エピローグ
裕子と幸奈のこれからの希望を聞いたところ、裕子は冒険者を続けても良いのだが幸奈は足を洗いたいのだと言う。とは言っても手に職があるわけでもなく、自由にできなかった環境もあって貯えもあまり無いそうだ。こちらの世界では学は無くとも手に職をつけた者が多く、戦闘能力しか示せないのであれば雇ってもらえるところ無いだろうと思っていると、イトゥカ様がこの屋敷で働かないかと誘ってくれた。
「欲を言えばお忍び時に私の護衛として行動を共にしてもらいたいのだが、それが難しい様であればメイドとしてでも良い。君らの居た世界は此方とは違うのは承知しているので、こちらには無い君らの価値観や道理を私に教えてくれると助かるのだよ」
「私は向こうではまだ学生でしたので、正直なところお役に立てるお話が出来る自信がありません。ですが、こちらで雇っていただけるのでしたら、精一杯務めさせていただきます。勿論、お忍びでの護衛も申し付けてもらって構いません」
「私も幸奈と一緒にこちらで雇っていただきたいです。戦うメイドって言うのは面白そうですし、『政治家の妻になるには』なんて無理やり詰め込まれた知識が少しはお役に立ちそうですので、よろしくお願いします」
イトゥカ様は魔法に頼らない生活を模索していたそうだ。なにしろ管轄の国境付近は辺境と言われ、寒村で貧しい生活を強いられている人々が多くいる。そういった村々には魔術を行使して開拓するだけの人材は居らず、故に貿易で栄える街との格差は広がる一方らしい。特に難民となって流れてきた人々は厳しい生活を強いられ、ならず者に身を落とすものも少なくないので治安は悪化する一方なのだと言う。もっとも、それ故に私たち冒険者が護衛の仕事にありつけるのだと言う一面も持つのだけれど。
もし私たちの知識がこちらでも有効に活用できるのであれば、そういった寒村の生活も豊かになるのではないかとイトゥカ様は考えたそうだ。
冒険者だから必ずしも人を殺す仕事だと言う事でもないのだけれど、彼女たちは選り好みが出来るほど強くも無いし、強くなれば人を殺める仕事は付いて回るのが冒険者なのだと聞いていたので、裕子も幸奈も『人を生かす』手助けができる仕事だと聞かされれば飛びつくのも当たり前だと思う。
「ユーミはどうする?」
「私は今の生活に不便も感じていないし嫌悪感も無いの。今まで人並みの自由が無かった分、もう少し自由に生きていたいかな。だからこのまま冒険者を続けるし、近いうちに王都から出て行くよ」
「そっか。うん、今までありがとうね」
「本当にありがとう」
「どういたしまして。2人とも元気でね。気が向いたら遊びに寄るからね。イトゥカ様、2人の事よろしくお願いします」
「あぁ、任されたよ。ユーミは強いから心配するのも失礼だろうが、無理だけはしないでおくれよ。またこうして会えるのを楽しみにしているからね」
終始会話に混ざってこなかったアリスを伴って、イトゥカ様の屋敷を後にする。
「良かったんですか?」
「なにが?」
「ユーコさん達と一緒でなくって」
「私は気ままにいろんな所に行きたいから良いの。それともアリスは私との旅はもう嫌?」
「嫌だなんて思って無いです! でも、私が居るから別れる事を選んだのだったら申し訳なくって」
「もともとの友達でもないしね。向こうでは周りに気を使ってばかりで疲れちゃってたから、こっちでは気を使い過ぎるのはやめようと思ってね。だから誰かの下で働くのって今は無理かなぁ」
「それじゃ、次は何処に向かいますか?」
そう、せっかく錬金術が使えるのだからいろいろな物を作ってみたい。
魔力で動く自動車とかバイクなんてものが作れたらいいな。
意のままに動く義手や義足なんてものが出来たら、怪我なんかで冒険者を辞める人が減るかもしれない。
そういった夢を現実にするには知識や素材が必要で、こうして冒険を続ける必要がある。
冒険を続けて各地を回るのであれば、美味しいものを一杯食べて、のんびりと草原で寝転がったりと、時には気を緩めてリフレッシュしたい。そこにアリスの様な気の許せる友達がいてくれるならより楽しい時間になるだろう。
だから私は武器を取り、立ちはだかる魔物や獣たちをこの手に掛けてでも前に進んでいこうと思う。
「武器が出来るまでは図書館に入り浸ってみようかな。その後は船に乗ってジャドンに行くも良し、香辛料の更なる充実を図っても良しだね。錬金に必要な素材があるなら帝国に赴くのだって良いかもしれない。なんて言ったって私達は、自由な冒険者なんだからね」
そして私は、自身を高めるための一歩を踏み出した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
公私ともに忙しくなった事もあって、ここで一旦話を閉じさせて頂きます。




