第一話
12/15から、六日間連続で毎日【完結作品】を投稿しています。
今日はその四作品目となります。
勝手に始めてる企画も折り返し地点。全部読んでもらえると嬉しいです!
「エリス殿、落ち着いて聞いて下さい。あなたの夫が、ロバート殿が、王女アイリーン様を連れて逃げました」
目の前の景色が一瞬で黒く塗り潰されました。
近衛兵のジョーが今朝から夫のロバートの姿が見えない理由を話したからです。
今日はこの国の第二王女アイリーン様と隣国の第三王子であるアルフォンス様の婚姻の儀式の日。
両国の王族が親睦を深める為の大事な結婚ということで、盛大な式典が用意されていたとのことです。
夫のロバートはアイリーン様の幼馴染でしたので、友人として式典に出席予定でして、私もまた夫と共に式に出席するために色々と準備をしていました。
しかし、夫は朝から姿を忽然と消してしまいます。
あまりにも突然の失踪に私はロバートが何か良からぬ事件に巻き込まれたのではないかと心配して、義実家であるルベルス伯爵家や彼の交友関係を探したりしましたが、一向に見つかりません。
この時点で私の中ではかなりの修羅場となっていたのですが、国内ではそれ以上の事件が起きていました。
花嫁の失踪――今日、結婚する予定の王女アイリーン様が行方不明となったのです。
国中が大騒ぎとなり、アイリーン様の捜索が開始されました。
そんな中、粛々と夫を探す私。嫌な予感がしていました――。
あれは二年前、まだロバートと婚約中だったある日のこと。
お酒に弱い彼がワインを珍しく一本空けておりました。
『愛する君を裏切ってしまった。僕は最低だ。済まない……アイリーン……』
うわ言のようにそう呟いて、酔い潰れていたロバートを見て私はアイリーン様と彼のただならぬ関係を察してしまいます。
しかし、その翌日から彼は驚くほど私に気を遣うようになり、結婚してからも良き夫として優しく私に接してくれていましたので安心しきっていました。
「アイリーン様の残した手紙が見つかりまして。ロバート殿と共に遠い国へと逃げるので探さないで欲しいと――」
「……夫がとんでもないことを。申し訳……ありません」
遠のく意識を何とか保って、私は深々とジョーに頭を下げました。
彼は私は悪くないと同情的でしたが、世間では完全に王女を攫って国際問題に発展させた男の妻。
夫がやらかしたことが、やらかしたことなので、本人が不在でも彼との離縁は成立しましたが、依然として周囲の目には気を遣う日々を過ごすこととなります。
そんな中、消えたアイリーン様の情報を共有するために、このデルバニア王国を訪れた隣国であるベゼルーク王国の第三王子アルフォンスと出会いました。
「私の夫が多大なるご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。……もちろん、お詫びしてもお詫びしきれないことは分かっております。ただ、私は――」
「あなたは悪くありませんよ。寧ろ、私と同じ悲しみを背負っているのですから、心中お察しします」
アルフォンス様は怒りをぶつけるどころか私のことを気遣ってくれます。
彼の優しさに触れて、私の傷ついた心は少しだけ癒やされました。
それから、一ヶ月に一度ほどアルフォンス様とお話する機会に恵まれて、私は彼の勧めで聖女になるための修行を始めます。
聖女とは魔物の侵入を防ぐ結界を張ったり、傷付いた人々を治癒術で癒やしたりする仕事なのですが、私には魔法の素養があったみたいで、直ぐに聖女として十分にやっていける力を手に入れました。
元夫がアイリーン様と失踪して、二年あまりの日にちが経っている今、私は聖女としてデルバニア王国で重宝されている存在になりました――。