか!俺がどんだけ苦労してると思ってんだ!」


「わたしだって知らないです。はい、ほらこれ。絶剣です」


適当に剣を魔法陣から取り出し手渡すアテーネ。


ほんとにこいつは・・・


「いやいや、お前さ。この世界にこれるんだったら自分で倒せよ!俺はいろいろ攻略しなきゃならない女の子がいて忙しいんだ!」


「ほんっとーに屑ですね。それと無理です。あの男はわたしの力を遥かに超えてもう対処できなくなってますから」


「凍らすぞお前!」


「ぷぷっ、魔法を使えないマルス様がわたしを凍らせる?昨日の夜散々練習してたのに結局成功しなかったのは、わたしの見間違いでしたか?」


「お、お前見てたのかよ!」


「ええ、バッチリです!」


クソ女が!


俺はどうしようもない羞恥心に駆られた。


例えるなら母親にソロプレイを見られた時みたいな。


「はぁ・・・もういいよ疲れた。他の魔法は諦める。んで、俺はいつになったら氷魔法使えるんだ?」


「最初からそう言えばいいのです。ほんと面倒臭い男ですね。その剣に触れれば使えますよ」


クソ女神の指示に従って俺は絶剣の柄を握る。


すると自分の中で何かが目覚めた気がした。


うん、試そ。


氷柱(つらら)


俺は魔法を唱えた。


俺の真横に出現した魔法陣から氷柱が伸びる。


・・・アテーネに向かって。


「うぎゃっ!危ないですね!気をつけなさい!」


なんとも色気のない声を上げるアテーネ。


「ちっ・・・外した」


「な!わざとですか!?わざとだったんですか!女の子に手を上げるとか最低です!」


「はぁ?手上げてませんけどぉー、氷伸ばしただけなんでけどぉー!」


「屁理屈です!だからいい歳こいて童貞拗らせてんですよ!」


女神のくせに非モテに対しての禁句を口にしやがった。


「ま、まだ十歳だし!ま、まだ大人の階段登っちゃダメな歳だし!」


「ふん!モテないからって年齢を言い訳にするとは・・・惨めですね」


「はぁ?だったらお前こそしょ」


俺も禁止ワードを口走りそうになったその時、アテーネの雰囲気が、ガラリと変わった。


「それ以上言ったらわたし・・・なにをしでかすか、わかりませんよ?」


俺はアテーネの威圧にすっかり怯む。


「もう止めよう、疲れた」


俺は一旦の休戦協定を持ち掛ける。


「右に同じです。では氷魔法も使えるようになりましたし、転生特典も手にしました。さあ、行きましょう!」


「は?」


「へ?」


両者顔を見合わせる。どっちも相手の意図を理解できていない。


「え、なにお前着いてくんの?」


「はい、もちろん?」


曇りなき眼なアテーネ。


まるで、私が正論で俺が間違ってるとでも言いたげな表情。


マジか・・・もうどうでもいっか。なるようになれ。


「勝手にしろ。あ、それと姿変えてくれないか?」


「お気に召しませんでしたか?」


「違う違う、いきなり妖精なんて連れて帰ったらみんながパニックになるだろ?だから、あんまし違和感のない姿になってほしいんだ」


「なるほど。では、変えます。ご要望はお聞きしますよ」


「うーん・・・・・・ワイバーン・クエストのお姫様で」


「ぷっ」


馬鹿にされた、絶対に馬鹿にされたな。


「では、マルス様のご希望に沿って」


七色の光に包まれたアテーネ。


発光が収まると俺の目の前には、あのお姫様・十歳バージョンのアテーネが現れた。


やっぱ可愛いな。


「ちなみにアテーネ。お前は馬車代あるの?」


「ありませんけど?逆に聞きますけど、持ってると思います?」


「うん、微塵も思わん。で、どうやって俺の家まで帰るんだ?」


「え?わたしの分も出してくださいよ。男なんだったら女性の分も払うのは当然ですよね」


「じゃあなアテーネ。俺は君との出会いを忘れない、必ずこの世界を救ってあげるからね」


「待ってぐださい!じ、冗談ですよ!お願い、ほんとに待っでぇぇぇ!」


俺の服の裾を掴み懇願する女神とやら。鼻水を垂らし涙も流す。ついでにヨダレも。


「はぁぁぁー、超めんどくせぇ・・・」


考えるのも煩わしくなった俺は顔を上げ天を仰いだのであった。

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