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オアシスの外れにある屋敷へと続く道を歩く葵
ざわざわと揺れる木々たち
乾いた風がいつもと違う匂いを運んでくる
それは、屋敷の中からだった
走って屋敷へと足を踏み入れると
黒づくめの衣装に身をまとった男が数人いる
いかにも怪しい雰囲気のそれらは、父を縄で拘束し
芹は血がついた体をかばうようにして、現れた葵に近寄ろうとする
「こっちに来るな!!!!!!」
芹の声にびくりと体が反応する
葵は立ち止まった
芹が男の一人に蹴りを入れられ押さえつけられる
「兄さん!!!」
「姫さん、俺たちと一緒に来てもらおうか」
背の高い細身の男が葵に近づき
長い刃物をちらつかせ、腹にあてる仕草をする
「芙蓉!!」
「ダメだ!!芙蓉」
葵はぐっと腹に力を入れ、男を睨む
「何が目的ですか?」
「あんたを連れて来いって言われてるだけだ」
「ではなぜ、私の家族に怪我を?」
「ごちゃごちゃうるせなー!!」
男が刃物をすっと顔に近づける
それでも葵は怯まない
その場を動かずに、男を睨む
男はその気迫におされたのか、刃物をそれ以上振り回すことはしなかったが
少しだけ葵の頬をかすめ、うっすらと血が滲む
「芙蓉!!!!!!」
押さえつけられている芹が、もがきながら男を払いのけ
葵の前の男を吹っ飛ばした
葵を抱きしめる
「大丈夫か?」
「兄さん・・」
葵はぐっと抱きとめてくれた芹の腕につかまる
「私が目的なら、家族に手をださないで!」
葵の髪が風で巻き上がる
突然ふいた突風で男たちがバランスを崩して倒れる
緑の光がその場を包む
一瞬の眩しさで目がくらむと、その場にいるはずのない
翡翠が葵と芹の前に立っていた
「翡翠・・?」
翡翠は黒づくめの男たちに魔法を放つ
その緑色の閃光にあてられた男たちは
一瞬で気絶し、床に転がる
「大丈夫か・・?」
翡翠の顔を見た瞬間、床に崩れ落ちる葵に
慌てて近寄る翡翠と手を差し伸べる芹
その芹の手を取り、血が付いた服と怪我を確認する
「なんで・・?兄さん!!お父さん!!!!!」
使用人によって拘束を解かれた父に視線を向ける
「大丈夫だ、なんともない」
「なんともなくない!!怪我してるじゃない!!!お母さんは??菖蒲は??」
「落ち着け、芙蓉。みんな大丈夫だ」
葵は震えていた
「怪我してる・・」
「そんなのどうだっていい・・みんな、みんな・・ごめんなさい」
翡翠はぐっと葵は引き寄せ強めに抱きしめる
「大丈夫だ・・落ち着いて」
背中を優しくなでるその手つきが優しくて安堵する
徐々に震えがよくなってきている
「翡翠・・なんでここに?」
「約束しただろう・・守るって」
静かに葵から離れる翡翠と目が合う
「芙蓉!!」
母が葵の無事を確認するようにハグをする
「お母さん!!怪我してない?」
「大丈夫よ、芹が・・今手当受けてるわ。お父さんも大丈夫・・
ああ。。よかったわ。あなたが無事で」
母に心配されぎゅぅと抱きしめらるが
葵は申し訳なさでいっぱいだった
「私がいるせいで・・迷惑をかけてしまい、申し訳ありません」
母は困った顔をする
「王さま、葵ちゃんをよろしくお願いいたしますわ」
翡翠は静かにうなづいた
翡翠に頭を下げて、母は芹や父のところへ行った
「ちょっと来て・・」
翡翠に手を引かれ、来た先は砂漠だった
夜の砂漠は星が全面に輝き
人も植物も何もない
「座って」
座るように促されて
体育座りで砂に腰を下ろすと、その横に並んで翡翠が座る
「自分を責めてるんでしょ?」
「・・・なぜ私が狙われてるの?」
「芙蓉の死を望んでいるのは、東の貴族だ」
「東の・・?白蓮の実家?」
「そう・・」
「だからって、家族まで危害を加える必要ある?私だけを狙えばいいのに!」
「芙蓉は・・なにかしら東の不利な事を掴んでいたらしい。それを露見しないために芙蓉に手をかけた
けど葵がいる。だから、葵を追い詰めるその手段はえらばないってことだろう」
葵はぎゅっと自分の体を掴む
「芙蓉姫は・・?もしかしたらもう亡くなっているということ?」
翡翠は何も言わない
「そんな・・そんなことって・・」
葵の手に翡翠は自身の手を重ねる
「守る‥何があっても何に変えても必ず」
翡翠の手が熱い
「俺だけじゃない。芙蓉の家族もそう同じ気持ちで思ってる」
翡翠が頬の傷に右手で振れる
左手は葵の右手を掴んだまま
翡翠の顔が葵に近づく
「自分を傷つけないで欲しい、葵が傷つくことで心配する人たちがいることわかって」
左の耳に髪をかける
そっと傷ついた頬に翡翠はキスをした




