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芙蓉に与えられた部屋は
日当たりの良い大きな窓、外に出れるバルコニーから
見える景色は緑生い茂る綺麗に手入れされた庭
派手でも華美でもなく統一された家具たち
他の妃たちがどんな部屋に住んでいるかは知らないが
王から愛されているんだろうなと思うのは
それらが芙蓉の好みにそろえられているだろうということだ
その部屋で、葵は王を静かに待つ
扉のノックとともに開かれたその先には
金の髪に翡翠色の瞳の少年王が立っていた
「ごきげんよう」
マナー講座を学んだように少し膝を折り
お辞儀をして王を招きいれる
カーテンから差し込む日差しが、金の髪をより光らせる
「話したいとは?」
椅子に腰かけることもなく、視線を少しそらす翡翠をじっと見つめる葵
「私、葵といいます」
「うん」
「こことは違う世界から来ました!」
「うん・・」
別世界から来たというのに、驚きもしない
聞こえているのか聞いていないのかわわからないその反応に
葵はプチンと切れた
「ちょっと、話し聞いてんの?」
がしっと正面から頭を掴んで、視線を合わせる
「人の話を聞くときは態度ってもんがあるでしょう」
葵の行動にあっけにとられたような表情をする翡翠
「私、あなたのこと好きじゃないわ。でも協力する・・
芙蓉姫が見つかるまでは、よろしくお願いします」
翡翠の顔を両手でぎゅっと掴んだまま
真剣なまなざしで葵は翡翠を見る
かぁ~とカラスの鳴く声が聞こえ、窓の外を見ると
虹色のような色をした、カラスよりもずっと大きな尻尾が長い鳥が
優雅に飛んでいった
「え??何あの鳥?」
「あははっ」
翡翠は腹を抱えるようにして、大笑いしている
「え???なんで笑ってるの?」
「君は、面白い人だね」
「は?」
「芙蓉に似てる」
「はぁ・・どれはどうも・・」
葵の手をとり手の甲にキスをする翡翠
「え?何っ??」
突然の行動に動揺する葵
「よろしくお願いします。貴女の助けが必要です
少しお時間ありますか?」
「え、はい・・きゃあ~!!」
姫抱っこをして抱えられたと思ったら
下から風と眩しい緑の光が起こる
思わず、翡翠の首元にぎゅっと抱きついてしまった
それは一瞬だった
ぐっと体に圧がかかったと思った瞬間
景色が一変した
抱きかかえられたまま
ついた先は、森の中の誰もいない湖だった
優しく地面に下ろされる
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない・・ここはどこ?」
「昔、芙蓉とよく遊んだ場所」
「綺麗・・」
透き通るような水は不思議なピンク色だった
木に止まっているのは、見たこともない鳥
「芙蓉には悪いことしたと思ってる」
「何をしたの?」
「芙蓉の気持ちを利用したといえば、利用したということになる
それで失踪したのなら・・俺が悪い」
翡翠は目を伏せ、反省しているのだろうか
「あなたは芙蓉姫を愛していたの?」
宝石のような翡翠色の瞳は真っ直ぐに自分の瞳をとらえる
「好きだ・・俺には唯一無二の女」
自分が言われているのではないのに
好きだと言われているような錯覚に陥る
顔が赤くなるのが分かる
恥ずかしくて視線をそらした
「ごめん・・」
「それは何に対して謝ってるの?いうべきは私じゃない」
「約束しましょう、葵・・あなたを守ると」
顔を上げると真剣な表情の翡翠がいた
翡翠は葵の手をとり自身の小指を葵の指に絡めた
じわっと温かさを感じられる
蔦のように絡まり、キラキラと光を放つそれは
魔法
「じゃあ帰ろう」
翡翠は葵の手をとりぎゅっと握り
来た時と同じように転移魔法を使い城へともどった




