救出とお仕置き
感知出来た気配は3人分。迷宮攻略のセオリーから外れている。
上がって来てそのまま上階への階段に向かって進んでいるけれど、そのスピードが明らかに遅い。怪我を押して行動しているのかもしれない。
「今、下から3人組のPTが上がってきたんだけど、負傷者が混じっているのかもしれない」
「3人ですか? 治療するのは構いませんが、その後はどうします?」
「治療結果次第かな。依頼されれば上層まで付き添うのも構わないけど……。またPTが上がってきた! 先行するPTを追っているのかもしれない!」
「それって……」
「アリス、行くよ!」
後から来たのは5人組で、移動速度は重装備のDランク冒険者程度だけれど、それでも3人組に追いつくのに10分も掛からないだろう。私たちが駆け付けるとして、即戦闘可能な状態で邂逅する速度だと15分を少し切れるかぐらいだろう。
嫌な予感がして気が焦る。
短弓と麻痺魔法の矢を直ぐに撃てるよう取り出し、木々の間を縫って最短ルートを駆ける。ちょうど3人が追い付かれたところが木々の間に垣間見え、5人組が武器を抜いているのが見えたので速射で2本打ち込んだ。
8人ともに身動きが取れなくなったところに駆け寄ると、女性2人と怪我を負った男性1人に対し、人相の悪い男5人だった。
「アリス、拘束魔法をかけ終わったら、治療を優先して」
「了解です」
怪我を負った男性は左手が肘から下を失っていて、軽鎧も半ば破損し体中に多くの切り傷を負っている。女性の片方は魔術師のようでローブに杖を持っていて、もう片方は軽鎧に半ばから折れた長剣が握られている。
一方のクズ野郎どもは革鎧に短剣、ククリナイフやダガー、スティレットを装備した盗賊風の3人に、板札鎧にブロードソードを装備した戦士風の2人だ。総じて人相が悪く装備も薄汚れ、どこからどう見ても破落戸にしか見えない。
「あなた方も蛇のお仲間ですか?」
「分かっているなら拘束を外せ! 俺たちに逆らってタダで済むと思うなよ!」
「なら死んでください。マムシもニシキヘビも魔物の腹の中ですし、クラーマンも豚箱の中ですよ。そちらの女性を攫って、犯して、喉でも潰して、聖王国の貴族に渡すつもりだったのでしょ?」
「な、なにを言いやがる。クラーマンがどうして……」
「悪さをすれば捕まるのは道理でしょ。今回はギルドも憲兵隊も手は抜かないでしょうし、どうせ死しか待っていない未来なら、それが今だって問題ないはずよね」
アリスの方をチラッと見れば、治療はほとんど終わっているようだけれど男性の意識は戻っていないようだ。
「こいつらに襲われたって認識で合ってますよね」
「あ! あ、はい。そうです。助けていただき、ありがとうございます」
「3人でPTを組んでいたのですか? それとも既に?」
「5人組のPTだったのですが、出合い頭に1人が切られてしまって。その後も私たちを逃がすのにもう1人が残ったのですが、おそらく……」
「遺品を取りに戻りますか?」
「いえ。ピーター、怪我をしている彼はもう戦えないでしょうから、このまま地上に戻ろうと思います。申し訳ないのですが、護衛の依頼を受けていただけないでしょうか」
「承りましょう。アリス、手伝ってもらえる?」
治療を終えてこちらを見ていたアリスに声を掛け、わめき散らしているクズ共を森の方に引きずって行くのを手伝ってもらう。あまり人通りのあるところでする事ではないので、人目が届かないところでまとめて処分することにした。
こういった輩は改心する事など無いであろうし、苦しむことも無く一太刀でってのも腹の虫がおさまらない。クラーマンにも使ったスライム消化液を耳から流し込んであげれば、頭蓋骨の中からドロドロに溶かしていってくれるだろう。痛みを伴うのかは知らないけれど、徐々に死んで行く恐怖を味合わせられるし、こうなってしまえばどんな手段を用いようとも助かる道は無い。
縛ったまま処理したクズ共はそのまま放置し、助けたPTのところまで戻るとピーターの意識が戻っていた。改めて挨拶と自己紹介をすると、ピーターを支えていたのが剣士のスザンヌで、最初に話をしたのが魔術師のネリーだと名乗った。
他にタンク職で重騎士のスコットと斥候のラルクでPTを組んで10層の攻略をしていたのだそうだ。突破できずに戻る際中で奴らに襲われたと説明された。
5人で話し合った結果、アリスを護衛としてピーターとスザンヌのもとに残し、ネリーと私が殺されてしまった2人の遺品を回収することになったので、使わずにしまいっ放しにしていた長剣をスザンヌに渡しておく。魔物の気配も無いし、短時間であれば大丈夫だろう。




