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化粧をしていなくても、ラフな格好でも
黒曜石のような瞳に血色のある形の良い唇
長い黒髪を一本に結った女将はそれだけで美しい
「女将」
「美麗だ・・あんたどう思った?」
「名前も綺麗だなって・・」
「違う・・この世界を知りたいのだろう?」
「許せない、貴族というだけで何でも許されるなんて」
「あんたが見たのは、ほんの一部でしかない
この国は権力に逆らえない、貧富の差も男尊女卑も」
真剣なまなざしで遠くを見る美麗
「美麗さんがしようとしていること、私も手伝いたい」
「は?」
「アンジュさんから聞いた避妊薬、西の魔女として熱を出した子供に無償提供した薬
私を守ろうとして結界を張って閉じ込めたこと。それらすべて悪い人ができることじゃないと思うの
あなたがしようとしていることは、それらに関係していることではないの?
そのための駒だとしたら、私は喜んで手伝う」
にこりとした信頼の笑みを浮かべてくる葵に
美麗は真顔で答える
「あんたやっぱり馬鹿だ」
しゅっと首につんとした痛みが走る
「そんな簡単に人を信じるとすぐ死ぬよ」
美麗がすっと葵の首に傷をつける
「こんな脅しではだまされないよ」
向かい合う形で、どちらの視線も相手を射抜くように交わる
「何をしようとしているのか、全く検討もつかないけど
あなたは悪い人じゃないと思う」
揺るぎのない瞳で信頼を伝えてくる
頑固な葵に美麗のほうが先に折れた
西の芙蓉の屋敷
「葵ちゃんの姿がないですって?」
「な、嘘だろ・・」
母や父が青ざめた顔で蘭の話を聞く
「屋敷中探しても、使用人に聞いても誰もわからないんだ」
「なんてこと・・」
「蘭、どこまで調べた?」
「町のもいったけど、何の情報もない。今のところ事件や誘拐とも考えられない」
「自分から出て行ったというの?」
「落ち着け、ここが嫌で出て行ったわけではないだろう・・」
「なんか思いつめた顔はしてたよ、兄さんや父さんが怪我した後、王さまと会ってたみたいだし」
「菖蒲!それ本当か?」
「うん、砂漠で会ってたでしょ?芙蓉と王さま」
「あなた!!」
「砂漠にも探すよう伝えてくれ!」
父の指示で使用人たちが動く
「葵ちゃん、無事よね・・・」
「念のため王宮にも遣いをだしてくれ」
「あの子狙われてるのよね?今回の襲撃で怪我したことを責任感じて自分から出て行ったというの・・」
「大丈夫だ、今探してるから見つかるさ」
「何かあったらどうしましょう・・・」
母は今にも倒れそうだった
屋敷内はあわただしく葵の捜索で忙しかった




