34
葵はとある家の扉の前に立っていた
「すみません、少しでいいので話を聞いてもらえませんか?」
シーンとして返事は帰ってこない
暫く扉の前に立っていると、ガチャリと鍵が開く音がするが扉に人の気配はない
「すみませんー」
そろそろてた開いた扉の中に葵が足を踏み入れると
ひゅっと風が直ぐ隣を通り抜け、すぐに扉の鍵がガチャリと勝手に閉まる
その様子を静かに見届けた後、さらに部屋の奥深くまで進む
奥の部屋に入った瞬間にぼっと自動的に火が灯る
葵がその幻想的ともいえる絵本の世界の魔法のような瞬間に心ときめかせていると
キラリと光る刃物が首筋目掛けて現れている
刃物の先には白い髪に腰が曲がった老婆がいた
「悲鳴の1つすらあげない小娘など面白くもなんともないわ」
「ごめんなさい、驚きすぎて声が出なかったんです」
「何しにここに来た?小娘」
刃物をしまいながら腰を曲げて暖炉へと向かい
手を掛けず、魔法を使いヤカンにお湯を沸かす老婆
「貴女が西の魔女ですか?」
「そう呼ばれているな・・」
「魔女さんにお願いがあってきました」
「儂に?わざわざオアシスの姫君が何用だね」
「私に魔法の使い方を教えてください!!」
「ほう・・?おまえさん、新王の妃ではないのか?
王の妃でオアシスの姫、王妃にでも選ばれれば、なんでも思うままだろう
魔力を儂から学びたいとは一体どういうことだ?」
「・・・」
葵は言葉に詰まった
いずれ、芙蓉が見つかったら
自分は妃ではいられない
魔力を自分の思う通りに使えたら今後生きていくのに困らないだろう
などと考えているなんて口がさせても言えない
葵がどうにかそれっぽい理由を首をかしげて探していると、老婆は何も言わずに動かない
やっぱりダメだったかと頭を下げたまま
葵が残念がっていると老婆が口を開く
「姫さん、あんた何でこの場所を知ってる?」
「父にそれとなく聞き出しました!!」
ぶっと老婆が噴き出す
何も面白いこと言ってないけどな
なんで笑ったんだろう?
葵はなぜ魔女が笑ったのか、わからなかった
「何ボサッと突っ立ってる、ホレこれを持って来なさい」
「はい!」
沸いたヤカンをもってくるようにと言われ
老婆についていくと、となりの部屋は天井につるされた薬草
床には大鍋、作業途中のさまざまな材料がちらかった机に
所せましの本棚に古い本など、いかにも魔女の部屋というところであり
ヤカンをもったままの葵はわぁ~と息を漏らす
ガチャンカシャン
派手な音を立ててヤカンや鍋などが転げ落ちる
「何やってんだいー!」
「すみません」
葵が周りに見惚れていたせいで、床にあった道具に気づかず
足を引っかけてしまっていた
遠くから避難する声が聞こえ、慌てて床に散らばったものを片付け
急ぎ足で魔女を追う
少し開けた半外の場所で
老魔女は薬草を煎じて薬を作る作業をはじめているようだ
鍋にお湯を張り、乾いた数種類の葉を加えて混ぜる
すると無色透明だったものが緑色に変わっていった
「スゴイ!本当に魔女だ」
キラキラした目でその作業をみている葵
「変な姫さまだ。おまえさんも魔力持ちなら魔女だろう」
緑になった液体は次の薬草を足したところで黒っぽくなり液体から固体に変わっていく
あれだけあった量が固まったことにより、とても小さいものになっていた
からんころんと鈴のような音がなる
魔女が扉に向かうと、若夫婦だろうか
西の服をまとった女の人が布にくるまった赤子を抱き
その後ろにいる男の人は心配そうに、赤子を指さして
魔女に説明をしている
どうやら高熱がでているらしい
薬や治療を頼みに来たようだった
葵は立っているだけで
手際よく魔女が赤子に薬を飲ませ、額に手を当て淡い光を放つ
赤子はすやすやと眠りにつき
若夫婦は安堵の表情を浮かべ深い感謝を伝えて行った
「報酬は受け取らないのですか?」
葵は老婆に訊ねる
「ここまで来るのは訳ありだ。おまえさんみたいに恵まれている奴ばかりではない」
椅子に座り視線をあわせることなく、そう言葉を放つ魔女
にこりとした顔で葵は魔女に挨拶をする
「ありがとうございます、また明日来ますね」
葵は、来た道を興味深くキョロキョロと見渡すようにして
魔女の館を後にした




