救出の結末
魔力感知と気配感知の精度を上げ、ネリーと二人で7層に向けて速足で移動を開始する。
彼女が遅れるようであれば速度を落とそうと思っていたのだけれど、仲間の事で気が急いているのだろう必死に足を動かしている。
階段および踊り場には誰一人居らず、7層に飛び出して直ぐ脇の人だかりに足を止めた。ネリーは走り下りた勢いのまま人だかりに分け入って行き、しゃがみ込んで声を上げて泣き出した。
「連れが、ごめんなさい。仲間を殺されて動転しているの。申し訳ないけど、通させてもらいますね」
ネリーのところまで進むと、フルプレートの鎧を纏った首の無い男が横たわっていた。首はと言えばネリーが胸に抱いている。このままというわけにいかないので野次馬に声を掛ける事にした。
「申し訳ないのですが、彼が殺されて所を見た方はいらっしゃいませんか?」
「見た訳じゃないが……。踊り場で休憩しているところに下から三人連れが駆け上がってきて、それを追うように武器を抜いたままの男たちが上がっていったんだよ。仲裁に入れるような様子でもなかったから、こうして降りてきてみれば首を切り落とされた男が倒れてるじゃないか。埋葬するかどうか話していたんだ」
「この先にもう一人の被害者がいるそうなので、二人の遺体を埋葬してもらえないでしょうか。銀貨4枚を山分けって事で引き受けていただけると助かるのですが」
「金は要らねぇよ。二人分掘っておくから、もう一人を連れてきちゃ貰えないか」
「ありがとうございます。ネリーさん、もう一人の場所を教えてください」
8層への正規ルートから右手に分岐した先だと教えられたので、男性二人を連れてラルクの遺体を回収した。ラルクからは愛用だったと言う短剣を、スコットからは大盾と短槍を遺品として預り、残りの装備は身に着けたまま埋葬した。
土をかぶせる前には6層で待っていた3人も合流し、最後の別れをさせてあげることが出来た。私が原因ではないのだけれど、関係が無いわけでは無いので『お人好しだねぇ』なんて言われようとも出来る事はしてあげたかったのだ。
荷は私の容量拡張鞄に入れてしまい、7層の冒険者とは別れて地上を目指す。戦力外を連れての近接戦はリスクが高いので、短弓を装備して先頭を歩き、アリスは三日月斧を担いで殿を歩いている、
ネリーとスコットは恋仲だったのだろうか、泣き腫らしてから憔悴しきっていて戦闘は無理そうに見える。ピーターも利き腕ではないけれど片腕を失っているので、おそらく戦闘は難しいだろう。さすがにアリスでも欠損した部位を戻すことは出来ないし、万能薬なんてものは王侯貴族でもない限り手には入らないだろうから、彼らの冒険者稼業はこれで終わりだと思う。
1層まで戻ってきて、ここで別れる事にした。
いざこざをギルドに放置してきた手前、のこのこと付き添ってギルドの受付なんて行けやしないし、行ったら行ったで疫病神扱いされそうだから今は近付きたくもない。
彼らの荷物も、大盾が重いだけで3人で持てない量ではないだろう。ここで引き渡してしまっても、3人でギルドの受付くらいには辿り着けるはずだ。
「ここまで戻れば大丈夫でしょ? 申し訳ないけど、私達は中層に戻るからここでお別れよ。長剣は不用品なんで、良かったら貰ってもらえると助かる」
「重ね重ね助かる。お礼はギルドに預ける、でいいだろうか」
「そうね。私たちのPT名は【スパークリング】って言うの。そこ当てで振り込んでおいてください。暫くは出てこないから、荷はここですべて出してしまうよ」
「あぁ。本当にありがとう」
出した荷は手分けして担いで、3人は振り返ることなく迷宮を後にした。
「あの人たち、冒険者は引退するんでしょうね」
「どうだろうね。片腕だって利き手が残っていれば剣は触れるし、女性2人は治療したからほぼ無傷でしょ。やる気って言うか気力が尽きていないかどうかだと思うよ。ただね。巻き込んでしまったように思えて、なんだか遣る瀬無いなって」
「ユーミさんが気にする事じゃないです。ユーミさんだって巻き込まれた側なんですから」
「そう思いたいけど、目の前に巻き込まれた人が居るとね。私もそっち側だとはとても言えないよ」
見えなくなるまで見送った後、私達は7層へと戻った。2人が埋葬された場所で再度手を合わせ、虱潰しの攻略を諦めて下層を目指した。
次にここを通ったのは2ヵ月も先になるのだが、この時はそこまでかかるとは想像もしてなかった。




