なぜかクズが寄ってくる
風魔法を付与した矢を番えて放ち、氷の壁を切り裂いて排除する。
現れた開きっぱなしの扉の向こうには冒険者が5人居て、不機嫌そうな表情でこちらを睨んでいる。そのうちの1人が前に出てきて言い放った。
ボス部屋の扉って、5名の定員が揃うまで空きっぱなしなんだって。少人数のPTだと、後から来たPTに乱入されて横取りされることがあるらしい。もっとも、逃げ出す手段として定員まで入らないって手も打てるそうだ。
「新米冒険者がいきがりやがって! 人様に向けて魔法を放つなんてどういう了見だ!」
「人様の獲物を横取りしようなんて手癖が悪い大人たちが、随分な言いがかりだと思うのですが?」
「娘っ子が魔物の餌食なんて勿体ないからよ、手助けしてやろうと思っただけさ。さぁ、無駄話はおしまいだ。得物を置いておとなしく言う事を聞きな!」
「で? 犯して売りさばく御予定でしょうか? ゴブリンと同程度の行動倫理ですか?」
「うっせい!! うだうだ行ってないで早くしろぃ! こっちは穴さえありゃ、手足がなくたって問題ないんだからな!」
「ふたつ訂正しておきますよ。私はCランクですから新米とは言いません。あと人の言葉を話そうが、理性が無いモノは人とは言わないのですよ」
私が言い終わると同時に、アリスが拘束魔法を男たちに仕掛けた。追い打ちをかけるように、私も行動阻害魔法を付与した矢を放つ。この魔法は拷問にも使われることもあるデバフ効果魔法で、神経を剥き出しにしたように刺激に対して過敏になる。もちろん、通常は魔物へのダメージ増加等で用いられるものだ。
泣き叫びだす男共に蹴りを入れて気絶させて回り、ボスらしき最後の1人に尋問を施すことにした。
「いつもこんな事をしているの?」
「た、頼まれたんだ。目障りな小娘のPTが潜るから邪魔をしろって」
「誰に?」
「し、知らない男だ。ま、前金を貰った」
腰のポーチを切り裂けば、男のギルドカードが零れ落ちる。そこにはPT名も書かれていて、【バイパー】とあり、少し前に襲ってきて返り討ちにした行方不明扱いのPT【パイソン】との関連を窺わせる。
「そう。オジサンたちも生きたまま迷宮に放置される未来が、お望みなんだね。【パイソン】と同じように」
「やっぱり彼奴らも、お前たちが殺ったんだな!」
「魔物の後ろで良からぬ事を企んでいたから、一緒に凍らせて放置しただけ。泣き叫んでゴブリンを呼び寄せて連れて行かれたから、今頃よろしくやっているんじゃないかな。アナタはどっちが良い?」
「どっちってなんだよ! こんな事をして、ただで済むと思うなよ!」
デバフが甘かったようなので、アリスに目配せして尻に蹴りを入れてもらった。悶絶して黙った男に最後の質問をする。
「あなた達のクラン? は、なんて名前なのか教えて」
「……」
「命が惜しくないのね。まだ4人残っているから次に行っても良いよ」
「く、クラン【羽毛持つ蛇の使徒】。お前たちは、この名に怯えて過ごす事になるんだよ」
「そうですか。お迎えも来たようなので、それではさようなら」
魔力感知に複数の魔物が近づいているのを感じ、ブラックスライムのようなのでこのまま放置することにした。スライムは捕食した得物を生きたまま消化していく。ブラック種なら消化の様子が外から見えないので、仮に冒険者に見つかったとしても取り込み後なら見過ごされるだろう。
アリスに目配せしてデバフを解除してもらい、生成した冷水を勢いよく掛けて起こすと麻痺魔法で動きを制限する。間近に迫った魔物の気配から大きい個体そうなので、放置していけば後腐れなく処理してくれるだろう。
気になるのは、冒険者の気配も有る事。魔物を狩っていることからこいつ等の仲間ではないと思うのだけれど、お人好し過ぎてクズ共を助けやしないかがちょっと心配。それでも私が直接手に掛けるのも違う気がして、無人のボス部屋へと入った。
ボス部屋の奥へと進めば下層への魔法陣がある。そこに乗れば6層に繋がる階段に出るそうだ。その階段を上がっていくと四層に出てしまうらしく、裏からボス部屋に入ることは出来ないらしい。魔法陣を使って1階に戻る術は無いのだけれど、帰りはボスとやりあう必要が無いのは助かる。
「6層を確認したら、上に戻る?」
「疲れてはいませんけど、気が削がれたと言うか……」
「だよね。戻ろうか」
事前に聞いていた通り、6層は広大なワンルームだった。天井は高く、向こうの壁が見えないほど広い。太陽光が差し込んでいるのではと疑いたくなるほど明るく、今立っている丘は草が生い茂り、少し先には森が点在しているのが見て取れる。
「ガラッと変わりましたね」
「だね。よし、戻ろう。ギルドは明日で良いから、何か美味しいものを食べにいこう」
そう、嫌なことを忘れるにはお風呂に入るか美味しいものを食べるのが良い。さすがに宿のお風呂で長湯は出来ないので、美味しいものを食べてお酒を飲んで、気持ちをリセットしよう。




