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王都の宿屋と鍛冶屋

 約束の時間に待ち合わせ場所である冒険者ギルド前に来ると、騎士が1人増えただけのイトゥカ様一行が待っていた。追加要員が1人って事は無いだろうと確認すると、20人ほどが派遣されてきたので門外で待機させているのだと教えて貰えた。準備は万全だと聞いたので「水を少し分けていただけませんか」とお願いしたら、ベルント隊長自らカップに注いでくれて笑顔で渡された。

 さすがにこの人数を襲う者は居ないようで、予定通りに王都に辿り着くことが出来たけれど、こちらの馬車に乗りたがったイトゥカ様を宥めるのだけが苦痛だった。乗り心地がハッキリ違うのを分かっているので断りにくかったものの、立場だとかあるだろうからとベルントさんとフランカさんが宥め賺してくれていた。


「今日までの護衛や食事の提供に感謝する。この書面をギルドに提出すれば報酬はすぐにでも支払われるので、都合の良いときにギルドに出向いてくれ」

「はい、大丈夫です。持ち合わせもありますし、宿や鍛冶職人を紹介していただけて助かりました。しばらく滞在する予定ですが、ずっと滞在しているかは分かりません」

「依頼を受けて王都を出る事もあると?」

「そうですね。あとは面白そうなものが有れば見に出るかもしれませんし」

「そうだな。ぜひ我が国を存分に楽しんでもらい、ゆくゆくはこの国に落ち着いていただけると嬉しく思う」


 ベルントさん達と別れ、まずは宿の確保に動く。教えて貰ったのは大店の仕入れ人が良く使う宿屋街のひとつで、一見さんお断りの落ち着いた宿屋とのこと。王都で商店が多く集まる東地区の南寄りにあり、工房などの集まる区画にも近いとの事なので、今回の目的には最適な立地と言えるだろう。さらには警備がしっかりしているのもポイントが高い。


「失礼ですが、こちらは初めてのご利用でいらっしゃいますでしょうか」

「はい。あるお方に紹介状を頂きまして、部屋に空きがあるようでしたら利用させていただこうと来た次第です」


 入り口をくぐったところで呼び止められ、そんなやり取りの後にイトゥカ様に書いていただいた紹介状を提示すると、中身を確認して直ぐに受付カウンターに案内される。何か合図がされていたのか、カウンターには奥から出てきた恰幅の良い男性が待っていた。


「ようこそお越しくださいました。私、当宿の副支配人を任されておりますクライスモッテと申します。他にお連れ様はいらっしゃいますでしょうか」

「いえ、2人旅です。とりあえず1週間ほど泊まりたいのですが、空きは有りますか」

「当宿は特殊でしてお部屋の広さは全て同じになっており、2人部屋より4人部屋の方がお安くなっております。どちらも空きは御座いますが、いかがいたしましょうか」

「でしたら4人部屋をお願いします。あまり仰々しいと落ち着きませんので」

「畏まりました。ではご案内させていただきます」


 副支配人自ら先に立ち、館内の説明をしつつ部屋まで案内してくれた。普通だったら鍵を渡されて部屋番号を言われるだけなのだけれど、宿の格が違うからなのか特別な客層向けだからなのか判断が付かない。食事は別会計で食堂を使うように案内され、予め食べるか否かの意思表示は不要だそうだ。そんな処もこれまでに経験が無く驚かされた。

 部屋はやはり広めで、ちょっとしたテーブルセットにベッドが4つとクローゼットがあっても窮屈感は無い。備え付けにトイレや風呂もあって、湯が必要ならば受付にお願いするだけで湯を満たすための使用人が来てくれるそうだ。私は湯も出せるので使いたい放題なのは嬉しい。


 幌馬車(キャンピングカー)を預けて(ルビー)の世話を頼み、私達は紹介された鍛冶屋へと行ってみる事にした。偏屈だとは聞かなかったので頑固者程度で済むとは思うものの、依頼の内容が特殊なので引き受けて貰えるかは半々だと思っている。


「ここだね」

「その様ですけど、音もしなければ熱も感じませんね」

「確かに。鍜治場って言えば熱いイメージがあるよね。今日は休みなのかもね」

「ごめんください」


 入り口に看板が下がっているので間違いないはずだけれど、周りの鍛冶屋から感じる熱や音が此処からだけは伝わってこない。仕事が無くって休んでいるだけならばいいけれど、既に廃業しているとかだと困ったことになる。

 とりあえずはとノッカーを鳴らして声を掛けてみたけれども反応らしいものは無い。数回繰り返したところで後ろに誰かが立ち止まったのを感じ、振り返ってみると赤ら顔のドワーフがこちらを見ていた。


「少々お尋ねしますが、こちらの鍛冶屋さんは今日お休みでしょうか」

「つまんねー仕事を持ってこられて客と喧嘩して、やってられるかって酒を飲みに行ったからなぁ」

「腕が良いと聞いて来たのですけど、選り好みが激しいとかあるのでしょうか」

「そっちの嬢ちゃんもドワーフの血が混じっているから分かるだろうが、職人なんてものはより良いものを作ることを生きがいにしているんだ。探求心をくすぐらない仕事なんぞ、そこいらの見習いに頼めばよいだろうさ」

「ちなみに、どういった依頼だったのですか」

「飾っとく物だとよ。名工の打った剣があれば箔が付くんだと。銘があれば(なまく)らでも構わんと言われちゃ黙っちゃいらんねぇだろう」

「実用品なら受けてもらえるんでしょうか」

「素材に依りけりじゃないか」


 やはり頑固者のようで、それでも依頼を受けてもらえそうな感じがする。ならば出直してくるのが良いだろう。


「では明日、出直してこようと思います。ありがとうございました」

「ちょっと待ちねぇ。今から聞いてやるから中に入んな」

「此方の方でしたか」

「なんでぇ、分かった上で話しているもんだと思ったが違ったか」

「確信が無かったので」


 どうやら出直さずに済みそうだ。




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