お土産探しに暗雲
装備が出来上がるまではゆっくりとすることになった。
共和国になってまだ数百年らしいけど、この地にはその数千年前から人が住み王国として栄えていたそうだ。だからか古い街並みに見えるけれど整然と立ち並ぶ家々や碁盤状の通りは、しっかりとした都市計画に基づいて整備されてきたと思わせる。既に王家は存在しないそうで、王城だった場所は政権の中心となっている。それでもここを王都と表現するのは王家の墓が残り、異文化他民族を受け入れて共和制へと移行した最後の王様が眠っているからだと教えて貰った。
「なんかさ。国としての考え方の違いなんだろうけど、アセルラよりこの国の方が好ましく思うよ。皆が切磋琢磨して逞しく生きているし、差別意識が少ないから私なんかでも此処に居て良いんだって思えるもの」
「ですね。ハーフ? だからなに? って感じですもんね。向こうに戻りたくないですもん。勿論、伯父さんに会いたくないわけでは無くって、こっちに移住しませんかって言いたいくらいって事ですけどね」
「そうだね。渡り人のあの人たちも、国の奴隷になっているくらいなら逃げておいでって言ってあげたくなるね」
アセルラに残っている渡り人たちはどうしているだろうか。もしかするとミロクと名乗った某国の間者に接触され、彼方に戻ってしまっているかもしれない。前線に送られてはいないと思いたいけど、あの国のやる事だから楽観視はしない方が良いかもしれない。
3日かけて商業地区を当ても無く二人で歩いて回る。ミラバスは賑わってはいたけれど、街の大きさが大きいわりにあれほどの賑わいを感じない。ゆったりと作られた街並み故ではなく、上品な感じともまた違うし活気が無いわけでも無い。しいて上げるとすれば、品ぞろえや聞こえてくる言葉に雑多さを感じないからかもしれない。そう考えると、短期間しかいなかったミラバスに随分と馴染んでいたのかもしれない。
見て回る店は食材や香辛料などを扱うお店が多くなり、次いでお酒を扱うお店も良く覗いた。そろそろナタリーさんに追加で送るお酒を吟味しなければならないころあいだったからで、アリスもヘグィンバームさんへ送るのだと張り切って選んでいる。アセルラでは見た事のないお酒の方が良いのだろうけれど、飲みなれない味はどうかと思うと悩みが尽きない。店員さんにいろいろアドバイスを貰いながらも、なかなか購入までに至ってはいない。
アセルラではワインが一般的で、場所によってはエールを飲む事もできた。ここ王都ではワインはあまり見かける事は無く、蒸留酒であるアップルブランデーやラム酒が多く流通している。リンゴの生産が多い事や砂糖の製造が盛んなこともあって、これらを原料とするお酒が安く流通するからだと思う。ただ、飲み方がストレートではなくカクテルの様に色々混ぜるものだから、はたして送った先で美味しく飲めるかが不安要素ではある。まぁ、ブランデーなら水で割って普通に飲みそうだけれどね。
「真由美殿とお見受けする。以前『かかわるな』と言われた我らなれど、少し時間を頂けないだろうか」
酒屋から出ようとしたところで4人組の冒険者に声を掛けられた。冒険者とは言ったけれど、どう考えてもあの国の間者だろう。非常に鬱陶しかったものの、こうして声を掛けてくると言うことはアセルラで変化があったのだろうと、「1時間程なら」と話を聞くことにした。
酒屋の裏は酒場になっていて、開店前の店内で彼らとテーブルを挟んで向かい合う。
「実はアセルラがまた召喚を行ったことが分かった。こう立て続けに行われた記録が無いものの、こちらが接触した最初の勇者たちの話では5人が召喚され、その全てが優秀な戦闘職だそうで次は無いらしい」
「次が無いのはどうしてですか」
「ひとつは冒険者ギルドがその行為を非難したことだ。勇者召喚と称した誘拐行為だと各国に働きかけた結果、対アセルラ同盟が起きたのだよ。もっとも人道的とは建前で、より強き者を無差別に呼び出されては国家間の軍事バランスが崩壊してしまう懸念が拭えなかったのだろう。ふたつ目は召喚されたものが非協力的だったらしい」
「待遇がより悪くなったと言うことですか」
「我々の仲間が送り返した召喚者が、戻った先で大きな事件として公表されたのだと。こちらの世界は信用ならないと広まってしまっていては、今後協力を得る事は難しいだろうと思われることから、少なくない時間を空ける必要を感じているのではと思われる」
なんとか無事に帰ったとするなら、ある事ない事言いふらして私の事を扱き下ろしている事だろう。帰るつもりは無いので実害はないけれど、それを理由に育ててくれた亡き祖母の尊厳が守られなくなるのは遣る瀬無い。そんな思考を遮る様に、「厚かましいのは重々処置の上で、ひとつお願いがある」と言われてしまった。




