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初のダンジョンお泊り

 休憩を終え、何戦か刃を交えて元の階段に辿り着いた。戦闘時間が極端に短い事も考慮すれば1周8時間ほどで、約半径10kmの真円に近いフロアだと思われる。東京23区の半分ほどの空間を柱も無しに支えられているのは、何とも奇妙な感じがするが不安は不思議なほど感じない。

 武器防具は装備しているとはいえ、ステータスの上昇やほぼ手ぶら状態なのもあって疲れはほとんどない。それでも1日動きっぱなしだったので、階段を踊り場まで下りて睡眠をとることにした。迷宮(ダンジョン)内で魔物が湧かないのは階段くらいしかないので、ゆっくり休むには踊り場を用いるのが一般的だと聞いていた。事実、5階層のボス部屋ほどの空間に、いくつものPT(パーティー)が思い思いに休憩を取っている。


「火を使っている人は居ないね」

「そうですね。皆、干し肉にパンでしょうか」

「魔力コンロくらいなら大丈夫かな? スープくらいは作りたいよね」

「目立つのもどうかと思いますけど、暖かいものが一品有ると無いとでは疲労回復の度合いが違いますし、端っこでパパッと作るくらいなら良いのではないでしょうか」

「スープだと時間が掛かるからチーズを溶かすだけにしよう。溶けたチーズとスライスした干し肉をパンに乗せればいいよね。お湯を沸かせば温かい紅茶は淹れられるからね」


 チーズだって匂わないわけでは無いのだけれど、スープを煮込むほどではない。細かく切ったグリュイエールチーズと白ワインをコンロに掛けた小鍋で熱し、厚めにスライスしたパンに干し肉を乗せておいて、チーズが解けたら上から掛けて熱々オープンサンドの出来上がり。かなりの手抜きだけれど、迷宮(ダンジョン)内なのだからご容赦願いたい。

 食べている間にお湯を沸かし、食後の紅茶を飲んだら順番に睡眠をとることになる。

 いくら魔物が出ないからと言っても近くにオオカミ(クズ野郎)さんが居ないとも限らないので見張りを立てる。組み立てたテントを順番に使って体を休ませた。


 何事もなく体をゆっくり休められたので、朝食を取って今日の予定を決めてしまう。


「今日はどうしようか。起伏が無いから迷いやすいけれど、この階層を歩き回る? それとも下に降りちゃう?」

「昨日はアーマーアントにミノタウロス、キラービー、オーガ種でしたから、もう少し他のも狩ってみたいですけど」

「7層の顔ぶれもそんなには変わらないって聞いているけど、階段に行くルートを避けて暫く留まってみようか。なんだったら幌馬車(キャンピングカー)を出しても良いし」

「では階段まで進んで、右手の方を散策してみましょう」


 7層への階段はこのフロアーの中央に存在するそうだ。そこまでのルートは人の行き来で踏み固められた道になっているらしい。もっとも、途中に点在する森の中は木々を迂回する場所もあって迷いやすいらしいし、大岩が点在する地点はそもそも硬い地表のためにルートがはっきりしない。

 直距離でも10kmは有るだろうから、よほど方向感覚に優れていないと魔物との戦闘後、方向を見誤って被害を拡大した挙句に全滅なんてのも有り得そうだ。


 岩場のところで迂回ルートを見誤って時間をロスしたものの、はぐれイビルベアとの戦闘1回だけで階段までたどり着いた。出発から1時間半程度なので、休憩なしで右手に折れて30分ほど進んだ森の中へとやって来た。


「昨日も感じましたけど、あまり魔物の気配が無いですね」

「そうでもないよ。迷宮ダンジョン内だからだろうけど、木々も少し魔力を放出しているから気配が薄まっちゃうんじゃないかな。周囲に魔物の集団が12、冒険者が3PT(パーティー)いるね。内、戦闘中は無しだよ」

「大物は居そうですか?」

「正面右手にミノタウロスが3体、距離700m強。これは射殺しちゃうね。魔石を取りに行く途中で小物の集団と邂逅しそうだから、そっちは近接戦で対応しよう」

「了解です」


 化合弓(コンパウンドボウ)を取り出して弦の状態を確認し、爆散(ブラスト)の矢を番えて3連射する。離れていても微かな振動を感じる程の衝撃に、3体のミノタウロスは頭や胸を吹き飛ばされて消滅した。

 邂逅予定だった集団は、イビルベアの亜種を頭とする群れのようだ。爆散の衝撃に驚いて動きを止めている。


「イビルベアの群れが足を止めたよ」

「掴みました。後ろから食らいつきます」

「了解。私は側面中央から一番デカいのから潰すけど、無理はしないでね」


 軽い速足で群れに接近し、二手に分かれた後は柄に手を添えて鯉口を切ったまま木々を縫うように接近する。残り50m程のところでアリスが先に仕掛けて、三日月斧(バルディッシュ)の一振りで2体の首を斬り飛ばした。

 群れの意識が爆破から後方へと移ったところで群れの中に飛び込み、すれ違いざまにボスの腹を切り裂く。一刀両断とはいかなかったものの、明らかな致命傷に片膝をついたところで首を落とす。

 後はもう簡単な殺戮劇だ。腕を振るっての爪攻撃を掻い潜りつつ、右に左に一刀のもとに切伏してゆく。最後の1体が魔石に変わるころには、先に戦闘を終えていたアリスが魔石回収を始めているほど、力の差が歴然としていた。


 魔石は有るに越したことは無いのだけれど、どうも手ごたえが無いと言うのが正直なところだ。早く下層に下りて緊張感のある戦闘をしたいと思うのは、元来の性格故か異世界(こちら)に馴染んだからなのか。

 ミノタウロスの魔石を回収しに歩き始めたところで、不意に人の気配が現れた。場所的には階段を使って下からPT(パーティー)が上がってきたようだけれど、どうも気配が普通ではないようだった。




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