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第五話

「聖女エリス、近衛隊長からロバートと会ったと聞いたがそれは(まこと)か?」


 ロバートに逃げられてしまった私は兵士たちの治療を終えて王宮へ報告に向かいました。

 王宮に辿り着くと国王陛下が直々に私の話を聞きたいと仰せになりましたので、謁見の間で陛下と対面します。

  

 バルバトス・デルバニア――王女エリザベートと王女アイリーンの父親で、ロバートの件で最も怒りを覚えていた人物です。


「事実です。大型のドラゴンの動きすら封じる呪縛光鎖(ホーリーロック)をいとも簡単に打ち破り、逃亡しました。私の不徳と致すところです。何なりと処分を言い渡して下さい」


 私は頭を上げることが出来ませんでした。

 ロバートを一般人だと侮って、無傷で捕らえようとしたこと。彼の力を目の当たりにして、動けずに兵士たちを傷付けてしまったこと。

 こんな失態は聖女になって初めてです。

 元夫の豹変ぶりに少なからず動揺したのかもしれません。



「いや、あやつが人ならざる力を得ていることを話していなかったワシが悪いのだ。デルバニア王家に伝わる秘薬――“勇者の血”。我が娘、アイリーンは宝物庫よりそれを盗み出し、ロバートにそれを飲ませた」


「“勇者の血”……ですか?」


「左様。初代デルバニア国王は人並外れた剛力を以って建国を成し遂げた。さらに初代国王は自らの血に特殊な薬品を混ぜて、その力を封印した秘薬を創り出したのだ。それが“勇者の血”である」


 初代国王の神話は子供でも知っています。

 曰く、たった一人で千人の騎馬隊を相手にしても勝利したとか。

 神通力と言えるほどの力を以ってして、鍛冶屋の息子に過ぎなかった男が一代にして建国を成し遂げた話は俄に信じられない寓話として語り継がれているのです。


「確かにロバートはアイリーン様から愛を受け取ったと言っていましたが……」


「“勇者の血”にデルバニア王家直系の人間の血を混ぜると力の封印が解けるという言い伝えがある。それを飲み干すと初代国王の力を得ることが出来るとも。ロバートはアイリーンの血と“勇者の血”の混合物を飲み、力を得たのだろう。秘薬の存在は秘匿せねばならんので、黙っておったがエリス殿には伝えるべきだったかもしれぬ」


 つまり今のロバートには神通力を持っていたと言われる初代国王と同等の力を有しているということですか。

 それならば、あの力の大きさは納得出来ます。

 結界術を破り、一瞬で武器を持った近衛兵を倒したロバートははっきり言って異常でしたから。


「しかし、そのような力があるならば……今さら私を頼ろうとした理由が分かりません。彼はアイリーン様とロバートの間に生まれた赤子を共に育てたいと口にしました」


「なっ……!? あ、アイリーンとロバートに子が宿った?」


 順番を間違えました。

 そういえば、国王陛下にアイリーン様が子を生したことは伝えていませんでしたね……。


 国王陛下は拳を握りしめてワナワナと震えています。


「いや、済まぬ。少々動揺した。“勇者の血”には、な。制限時間があるのだ。アレは強靭な肉体を持つ初代国王だからこそ完全に操ることが出来た。特別に鍛えられた人間でないロバートでは五分も経てば体が持たんだろう」


「五分……ですか?」


「つまり、乳飲み子を抱えたアイリーンを守りきれなくなっておると考えるのが自然だのう。だからとて、別れた元妻であるエリス殿を頼るというのは常軌を逸しているが……。エリス殿は聖女ゆえ、治癒術や結界術といった逃亡に適した力を持っておるからな」


 なるほど。時限式の力でしたか……。少しだけ安心しました。

 確かに赤子を抱えて逃亡生活は難しいかもしれませんね。

 それにしても、私がロバートに未だに好意を持っていると信じていたのにはびっくりしました。

 彼は力を得て、倫理観から変わってしまったのでしょうか……。


「とにかく、ロバートがいるのならアイリーンも近くにいよう。エリス殿も辛いかもしれんが、捕縛を手伝って貰えるとありがたい……」


「それが聖女としての責務ならば果たします」


「うむ。頼んだぞ」


 こうして、ロバートとの二年ぶりの再会を報告した私は家に戻りました。

 そして……翌日の朝。事件は起こります――。




「エリスお嬢様……、これは一体……」


「なぜ、我が家の前に赤ん坊が……」


 一通の手紙とともに布に包まれた赤子が玄関の前に置かれていました。

 誰がこのようなことを……、という疑問の答えがすぐに頭に浮かんだのと同時に無性に怒りが込み上げてきました――。

 


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