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イメージと閃き

 部屋から出て見回せばナタリーさんが私に気付いてくれて、話し込んでいた冒険者風の男性に手を振ってこちらに歩いてくる。私もナタリーさんに向かって歩いて行くと、振り返った男性に笑顔を向けられ慌てて頭を下げた。実は顔に傷のある体格の良い男性だったものだから、笑顔が少し怖かったのもあって目を合わせられなかったのだ。


「無事にカードを貰えたようね。案外簡単だったでしょ?」

「そうでしたね。少しヒヤヒヤしましたけれど、あれでもスペックだけは優秀だったみたいで」

「そうよね。さぁ、それでは宿に向かいましょうか。昔使っていた宿がまだ在るって言うし、ユーミもそこで良いわよね」

「はい。夜はまた、魔術の講習をお願いしますね」


 話し相手の事には触れずにカードを見せて安心させると、2人揃って扉を潜って通りに出て歩き出す。

 向かった宿は、北門に近い商店が並ぶ通りから1本路地を入った場所にあった。路地と言っても広いし人の通りも切れる事なくあるので、独り歩きしても危なくはなさそうだった。

 その宿はナタリーさんが駆け出しの頃にお世話になっていたそうで、清潔でご飯が美味しいから期待してと説明された。その分お値段は少しばかり割高らしいけれど、ホッと気を抜ける時間は冒険者には必要不可欠らしい。気を張り詰め続ければ誰しも潰れてしまうものだと、経験者らしいアドバイスを頂いた。

 ナタリーさんは王城での仕事が始まればそちらに部屋を用意されるだろうからと、ここでは1人部屋を借りることにした。ちょうど隣り合わせで空いている部屋があって助かった。もっとも、この宿はパーティーで使うような大部屋は無くって、そういう面でも低ランクの冒険者が多いらしい。


 鍵を貰って部屋に入ると、大きめのベッドに文机とクローゼットが有るだけのシンプルな部屋で、もちろんお風呂やトイレなどついてはいない。トイレは共同だし、そもそも湯に浸かる文化の無いこちらでは絞ったタオルで体を拭くのが精々だ。

 それだって、親戚が越してきてからの境遇よりは随分と恵まれている。トイレは近くの公園かコンビニだったし、湯沸かし器は消されてしまうので冷めた残り湯を浴びて石鹸で髪も洗い、水を浴びて泡を流していたのだから。


 夕飯は1階の食堂で食べることになるのだけれど、それまでは自由時間にしようと言われ、部屋で空間魔法の練習をする。収納のスキルが有るものの、なかなか物の出し入れが上手くいかないのは、イメージが掴めないからなのだろう。かなり広い空間のどこに何を置いたのか、それが占める空間がどのくらいなのかなんて覚えておけるはずもない。


『そういえば、校外学習で行った通販の配送センターって棚がいっぱい有ったな。取り出す品の棚が光るんだっけ? あぁ、パックジュースやお菓子の販売機をイメージしたらどうだろう』


 物を入れる前にある程度の区画を先に作ってしまって、そこに番号を振っておけば番号を思い浮かべるだけで出せるかもしれない。試しにマントを入れてみると、空間魔法を意識したとたんにステータスと同じように入れたものの名前一覧が現れた。矢筒も入れてみれば一覧に追加され、入れたものの名前を意識すれば取り出せた。

 しばらくいろいろな物を入れたり出したりしていると、ナタリーさんが呼びに来てくれたのでそのまま食事に下りてゆく。


 冒険者ご用達なのだからだろうか、出てきた料理は量が多かった。具沢山の野菜スープに厚切り肉のステーキ、パンはバケットのように周りはパリッとしていて中はモチっとしていて食べやすい。保存の効く固焼きパンと比べるのは申し訳ないけれど、こちらで今まで食べたパンの中で一番の美味しさだった。

 ナタリーさんはワインを頼んで飲んでいたけれど、私は未成年なので水を貰う。こちらでは私くらいの年になれば飲酒するものらしいが、そこまでこちらの流儀に合わせる必要もないだろうけど、付き合いも有るだろうからチャレンジくらいはしてみたい。

 周りを見れば、冒険者風の装備を付けたまま人が割と多かった。冒険から帰ってそのまま利用しているようだ。とりわけ女性客が多いのは、宿が女性客しか利用できないからだろう。食堂までは男性客も入れるけれど、パーティーメンバーの女性が泊っている人くらいしか利用しないと教えてもらった。そういった面でも安心できる宿だと思っている。


 食事が済むと私の部屋に集まって魔法の練習となる。

 なる筈だったのだけれど、空間魔法が上手く使えるようになったので、持ち得た全ての属性魔法が初級レベルで使えるようになったため、特別授業は終了となってしまった。


錬金術師(アルケミスト)のジョブを持つからなのか、異界の知識故か覚えが早いわね。この分なら、王宮のお仕事も早く終わるかしらね。そうだと嬉しいのだけど」

「どうでしょう。確かに向こうの知識が有効に生かされているとは思いますけれど」

「ユーミが大丈夫そうだから、明日の夕方にでも王宮と連絡を取ってみようと思うの。明日の採取クエストは付いて行ってあげるけど、出来次第ではすぐに独り立ちよ」

「不安が無いわけではないですけど。私、頑張って生きていきます。いろいろ有難うございました」


 ナタリーさんの時間を奪ってしまっている申し訳なさと、独り立ちできる嬉しさに、独りで生きて行かなければいけない寂しさが混ぜこぜになって、なんだか涙が出そうになった。



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