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洗礼と言う名の悪さ

 迷宮(ダンジョン)に潜る事五日、着実に各階層を歩き回って迷宮地図(マップ)の検証を行っている。

 何故の検証かと言えば、細かい脇道や袋小路がかなり省かれていることが分かったからだ。このレベルでお金を取れるのならば、もっと細かに正確な迷宮地図(マップ)を作れば小遣い稼ぎになのではと思ったのだ。

 冒険者ギルドに確認したところ、ギルドも冒険者から買い取った迷宮地図(マップ)を売っていて、その売り上げの一部を冒険者(作成PT)に還元しているのだと言う。また、「ギルド建物外でなら自前の迷宮地図(マップ)を販売しても問題にはならない」と言質は取れたので、道具屋と交渉でもしてみようと思っている。


 現在の到達階層は3階層目に入ったところで、階段周りと東側に歩みを進めている。

 2階層目まではアリスでさえソロでも余裕の雑魚ばかりで、私は余裕をもってマッピングに集中していた。この階層でもそれは変わっていなくって、集団による挟み撃ちとかにならない限りはアリスが無双状態だ。

 人型の魔物ならば、長めの間合いから首元に三日月斧(バルディッシュ)を一閃して首をはねてしまうし、囲まれる前には一掃してしまう程に強くなっている。獣型の魔物は動きが速く首を狙いにくい事もあって囲まれてしまうが、石突と柄の丈夫さを有効に使って飛び掛かってくる敵をすくい上げ、首や腹を切り裂いて斃してゆくので安心して任せられる。

 私の出番があるとすれば……、こういった場合だな。


「挟まれたようですよ、ユーミさん。前も後ろもコボルトですけど、前は数が半端なく多いです」

「前は私がまとめて潰すから、アリスは後ろをお願い。押し付けて行った連中もまとめて叩いちゃうから」

「任せてください」


 普段から魔力も気配も探っているために、同一階層内であればかなりの広範囲で人や魔物の動きについて、私だけは知ることが出来ている。まだ記憶内のマップが抜け漏れだらけなので直接影響までは窺い知れないのだけれど、こうして押し付けられれば仮に戦闘中だろうが、それを仕掛けてきた連中を把握し続けることは容易だ。

 空間収納(ストレージ)から久しぶりに化合弓(コンパウンドボウ)を取り出し、袴下のカーゴショーツに仕掛けた容量拡張鞄(マジックバッグ)から魔法を付与した矢を取り出して前方に射る。

 (やじり)には中級氷魔法である『ブリザード』を仕込んであり、射てから数秒後に魔法陣を発現させ、通路一杯に数百メートルに渡ってあらゆるものを氷の彫像に変えてしまう。明らかなオーバーキルだけれど、後ろの冒険者も巻き込むようにするには他の選択肢は無かった。

 少し待てば後方のコボルトを殲滅したアリスが駆け寄ってきたので、進路上の石像を叩き壊しては魔石を拾って前に進む。


「た、たすけてくれ。魔法を解除して、ポーションを分けてくれ」

「……」

「頼む。後生だから。なぁ、同業者じゃないか、助け合うのが人ってもんだろ」

「……」

「畜生! なんでこんな狭い通路で特大魔法なんかぶっ放したんだよ! なんとか言えよ!」

「私たちは2人だけのPT(パーティー)ですからね。挟み撃ちの混戦なんかは願い下げなんですよ。襲い掛かってくるモノに遠慮はいらないでしょ? そもそも、あなた方はどうしてここに居るのですか? あのコボルトを狩っていたわけではないでしょ?」


 狩っていたコボルトが逃げ込んできたのならば、彼らとコボルトの距離はもっと詰まっていたはずだろうし、コボルトの動きも違ったものであっただろう。コボルトの動きはどう考えても狩る側の者で、強者から逃げていたとか自棄(やけ)になって襲ってきたとかではないと感じた。

 おそらくは私たちが女2人で軽装でもあり、襲われているところを助けて恩を売りつけるつもりだったのだろう。装備なのか体なのかは分からないけれど、そういった事もあるとは聞いていたので躊躇する必要は感じなかったのだ。


「し、新人に対する教育の一環で、押し、襲われる体験をだな、経験してもらう慣例が……」

「私たちが新人に見えるなんて節穴ですね。私はこう見えてCランクの冒険者ですよ?」

「Cランク!?」

「そう。だから犯罪まがいの行為には躊躇う事はしないんですよ。それでは、さようなら」


 倒れている男6人に笑顔を見ながら、膝の骨を砕いて回る。ついでに武器も取り上げ魔法を解けば、その場に放置して先に進んだ。

 たすけてくれと叫んでいたけれど、そんなものは無視しておく。思う存分叫べばよいのだ、その声に誘われるようにコボルトとゴブリンが近づいて来ているから、あと数分で悲鳴に変わって静かになるだろう。


「あれで良かったんですか?」

「良かったんじゃない? 少なくとも襲われる恐怖は味わえただろうし、あの程度の思考しか持たないなら生きている資格も無いでしょう?」

「そうですけど……」

「私が怖い?」

「怖くは無いですけど、容赦がないですよね。正義感が強いのか、自身の価値観に絶対的な自信があるのか分かりませんけれど」

「絶対的な正義なんてないんだよ。人と人が仲良くやっていくための最低限のルールは有れど、力がものを言う世界ならば力持つ者が正義でしょ。だったら力ある限り自分の思う正義を貫くよ。それが叶わない状況になったら、潔く死を選ぶ」


 絶対に納得できない理不尽には屈してやるものか!




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