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「今日はここまでかな、みんなおつかれさま」
お日さまがかたむき始めたころ、レイさんが手をたたいてみんなの気を引いて言った。
「「ありがとうございました!!」」
えらいなあ、みんなちゃんとはきはきあいさつができてる。あらら、ロクトくんだけはむっつり顔のままでミレイちゃんにこづかれちゃってるけど。あ、まどの外に村の人たちが何人か集まってきてる。そっか、この子たちのおむかえか。
「サナさん、少しは気分がはれましたか?」
「気分がはれたっていうか、なんていうか・・・いろいろといい機会になりました」
子どもたちを外に連れ出しながら、レイさんはわたしにむかってふふっと笑った。
「お力になれたならよかった」
「レイちゃん、今日もおつかれさまねえ!!よかったら、このあとお茶によってかない?」
あ、朝ここに来るときにレイさんに話しかけてくれたおばちゃん。
「レイちゃんのお客さんだったかしら?せっかくだしいっしょにどう?」
「あ、わたしは・・・」
わたしがふりむいて、目があったそのとたん。話しかけてきたおばさんのにこにこと笑った顔から、その笑みが一瞬でひいた。まるで、水が一瞬で氷になって、はりつめるみたいに。
「あなた、その目の色は・・・」
・・・しまった!!日よけがさ・・・!!建物の中をふりかえると、日よけがさは座敷のさっきまですわってたところに転がったまま。
体が地面から生えた木みたいだった。心臓はむねの中でこわいくらいにあばれてるのに、指一本さえしばりつけられたように動かない。まばたきもできないまま、驚いている女の人の顔を見る。
「レイちゃん、どういうこと?朝はお客だっていってたけど、この子は・・・」
こっちに足をふみだした女の人からにげるみたいに、うつむいて必死に一歩後ずさろうとした、そのとき。
バチーン!!
「なっ!?」
顔を上げると、女の人は後ろによろけて、しりもちをつきそうになっているところだった。なんとかふみとどまったけど、その顔には、さっきにもましておどろきの色がうかんでいて。
――しまった!!と思ったときには、もうおそかった。
ミレイちゃん、ロクトくんに他のこどもたちも、目を見開いたり、体をこわばらせたり。
――魔法で、指をふれずに人をつきとばしちゃった。人間の前で、魔法を見せてしまった。そのことに気づいたとたん、かくかくとかたがふるえていることにも気づく。
サナさん、とレイさんの声が聞こえた気がしたけれど、考えるよりも先に体が動いた。
それ以上女の人や子どもたちの顔を見ることはないまま、わたしの足が、地面をけって。気がつくとわたしは、夕ぐれの村をひたすらひとけのないほうに走りつづけていた。