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予定外の野営

 馬車に駆け寄って御伺いを立てていた騎士が厳しい表情で戻ってきて、交渉役の騎士に耳打ちをした。年齢から言えばこの交渉役が最年長であり、部隊のリーダーだろうと思われる。堅実そうに感じるので、この少人数でここに留まっていることに違和感が拭えない。


「ちなみにそなた達の行き先は王都であろうか」

「はい。ミラバスのギルドマスターに紹介状を頂き、王都の鍛冶屋を訪ねるところです」

「特に依頼を受けている等では無いのだな」

「はい。まったくの私用での旅となります」

「手持ちがないのだが、王都にて代金を支払うでも構わないのであれば、樽の浄化と水の補充をお願いしたい」

「承知しました。アリス、ちょっとお願い」


 箱馬車の後部に備え付けられていた水樽を一旦降ろし、樽の作りと水や木の状態を綿密に確認する。作りは一般的なもので木に防腐処理も行われているけれど、とにかく水の匂いが酷い。

 瓶一本分の水を残して残りは捨ててしまい、乾燥魔法(ドライ)を使ってひび割れない程度に乾燥させると、アリスが幌馬車(キャンピングカー)で作っていた大量の聖水を使って浄化して行く。再び乾燥させて半分まで水を補充し、しばらく放置して様子を見る事にする。

 その間に瓶に採っておいた水を鑑定すると、シギラと言う植物の成分が入っている事が分かった。この植物の根を浸した水に染色前の生地を浸すと、染色後の発色が良くなるようだが、当然飲み水には適さないものだ。明らかに悪意のある悪戯だろう。


「瓶をお渡ししておきます。お戻りになられたら内容物の確認をなさった方が良いでしょう。いくつか見当は付きますが、臭いがきつい事から悪戯ではないかと」

「そうかも知れぬが、それが許される相手ではないのでな。いや、こちらの話だ。樽は大丈夫そうだろうか」

「相方のアリスは若いですが、治癒や解毒などの経験が豊富です。解呪などもできますので問題は有りません。もう少ししたら水の状態を確認していただいて、その後に容れられるだけの補充を行っておきます」


 樽と中の水を確認して給水まで済ませると、おそらく次の宿営地となる村までは辿り着くのは夜半を過ぎてしまう。暗くなれば当然ながら危険度は急激に上がるので、この辺りで野営する方が安心感も上がる。

 ここならまだ見通しが悪いわけでもないので、腰を据えてしまう事にした。


「おそらくですが水の補給を完了してから出発すると、日暮れまでに次の村には辿り着けないと思われます。私たちはこのまま作業を続け、ここで野営しようと思います。騎士様方はどういたしますか? 必要であれば食料にも余裕がございますので、お売りする事も可能ですが」

「あなた方は料理をするのか?」

「はい。よほどのことが無い限り、その場で作った温かい食事を食べるようにしています。実は安価な容量拡張鞄(マジックバッグ)を所持していて、保存食を携行するより食材を持ち歩く方が日持ちするのですよ」

「我々は不要だが、可能であれば一人分で構わない、料理を分けてもらえないだろうか。名は明かせぬが、馬車には少女が乗っておるのだ。温かい食事を召し上がっていただきたいのだ」

「それでは不安でしょう。料理工程の確認をしていただいて構いませんし、お毒見が必要であればその分もご用意いたします。護衛の方には申し訳ありませんが……」

「いや、気を使っていただき感謝申し上げる」


 最悪の事態として遅効性の毒が混ざっていた場合を考え、護衛は他者から提供された物を口にしないものだと聞かされていた。不用意に勧めるのも不信感を募らせるので、こちらから用意しない旨を口にしたわけ。毒見の件を調理の確認も同じ意図が有るので、潔白を証明するためにもこちらから言い出した方が良いのだろうと思う。


 アリスは樽の経過状況を確認しているので、私の方で馬車を移動させて簡易テントを用いたトイレを設営する。調理は馬車内の簡易コンロを用いるので、幌のサイドを捲り上げて外から見えるようにする。ハニカムメッシュの補強が入っているけれど、そこには触れないでおこう。

 念のためにトイレや馬車内をチェックしてもらい、トイレの使用は女性に限り自由に使って構わないと言いおいておく。騎士は全て男性のようだけれど、馬車に少女が居るのならば侍女がついている筈で、場合によっては戦闘職を有する女性の可能性もある。


 準備が出来たので馬車の上に上がって、監視がてら獲物の物色を始める。この辺りだと兎か狐が狩れるので、夕飯のシチューにちょうど良いだろう。狩れないようならベーコンを提供しても構わない。

 小一時間ほど待っていると、上空は渡り鳥が横切って行こうとするのが見えた。確かカモ肉に近い味の鳥だったと記憶していたので撃ち落とすことにした。この距離なら短弓(ベアボウ)の方が当てやすいので、容量拡張鞄(マジックバッグ)から取り出して矢を矢継ぎ早に3射して3羽撃ち落とした。幌馬車(キャンピングカー)から外して自由にさせていた(ルビー)に跨って回収しに行き、その場で湯も出して血抜きと羽むしりまで済ませて持ち帰る。


「騎士様方の夕食として、1羽お譲りしましょうか?」

「あ、あぁ。有難く頂戴しよう。しかし巧いものだな。まさか飛ぶ鳥を連続で射落とすとは」

「慣れ、ですかね。刀を差してはいますが、ジョブは狙撃名手(シャープシューター)ですから。相方も武装していますけれど、あれで聖職者(プリースト)のジョブ持ちです。女二人旅ですから、武装でハッタリをかましていないと絡まれるんですよ」

「それにしても……。いや、詮索はすまい」


 1羽は鶏団子にして、玉ねぎやニンジンと一緒にスープに入れて煮込んでしまう。味付けはシンプルに塩のみ。鶏肉の旨味が出るので大丈夫だろう。もう1羽は大きめに切り分けてフライドチキンモドキを作る。豊富なスパイスが用意できないので、塩とコショウに山椒っぽいスパイスを足して揚げてみた。仕上げにレモンを絞ってしまえば食べられる味になるだろう。




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