主人公覚醒!
「マルスくん、しっかりしてください!」
フレイはスカイムに腹を斬られ大量の血を流しながら壁へと激突して倒れたマルスの身を案じた。
遠目で見てもマルスはかなりの深手を負っているのがわかる。
一刻も早く目の前の敵を片付け、手当をしなければマルスの命はそう長くもたないだろう。
《月光連華》
フレイは力に任せ残りの魔力全てを使う勢いで連撃を放つ。
月夜に輝く神秘の剣。
洞窟内の灯りは消え、彼女の剣が周囲を照らす。
今のフレイがなせる最高到達地点技だ。
一段階レベルを落とした技にストームは全く着いて来れなかったからこの男に試す価値はあるはず、と彼女にしては珍しい楽観的な思考での一手であった。
しかし・・・
「おお~、頑張るなぁ~、でもなぁ~、これ一回見ちゃってるかなぁ~、効かねえよなぁ~」
スカイムは難無くフレイの剣を受け流し、余裕そのものであった。
あまりにもフレイとスカイムには力の差がありすぎた。
(無様ですね、自分の力を過信した結果がこのザマ。どうにかマルスくんだけでも助けたいのですが・・・)
「なんですか、あなた見てたんです?覗きはいけないことですよ」
「もう飽きたなぁ~そろそろ終わるかぁ~?」
フレイの精一杯の強がりをスカイムは無視すると、今度は怒涛の連撃をフレイに浴びせる。
フレイは死に物狂いでそれをギリギリで受け流す。
予想外の敵の出現、予想以上の敵の力。全ては自分の責任、たかが山賊だろうと甘くみて事前準備を怠った結果。そして終いには関係のない男の子まで巻き込み、今にもその命の灯火は消えかかっている。
様々な後悔が頭をよぎり、自分で自分自身を責め立てたフレイ。
自責の念に駆られ、不意に乱れた剣筋をスカイムは逃さない。
「はい~余所見したなぁ~」
わざとらしく奴は空振り、剣は地面にめり込む。
(はっ!しまった!?)
普段の彼女ならこの先の行動を呼んで対処するが、意識をマルスへと割くことで精彩を欠く今のフレイには奴の策に気づけなかった。
ギイィィィン!
鈍い金属音が響く。
宙を舞うのはフレイが手にしていたはずの剣。
スローモーションで進む世界に彼女の思考は停止状態に陥った。
スカイムが狙っていたのはフレイの剣だ。その風貌からは想像し難い奴の緻密な作戦にまんまと嵌められたわけだ。
そしてスカイムはフレイの懐に潜り込むと胴に手を添え・・・
《水爆弄》
唱えた瞬間。
魔法陣から飛び出した水球はフレイの胸元で弾け、爆発を引き起こした。
「ぐはぁぁ!」
防ぐ術を失い、魔法をもろに食らったフレイは壁に叩きつけられるとそのまま地面へと突っ伏した。
服は破け所々覗く肌は酷い火傷を負い、血が流れ出す。
痛い、熱い、死にたくない。
感情がごちゃ混ぜになりつつも必死に痛みを堪えて上体を起こす。
自慢の髪からは水が滴り落ち、地面に血液混じりの水溜まりを形成する。
「効いたかぁ~?こんな魔法見たことないだろうなぁ~なんたって俺が編み出した魔法だからなぁ~」
舐め回すようなスカイムの視線にフレイは嫌悪感を抱きつつも抵抗する力は残っていない。
今まで生きてきて同年代と兄弟に限定はするが負けたことは一度たりともなかった。
初めての敗北が死に直結する敗北とは、自分はなんと運が悪いのだろうか。
「あれぇ~?お前あれかぁ~エルフ族のあれだよなぁ~」
「そうですが、なにか?」
「お前の兄ちゃんはなぁ~いい性格してるよなぁ~俺は大嫌いだけど~」
「っ・・・!?あなたがなぜお兄様を知っているのですか!?どこですか・・・どこで知り合ったのですか!」
「さぁなぁ~?」
ケタケタと下品な笑い方をするスカイムに問いただすも、はぐらかすばかりでまともに取り合おうとしない。
恐らくこのまま続けてもスカイムは口を割らないだろう。
「一つだけお前に~教えてやるよォ~」
スカイムはフレイの耳元に顔を近づけると低く囁く。
「世界はなぁ~、お前も俺も~、思ってるより~、広いんだぜぇ~」
奴の剣が振り上げられ、ギラりと光る刃がフレイの最期の刻を知らせる。
万事休すというやつ。
敵を前にしてフレイは思わず目を瞑った────
がその刹那、辺りの空気が変わった。
急激に冷え込み、肌を刺すような寒さ感じる。
そして僅かにもスカイムの気配が怯んだような気がした。
精神的にも物理的にも変わった洞窟内の空気。
(空気が冷たい・・・だけど嫌じゃない・・・むしろ安心する・・・)
不思議と絶望感が薄れ、根拠の無い希望が心の底から湧き上がってきたフレイは恐る恐る目を開く、と奴も同様に驚きで固まっているのを確認。
だけども、どこか様子がおかしい。
フレイの動揺とは明らかに種類が異なり、奴の目は信じられない事に恐怖の色が含まれている。
精神的に少しだけ余裕がでてきたので周囲を見渡すフレイ。
すると驚くべき光景が目に飛び込む。
「えっ?」
なんと洞窟内の至るところが凍り付いていたのだ。
壁も地面もそして・・・
「く、くそぉ~!う、動かねぇ~!」
天井から伸びる氷柱がそのままスカイムの腕までを凍らせ、こいつの下半身は地面ごと氷塊となり完全に身動きを封じていたのだ。
ここは洞窟、そんな急激に温度が変化するはずない。
自然的要因とは考えにくい。
だとしたら、自ずと導き出される答えは人為的要因。
にわかには信じがたいけど発生源は考えうる限り一つだけ。
「この魔法・・・まさかマルスくんが?」
大きすぎた衝撃にフレイは危機的状況にも関わらず呆然としてしまった。
ただ彼を見詰めていると、立ち上がったマルスは顔を伏せたまま。
「フレイ。早くこの洞窟から出て」
と抑揚のない冷たい声でマルスはフレイに避難を促す。
不思議とフレイは彼の指示に従いたい、と感じた。
「わかりました。マルスくん・・・どうか無事に帰ってきてくださいね」
それだけを告げフレイは一目散に駆け出す。
彼の邪魔にならないようにと本能で感じていたのであった。




