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side 記者A(取材メモ)

 ○月△日に彩浜県戸坂市で起きた交通死亡事故は、高校生同士の殺人事件へと発展した。

 事故自体は深夜帯に起きたトラックと歩行者の事故だったが、その歩行者が集団で車道に居たことがドライブレコーダーの解析から判明している。また、見通しの悪いカーブの途中であることから避けられない事故だったと思われる。死者3名と重傷者2名が出る事故なのだが、死者の内2名は事故時点で既に死亡していたとの見解が示されている。

 ここで問題となっているのが、被害者である5名の高校生が半年ほど前から行方不明になっていたことだ。今回と同じ市内で起きた集団行方不明事件は、バスごと忽然と消えてしまった事件として当時の新聞紙面を賑わせ、防犯カメラの映像解析からも追跡できなかった現代の神隠しとして記憶に新しい。


 今回唯一意識のあった少女Aは警察の取り調べ等に対し、以下の様な話を繰り返している。


 半年ほど前、学校からの下校途中にバスごと異世界に拉致され、そこで一緒に拉致された学生ばかり10人ほどと戦闘訓練を施された。そこは小説にあるような剣と魔法の世界で、自身は神聖魔法(癒しなどの魔法を指すそうだ)を習得し、今回事故に巻き込まれた5名で行動をしていた。

 保護し訓練を施した国の指示により他国に攻め入った際に捕虜となり、事情を理解した敵国により異世界から戻されたところ、あの場所に降り立って直ぐ事故にあった。


 死者の内2名は捕虜になる事に抵抗したため矢を射られ死亡したが、あちらには遺体を残せないと一緒に戻された。既に死亡から数日経ってはいるが、直前まで魔法で冷凍されていたため腐敗は進んでいなかった。

 もう1名の死者は直前まで生きていたそうなので、トラックに轢かれたことによる交通事故死の可能性も否定できない。それは意識の戻らない少女Bにも当てはまるようだが、彼女に対しては多くを語らず、ただこうなった元凶であるとだけ明言している。

 さて荒唐無稽に聞こえる証言だが、摘出された鏃や服の一部が未知の物質(分析が解析不能となっている)であり、火傷の治癒痕からもその治療方法が皆目見当もつかないとの検視結果が出ている以上、荒唐無稽と笑い飛ばす根拠を我々は持ち得ない。もっとも、ネットでささやかれているUFOによる誘拐は有り得ないだろう。



 彼女たちの事は行方不明になった際に取材されており、行方不明者は10名どころでは無いが、少女Aの証言では10名以外の消息は不明のままだ。もっとも、バスごとであるならば同じところにいた可能性も否定はできないだろう。現に、それらしい11人目が話の中に出てきている。


その11人目の親族であり元凶でもあるらしい少女Bについては、これまでの取材で良い話を聞いたことが無い。それは彼女だけでなく、その家族も含めての事だ。少女家族が住む家は、そもそも少女Bの父方の祖母が孫(少女の従妹に当たり、現在も行方不明である少女C)と住んでいたものだが、祖母の死を境に少女Bが家族と共に移り住んできて、元から住んでいた少女C(少女家族からすれば姪や従姉にあたる)を虐待していた疑惑が浮上している。

 近所のコンビニ店員の証言ではみすぼらしい格好でよくトイレを借りに来ていたと言い、近所の住人からは家事全般を強要させられていたようだとの証言も出ている。祖母は生前、近所の住人に対し「自分が死んだ後は孫が一人で住むことになるだろうが、それなりの貯えを残してあるものの気にかけてやって欲しい」と話していたそうで、居座っている家族に対して法的手段が取れないものかと相談をしていた者もいたようだ。もっとも市の職員や児童相談所では手に負えるわけでもなく、警察は事件が起きなければ本腰を入れる事はまずない。


 少女Cはバスを使える環境では無かったとの証言もあるが、かの失踪事件を境に見た者は居ない。しかしながら家族(と言ってよいか分からないが)からの捜索願は出ておらず、近所では自宅に監禁でもされているのではとの憶測も飛び交っていたようだが、少女Bの証言に少女Cも一緒に拉致されていたとある。少女Bが首謀者として少女Cを辱めようと画策し、1人が顔を焼かれる重傷を負い連帯責任を負わせられたのが今回の帰還に繋がったそうだ。顔を焼くなど過剰防衛だとは思うが、仮に矢を射かけられるのが日常茶飯事の世界であれば、過剰防衛など気に掛ける方がおかしいのかもしれない。

 さて、少女Aの証言を証明する手段は今のところ無いし、そもそも少女Cがバスに乗ってはいなかったことはカメラの映像から分かっている。少女Cの失踪は別の事件として捜査が為されており、未だ同一事件とする見解が警察からは出されていない。捜査のその後の進展を待ちたい。


 1人の証言だけを鵜吞みにできるものでは無いが、おそらくこれ以上の証言は取れないと思われる。

 少女Bは意識の戻る気配はなく、仮に意識が戻ったとしても両足切断では意識が戻らない方が幸せかもしれない。ネット上で本名を晒されてしまった少女AとBは、事件の話題性も相まって生きて行くのも大変だろう。いっそ戻ってこない方が良かったのでは、などと思ってしまうのは当事者では無いものの傲慢な考えなのだろうか。




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