ポンニチ怪談 その41 嘘なし演説
世襲三代目の若手イシババ氏の応援演説にきたアマリリ幹事長だったが、口をついてでたのは、今までにない本音で…
「ニホンの安定の与党、幹事長である、私、アマリリ、ジコウ党イシババくん当選のため、最後のお願いに参りました~」
選挙カーの上で、ジコウ党アマリリ幹事長はマイクを握っていた。
12時過ぎのオフィス街は、昼食をとるためビルからでてきた会社員たちで人通りが少し多くなっている。それでも、新型肺炎ウイルスの蔓延前よりはだいぶ少ないという。そのせいか、選挙演説を聞くために集まった聴衆もまばらだ。だが、
(く、くそ。本当に人がいない。サクラも動員したというが、ひょっとして、手配したアルバイトだけだというのか。ま、また私が来たせいだとか言われるのか。数年前に受け取った金の件か、秘書がUURを恫喝したあれか。バラされた上に野党のやつらに国会で追及され、なんとか病名をつけて入院したのはもうだいぶ前じゃないか。禊は、すんだはずなんだ)
見渡せばアマリリ幹事長や候補者のほうを向いている人々は数人しかいない。しかも、そのほとんどが退屈そうな顔だ。今にもあくびをしそうな初老の男性が目をこすっている。
だが、アマリリ幹事長は気を取り直し、演説を始めた。
「あー、皆さま。来る衆議院選挙にはぜひ、この…無能な三世の彼には票をいれてはいけませんよー。イシババ君は、ただの世襲ですから、実績もどうせないし~親御さんはまだ贔屓の土建屋に仕事をまわせるだけマシでしたけど~」
アマリリ幹事長は自分の口からでた言葉に耳を疑った。
(あれ?私、今。ほ、本音とはいえ、こ、こんなことを。か、彼の応援に来ているのに。彼を当選させるために来ているのに…。なんで貶めるようなことを言ってしまったんだ!)
隣の候補者もあっけにとられている。
「い、いえ、今のは、野党の対立…。候補のほうがすばらしいですよねえ。私、以前の収賄の件で、あの人に鋭い質問をされて、冷や冷やしてしまいましたよ。いつ、あの収賄の件がどれだけ追及されるかともう国会の会期中はドキドキで、うまく睡眠障害で入院できたときはホッとしました。逮捕とか、起訴とかそんなことになったら、嫌ですからね。まあ、入院でもしていれば、そのうち国民も忘れてくれるしねえ」
(な、なぜだ?ど、どうして私はこんなことを…。い、いくら、ほ、本当のことはいえ)
アマリリ幹事長の意に反し、聴衆は次第に耳を傾け始め、人も徐々に集まり始める。
“わ、やっぱり、本当だったんだな、仮病入院”
“なんだ、アマリリの告白か、吐けよ、吐けよ、全部吐け”
“詰まんないかと思ったら、なんか面白そう、オジサン政治家が悪いことばらしちゃうんだってえ。ツィートしようかなあ”
スマートフォンをいじるもの、アマリリ幹事長にスマートフォンを向けるものもいて、選挙スタッフが止めようとするが、うまくいかない。”
候補者であるイシババは顔引きつらせたまま、微動だにしない。坊ちゃん育ちでなにもかもおぜん立てしてもらっていたせいか、想定外の事態に対処できないらしい。
「か、幹事長、何を」
小声で叫びながら秘書が慌てて選挙カーの上にのぼろうとしている。だが、アマリリ幹事長は彼らを遮り
「わがジコウ党は今や隠蔽、汚職のオンパレード。今の首相だって世襲の操り人形なんですよー。私もそれに乗っかって、幹事長にさせていただきました。いや、野党の追及も渾身の訴えも、マスコミと検察の忖度でチャラになりましたからね。国民の皆様もすっかり忘れちゃったんでしょ、怒ってないんでしょう、いくら私たちが不正をしても。それでいいんです。国民の皆様が無気力で、我々をヨイショするテレビ漬けになっていただければ、最高なんです。格差上等、自分で何とかしましょう。勤勉で真面目にやってもダメなのはあなたが悪くて政治が悪いんじゃないと洗脳され続けてください。我々に票を入れ続け、税金を吸い上げられ続けてほしいって、我々ジコウ党は思っているんですよ。酷いでしょ、私たち。でもそういうのに票を入れ続けているのは、あなたたちなんですよー。このイシババ君なんか、親子二代どころか、三代まで甘い汁を吸おうっていうんですから、アマリリの名をもつ私もびっくりです」
すらすらと隠し続けた本音を言い続けるアマリリ幹事長。
真っ青になった候補者のイシババ。さすがにこのままではいけないと思ったのか、アマリリ幹事長からマイクを奪い取ろうとした。アマリリ幹事長はその手を乱暴に払いのける。イシババはバランスを崩し
ドスン
鈍い音をたてて、地面に落ちた。
灰色のコンクリートの上にみるみる赤い血だまりができる。
「きゃあああ!」
「こ、候補者が落ちた!」
「きゅ、救急車を!」
選挙スタッフがあわてて、スマートフォンを取り出した。アマリリ幹事長の秘書とイシババの秘書は無理にでも選挙カーの上のアマリリ幹事長をとめようと急いで選挙カーによじ登る。
「か、幹事長なんてことを!」
「ま、まさかメイジの党のヨジムラとマツイダのように殺し合いをするつもりじゃ…」
秘書たちが腕を掴もうとするのを振り切り
「ああ、私、やってしまいました…。でも、スッキリですね。彼もまた当選したら政党助成金を使い放題、ドリル姫いわれたオオブチ組織運動本部長みたいに不正をやりまくるんです。ジコウ党はそんなもんです。失言王アトウダさんや前前総理アベノノさんと私がどっしり構えて自分たちの利益誘導やりまくりなんですよ、秘書も怒鳴るし…。ああ、この間どっちが嘘つきかで殴り合いして挙句、大乱闘で死傷者多数のオーサカのメイジの党よりは暴力的じゃないですけどねえ。あそこもいい加減なことばかりいって。いや野党のふりして我々ジコウ党の意向をいろいろ組んで、動いてくれたから、あまり言いすぎちゃいけませんね。でも、やっぱり暴力はだめですねえ、府知事と市長が殺し合いなんて怖い…。でも、私もイシババ君を落としちゃいましたらね、責任とりますか」
言い終わらないうちにアマリリ幹事長は選挙カーからダイブした。地面に激突するまでの数秒
(し、死にたくない!こ、こんなことしたくないのに!な、なんで!)
声にならない叫びをあげるアマリリ幹事長の頭に
“嘘ばっかりついてた報いだよ、メイジの党の人たちもね。最後に本音を言って…責任をとろうね、嘘ついた。ジコウ党は、まずアマリリさん、貴方から”
声が響いた。同時にアマリリ幹事長は事切れた。
どこぞの国では選挙まっさかりですが、かなりデマすれすれのいい加減なことを与党政治家の重鎮さんがのたまっているという驚きの事態になっているようですね。しかも誤りと指摘されても謝らず、副総理とか幹部が足をひっぱりまくり。まあ、自滅して猛省して言動を改めていただければ、いいのでしょうが、果たしてどうなるんでしょうね。