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上級装備に刷新

 きれいに整頓された鍜治場に通され、お茶を出されて椅子を勧められた。炉の火は落ちておらず、気持ちを落ち着けるためにちょっと一杯ひっかけに行っていたように感じる。完成品は置いてはおらず、おそらくは全て特注品の注文生産なのだろう。


「で、どんな得物が欲しいんだ?」

「専門外でしたら申し訳ないのですが、刀と三日月斧(バルディッシュ)です」


 腰の日本刀を鞘ごとテーブルに置くと、アリスも容量拡張鞄(マジックバッグ)から三日月斧(バルディッシュ)を取り出して両手で差し出す。


「いくつか打った事があるから作るのは問題ない。材料はどうする。鋼なら材料込みで其々金貨1枚ってところか。ただ、そっちの長物はミスリルを含んでいるから性能はトントンくらいになるぞ」

「鱗斬鋼を持ってきているので、それで打っていただくことは可能ですか?」

「そりゃぁまた珍しい素材を持ってきたな。量にもよるが……、他に持っている素材は無いのか?」

「鱗斬鋼は3kgほどあります。他でしたらミスリルと銀が各2kgとアースドラゴンの牙やミノタウロスの角が少しあります」

「そんだけ有りゃ大丈夫だ。刀は長いのだけでいいのか? 脇差だったか? 短いのも一緒に差すんだろ?」

「詳しいですね。可能であれば揃いで欲しいです」

「魔法は使えるのか?」

「私は少しですが、彼女が聖魔法の使い手です」

「なら、こんな感じでどうだ」


 提案されたのは次のような内容だった。

 三日月斧(バルディッシュ)はミノタウロスの角を核に柄を作り、刃は鱗斬鋼で全体をミスリルでコーティングする事で切れ味と丈夫さに魔力伝導率を確保する。長さは今の物より少し長くしても重量は変わらず、石突にアースドラゴンの魔石を用いる事で打撃性能も向上させる。

 刀は鱗斬鋼とアースドラゴンの牙で作り、ミスリルコーティングで魔力伝導率を高める。柄と鍔はミノタウロスの角から作り、柄頭にターンアンデットの魔法陣を組み込んだ水晶を使う事で聖魔力をチャージできるようにする。アリスにチャージをお願いすれば、対アンデットでも活躍できる武器となる。

 脇差はキュプロスの魔石とミスリルで作り、障壁魔法の陣を刻んでもらう。刃物としての機能は失われるが、発動させれば魔力で出来た盾の代わりになるので咄嗟の防御に役立つだろう。

それぞれの鞘はハマドリアードと言う精霊樹の枝から作るそうで、魔物を切った際に纏う穢れを常に浄化してくれるのだそうだ。ちなみに、刀も脇差も日本刀の様にバラすことは出来ない。製法の違いなのだろうけれど、一体物として成形されるのがこの世界での常識なのだと教わった。岩よりも固い魔物を切ったりするのだから、かかる応力などを分散するには合理的なのだと理解した。


 振ってみろと言われて裏庭に案内され、アリスと模擬戦を行ったり型を披露したりすると、細かいサイズや重量の微調整をした方が良いと指摘を受けて注文に盛り込んでゆく。最終的にはサンプルをその場で作ってくれて、重量や重心の確認をして依頼書を完成させた。


「しめて金貨三枚になるが構わないか?」

「持ち合わせもあるので大丈夫ですが、安くないですか?」

「まぁ、普通だったら倍でも足らないんだが。紹介状もあるし、なによりお前さん方の拘りが気に入ったからな」

「そうですか。想定以上の物が出来そうで嬉しいです」

「こっちも久しぶりにワクワクする仕事が貰えて嬉しいよ。いち、いや二週間ほど時間をくれ。精魂込めて作らせてもらおう」

「「よろしくお願いします」」


 前金で金貨三枚を渡し、得物もそのまま預けて店を出た。


 次に向かったのは上級冒険者御用達の洋服屋で、今着ているものをベースに防御力を高めた服を作ってもらおうと思っていた。防刃性能を重視したものの打撃に弱い事もあって、防具を着けるか生地を変えるか悩んでいた。

 紹介されていた店に入ると少し年配の女性店員がやって来た。


「いらっしゃいませ。初めて、のお客様ですね」

「はい。ある方から紹介されまして、紹介状を見ていただけますか」

「拝見させていただきます。……! では奥でお話を伺いましょう。どうぞこちらに」


 紹介状を読んで驚いた顔をし、それでも媚びるでなく落ち着いた感じで案内された商談室は、落ち着いた感じの広めの部屋だった。


「変わったお洋服をお召しですが、その様なお洋服をご所望でしょうか」

「今着ている服はお手製でして、防刃効果は生地の性能で満たしているのですけど、打撃に弱いのでどうしたものかと。出来れば仰々しい防具は付けたくないので、相談に乗っていただきたくお邪魔しました」

「ミスリル糸を編み込んだ生地の裏にブルースライムから作る緩衝シートを合わせた物がございますが、やはり革鎧程度はお付けになった方がよろしいかと」

「中には簡易的な物を纏ってはいるのですけど」


 予備の服やビスチェを容量拡張鞄(マジックバッグ)から取り出して見てもらうと、生地の厚みや硬さを確認して唸って考え込んでしまった。しばらく考えた後、「少しお待ちください」と言いおいて部屋を出て行き、少しして複数の服を纏ったトルソーを台車で運び入れてきた。


 どれも一般的な冒険者の装いで、どちらかと言えば体にぴったりフィットする露出の少ないパンツスタイルだ。三体ほど革製の胸当てや籠手、脛当てとゴツイブーツが添えてある。


 追加の要望として容量拡張鞄(マジックバッグ)を使った矢や聖魔導書のカラクリを説明し、私の場合は刀を差すことも考慮してほしいと伝えたところ、最近流行りのスタイルがうってつけだと在庫を持ってきてもらう事になった。

 出してきてもらった商品は女性のランニングウエアの様なシルエットで、ベルト位置が骨盤にある事から刀を差すのに高い事も無い。これに硬めのブーツを履いてしまえば下半身の防御力を向上できそうだ。上半身の守りはビスチェで十分に思えて数セット購入した。アリスはハイウエストのパンツに裾の長めなブラウスを合わせ、鋲を打ったスパイクドレザーアーマーを購入していた。折角なので防水防刃効果のあるサーコートも合わせて購入した。軽装過ぎて不審に思われることが多いものだから、これで少し誤魔化せるだろうと購入に踏み切った。


 随分と散財したようだけれど、これで少しは安全に旅ができるのなら惜しくは無いだろう。




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