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第六話

「ほんぎゃあ、ほんぎゃあ! ふええええん!」


「と、とにかく、赤ん坊をこのままにしておく訳には……」

「畏まりました。それでは、私が」


 使用人のジョセフが私の言葉に従って赤子が包まれた布ごと抱き上げて、家の中に連れていきます。

 

 この子はまさか……。


 先日のロバートとの会話を思い出して身震いしながら、私は手紙を開きました。


『エリスさん、お久しぶりです。昨日はウチのロバートが失礼をしたみたいで。でも、ちょっとショックでした。エリスさんなら喜んで私たちの子供を可愛がってくれると思いましたのに。最近、夜泣きが煩くて、眠れないし目立つし、面倒ごとが多いので是非ともエリスさんに手伝って貰いたかったのですが――』


「こ、これはアイリーン様からの手紙……」


 アイリーン様の手紙からは如何に赤子を育てることに苦労しているかということと、逃亡生活をする上で枷になっているから、私に手伝って貰おうと思っていたのに、拒否されたことがショックだったということが綴られていました。


『そこで、良いことを思い付きましたの。わたくしたちの子供がどれだけ可愛いか知ってくれたら、きっとエリスさんの気も変わるはずです。なので、アナスタシアを暫くエリスさんにお貸して差し上げます。遠慮なさらずに可愛がって下さい。そのうち引き取りに行きますから』


「なっ……!?」


 あまりにも身勝手な手紙の内容に私は言葉を失ってしまいました。

 赤子には罪はありませんが、これはあまりにも酷すぎます。


 至急、国王陛下に伝えねばなりません。


『お父様にはご内密に。ロバートのことを怒ってますから、アナスタシアのことも許さないでしょう。エリスさんは小さな赤ちゃんが自分のせいで殺されるのを望むような方では無いと分かっていますわ。念の為に孤児院から養子を取ったことにしておいても良いかもしれませんわね。それでは良い子育て経験を……』


 構うものですか。

 私のせいで赤子が死ぬですって?

 いくら国王陛下がロバートを恨んでいるからって、ご自分の孫を殺したりはしないでしょう。

 

 アイリーン様、あなたの思い通りには動きませんよ。

 育児放棄して、よりによって私に子供を託したことを後悔するといいです。




「エリスお嬢様、それでこの子はまさかロバート殿とアイリーン様の――」

「すー、すー」


 ジョセフがベッドで寝ているアナスタシアについて小声で私に尋ねます。

 ちょうど、父と母は先月から辺境に旅行に行っていましたので、家には私と数名の使用人たちしかいません。

 

「ええ、そう……」


 ――私のせいでこの子が殺される?


「……ではなくてですね。ちょうど養子を取ろうと思っていまして。孤児院と話をしていたのです」

 

「な、なんと。しかし、非常識な孤児院ですね。こんなに……小さな赤ちゃんを放置して行くなんて信じられないですよ」


「そうですね。その点については後日抗議しておきます」


「……それにしても、随分と顔立ちが整っていますね。こりゃあ、美人さんになりますぞ」


 アイリーンは近隣の国にも知れ渡るほど容姿の美しさが際立っていて、国王陛下も溺愛しておりました。

 ロバートも目鼻立ちはくっきりとしていて、整った容姿と言えなくもないです。

 確かにあの二人の子なら、整った容姿に成長するでしょう。


「ううっ、ふええええん!」


「エリス様、私はこの子の乳母になれる者を早急に探してきます。暫く見ていてください」


 アナスタシアは再び泣き声を上げ、ジョセフはこの子を家で育てる為の準備をすると奔走しました。

 

「あ、温かい……」


 この子の体温を感じると、何としてでも守らなくては……という気持ちも湧いてきました。

 間違った選択なのかもしれません。

 しかしながら、ロバートとアイリーン様にこの子を渡してはならないと……本能的に感じ取ってしまったのです。


 アナスタシアは私が守りながら育て上げてみせる。

 彼女の小さな体を抱きながら、私はそう決意しました――。

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