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「ここが・・・」
深くかぶった日よけがさの下から、わたしはぐるりとまわりを見わたす。
レイさんに連れられて外に出た先に広がっていたのは、のどかで青々とした農地だった。きらきらとした小さな川が、畑の間をぬうように流れて、育ちざかりの作物がゆったりと風にゆれる。そしてその作物の中のあちらこちらに、畑ではたらく人々の姿。
「魔法使いの村と、おんなじだ・・・」
畑のそばには家々が立ちならんで、人々があせを流してはたらいて。その光景は、ぱっと見は本当にあの村とおんなじで。
「すごい・・・きれい・・・」
「そうですか?気に入ってもらえたならよかったです。わたしはこれからお仕事だから、よかったらいっしょに行きましょうか。あ、日よけがさはちゃんとかぶってね」
「はい」
この日よけがさは、レイさんがかしてくれた。魔法使い(女の人は『魔女』って呼ばれたりもする)は、人間とはちょっと違うけれど、基本的にはよくにた種族。見た目では、瞳が赤いこと、耳の先がとがっていること、つめが銀色をしていてするどいことが人間とのちがい。でも人の血が入ってるわたしは、魔力は持っているし瞳も赤いけれど、耳はとがってないし、つめもまるいはだ色の人間のもの。だから日よけがさをかぶって目の色さえ目立たないようにすれば大丈夫だろうというのがレイさんからの提案だった。
畑の間の道を歩きながら、何人もの人から話しかけられた。
「レイさん、おはよう。・・・あら?その子は?」
「おはようございます。この子は私のお客です。せっかくだから村を見てもらおうと思って」
「そうなの。よろしくね」
「あ、はい・・・よろしくお願いします」
わたしはそのたびにどぎまぎして、日よけがさを深くかぶりなおしちゃったけど。
(近くで見ると、人間ってほんとうに魔女とはちがうんだ・・・)
まるい耳に、まるいつめ。わたしとおんなじ、その形。わたしの父さまは、本当にに人間だったんだ・・・わたしは本当に、半分人間なんだ・・・。
そんなことを考えてるうちに、わたしたちは小さな木づくりの建物の前にやってきた。
「着きましたよ。ここがわたしの仕事場です」
「「レイさーん!!」」
わたし、思わずかたがちょっとびくっ。だって、建物の中からわたしよりも年下の子どもたちが急に何人も飛び出してきたんだもの。
「レイさん、今日もよろしくお願いしまーす!!」
「レイさん、この人、だあれ?お客さん?」
ある子はにこにことレイさんを見上げて、またある子はわたしのを不思議そうに見る。
「はいはい、ちゃんと話してあげるから、まずは中に入りましょうね」
子どもたちを誘導するレイさんといっしょに建物の中に入ると、そこにははきものをぬいであがる座敷の上に、細長いつくえがいくつかならべられていた。
「わたしね、ここでこの村の子たちに読み書きとか計算を教えてるんです。それがわたしのこの村での役目ですね」
わたしのとなりで、ふふっとレイさんが笑う。
「ここは『かがやき堂』って村のみなさんから呼ばれてます。名前からはわかりにくいかもだけど、つまりこの村の学問所なんです」
「そうなんですか」
やがて子どもたちはそれぞれの席についた。
「この人はサナちゃんといって、わたしのお客さんなの。みんな、失礼のないようにね。――サナさん、日よけがさはとって大丈夫ですよ。この子たちは、まだ魔法使いについてよく知らないと思うから」
レイさんがそっと耳打ちしてくれたおかげで、わたしはちょっと安心できた。