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Side モレノ

 彼女たちは初めてギルドの受付(カウンター)に来た時から、私の常識外の存在だった。

普通であれば5名で組むPT(パーティー)なのに、半数にも満たない2名であったこと。年若く見えるのに、そのPT(パーティー)レベルはDと場数を踏んでいなければ到達できない評価であり、ユーフェミアさんの個人レベルは中堅冒険者を示すCであった。

 これがエルフなどの長寿種族であるならば、見た目だけの問題だと気にも留めなかったであろうが、普通の人族なのだとカードに刻まれている。数代前に混ざった長寿種の血であったとしても、その血が濃く出た場合はハーフ〇〇となる筈なので潜在能力がよほど高かったのだろうと推測できる。


 相方のアリスさんも異色と言える。

 彼女はハーフドワーフなのだけれど、聖魔法の使い手だとカードに記載がある。だが、発行元のアセルラ聖王国ではハーフを含めた亜人にとても厳しい国だ。冒険者登録を機に聖魔法に適用するジョブで有る事を知ったとしても、教会側でその者を受け入れる事はまず無いと聞いている。

 人族であれば冒険者を辞めさせられて教会に入らなければならないし、亜人種であれば見向きもされないはずなのだ。なのに教会奉仕活動として、魔法回復を貢献度評価にできる程に行っているのはどうしてなのか。


 彼女らは上位貴族の後ろ盾を複数持っているのであるならば国から出てくることはほぼ無いはずで、こうして隣国に出てきているのは何らかの情報収集行為なのではないだろうかと疑ってしまう。

 その予測が現実味を帯びるのに、そう時間はかからなかった。

 一週間の間隔を空けて現れた彼女たちが取り出したのは、類を見ないほど正確な迷宮地図(マップ)だった。聖王国ではこれほど緻密な迷宮地図(マップ)を作る技術があるのかと戦慄したが、こうしてギルドに持ち込んだと言うことは聖王国では一般的な技術なのかもしれない。おいそれと金額を弾けるものでもないので、上位であるギルマスへと報告することになった。


 ギルマスがこの地に赴いて来たのは3年前の事だった。前ギルマスであるダルメシア様が体調を崩されて職を辞したのに合わせ、中央貴族の後ろ盾を持つとの触れ込みで着任した。

 着任からおよそ1年で意に沿わぬ職員を入れ替え、大幅に職員の刷新が成された結果、主要なポストはギルマス派で埋め尽くされていた。出された職員は中央への栄転扱いだった事もあって、表立って問題視されることは無かったものの、破落戸然とした冒険者がランクを上げる事に懸念を抱き続けていた。

 そのギルマスに彼女らが明日改めて来ると話した途端、明らかに黒い笑みを浮かべて出て行ったことで、彼女らへの疑念が深まったのは不思議なことではなかっただろう。


 翌朝出勤して驚いたのは、普段いる事のない衛兵がギルドに居る事だった。間違いなく彼女たちの案件に関わってくるのだろう。

 遅めの昼休憩をスタッフルームでとっていると、受付に入っているはずのエディトが上階に走っていき、直ぐに衛兵を引き連れたギルマスが受付に向けて歩いていくのが見えた。明らかに地図の書き取りに関わる案件ではないと推測出来た。


 ユーフェミアを正直怖いと思ったのは彼女の所業だった。

 ギルマスの悪計を看破して一蹴し、躊躇いも無く足を切り落としたと思ったらその切り口に得体のしれない薬品を掛ける。彼女の話ではスライムから作られた物で、傷口から体を溶かしてしまうのだとか。エリクサーを使って生やさなければ直すことが叶わない方法をためらいもなく行使する、そんな冒険者を私は知らない。そんな者が居るとしたら、それは暗殺者などの裏家業に関わる者だろう。

 クラーマンに呼ばれてギルドに居た衛兵は領主の配下だ。敢えてだったのか無理だったのかは知らないけれど、クラーマンと領主であるビシタス様に親密なつながりは無く、衛兵が先ずとった行動はクラーマンを地下の牢屋に入れる事だった。各部門の要所に衛兵が立ち、不審な動きが無いように監視の目が行き届くのは、サブマス以下の主要メンバーがクラーマンと濃い繋がりがあるからだろう。


 衛兵の応援が到着し、足を止血しただけのクラーマンに対する尋問が始まった。

 クラーマンが質問に答える度に裏付けを取るための資料提示を求められ、矛盾が次々と明らかになる中、質問はギルドの運営自体にも波及してくる。


 ・冒険者の不自然なランクアップ

 ・多発していた依頼失敗後の消息不明

 ・明らかに裏金工作と思われる帳簿の改廃

 ・ギルド買取品の大量紛失

 ・不自然な人事の評価と異動

                 等々


 3週間にも及ぶ拷問に近い取り調べは、クラーマンだけでなくギルド職員にもおよび、中央ギルド本部から補充の人員を受入れなければ仕事が回らないほどに、関与を疑われて拘束される職員が出るほど徹底的に行われた。

 幸いなことに、私は知らぬ間に関与した事案も含めて白と判断されて通常の業務に戻れている。エディトは一部関与を指摘されたものの上位からの命令でもあり、関与の度合いから不正に気付けたかも怪しいとの判断でお咎め無しとなっている。


 ここまで大事にした彼女たちの姿を、あの日から誰も見てはいない。

 あの日の翌日に3人の冒険者が、迷宮(ダンジョン)内で襲われて2名の仲間を失った、とギルドに現れた。話の内容から、彼らを助けたのはユーフェミア達【スパークリング】だと推測でき、彼らを襲ったメンバーはクラーマンの配下だったと状況証拠が揃って、クラーマンに対する罪が一つ増えた。

 彼女たちには多額の報奨金が与えられることが決まったのだけれど、1月を超えたにもかかわらず迷宮(ダンジョン)から出た記録が無い。考えたくは無いが、彼女たちもまた被害にあって命を落としてしまったのだろうかと、心配が尽きない。




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