第九話
「エリス殿、そなたに聞きたいことがあるのだが。よいか?」
デルバニア国王に呼ばれた私は王宮の謁見の間にて頭を下げていました。
既にアルフォンス様から婚約の申し出があって三日が過ぎています。
彼に一週間の猶予を頂いてずっと頭を悩ませていますが、未だに結論がまとまりません。
国王陛下、改まって私に聞きたいことと仰っていますが何のお話でしょう。
「アナスタシア、そなたが養子に取ったという娘だが――アイリーンとロバートの子だという噂を聞いてな」
「…………」
アナスタシアの出自が国王陛下に伝わった?
どういうことでしょうか。確かにアナスタシアの顔をよく見ればあの二人の面影はなくもないですが……。
だとしても、それが噂になって国王陛下に届くほどかといえば疑問です。
使用人たちから漏れたとなるともっと早い時期でないと変ですし……。
「黙っているところをみると真らしいな……」
「いえ、あの子は私の娘です。乳飲み子の時期からずっと私が育てましたから」
「そして今は二歳か。ロバートとアイリーンが子を成したと王都に現れたのも二年前だった。エリス殿に子供の世話を頼んだのだったな」
国王陛下は確信を持っています。
噂で聞いたというのは嘘でしょう。
恐らくは何らかのタレコミがあったか……。
「ワシはアイリーンを愛しておった。アルフォンス殿に嫁がせることすら憚るほどに、な。そなたの元夫であるロバートは愛する娘を穢した。その穢れの結晶がアナスタシアだと思うと……ワシはその存在が許せぬ。決して許すことが出来ぬ……」
国王陛下の威圧感が増しています。
目は憎悪に満ちており、私を射殺さんばかりの眼力で睨みつけ――声はかすかに震えていました。
ああ、この方は私のことを……いやアナスタシアのことを本気で憎んでいる。
「……だが、エリス殿には感謝しておる。夫を失ってもなお、この国のために聖女として尽力してくれた。それは忘れておらん」
「…………」
「アナスタシアをワシに差し出せ。それでエリス殿の罪は問わぬ」
これが国王陛下なりの妥協案なのでしょう。
アナスタシアを手にして何をするつもりなのか、容易に想像がつきます。
娘を渡せば命はない……。それは間違いありません。
この時点で私の覚悟は決まりました。
隣国に逃げようと。アルフォンス様を頼りにして、何とか娘だけでも助けて頂こうとそう決めたのです。
「最後に娘と話をさせてください……」
「ふむ。よかろう……。今生の別れになるやもしれぬからな」
この場では陛下に従うフリをして、私は王宮を出ました。
まさか、ロバートやアイリーン様のように逃亡者になるとは――
いえ、あの時の私はこういった運命を予感していたのかもしれません。
それを覚悟した上でアナスタシアを育てようと決めたのではないか。
とにかく、時は一刻を争います。早く戻らねば……。
私は急いでアナスタシアの元に向かいました。
しかし、家につくとそこには最低の来客がおりました。
「やぁ、エリス。またしばらくぶりだね」
「娘を返してもらいに来ましたよ。どこに隠したのかしら?」
ロバートとアイリーンが家の中にいて、使用人たちや両親が倒れています。
アナスタシアを連れ戻しにきた? しかし、娘が居ないというのはどういうことでしょうか?
心の中のざわめきが止まらなくなりました――




