ダッカラへの入国
無事に馬を買い戻すことが出来た私達は、そこから幌馬車の旅に切り替えて無事に隣国のダッカラへと入国できた。
出入国に際して、冒険者ギルドのカードが身分を証明するのに一役買ったのだけれど、まったく不審に思われることが無くってホッとした。もっともカード自体は正規品だし、登録を行ったのもギルド保有の正規の装置なのだから、これで偽造だと言われてしまう恐れなど無いのだけれどね。
ダッカラは海を有する商業国家で、この大陸の玄関口として他の大陸との貿易が盛んにおこなわれている。それに伴って、いろいろな種族やその混血が分け隔てなく生活しており、おのが才覚で財を成せる数少ない国でもある。
アセルラ聖王国側から入国するのは主要街道が通るミラバスかアスラビ、どちらか一方の街を通るのが一般的だ。もっとも森や山を越えればその限りではないけれど、友好国に入るにあたっては犯罪者でもない限り街を通らない手段はまず択ばない。
私達は街道を進み、馬を伴って徒歩でミラバスに入った。
特別仕様で他に類を見ない私の幌馬車では目立ってしまって、カードを偽造した意味が無くなってしまうと考えたからだった。少し多めの荷を馬の背に括りつけ、私たちは一抱え程のバッグを背負っている。
アリスにも容量拡張鞄を作って渡してあって、お金や生活用品などはそちらに入れてある。二人とも、背負ったバッグには携帯食料と衣類の一部が入っているだけで、馬の背には野宿に必要な用品だけだ。幌馬車を含めたその他の荷物は空間収納に収まっている。
「身分証は有るか」
「冒険者カードでよろしいですか? 初めて国を出たので勝手が分からないものでして」
「大丈夫だ。……うん、問題ないな。荷が少ないようだが、野盗にでも襲われたのか?」
「いいえ。魔術の心得が2人ともありますので水の心配もなく、弓が得意なものですから食材は途中で調達しながらでした。商売ではなく、こちらのダンジョンで心機一転出直す予定なのです」
「そうか。よし、通って良いぞ。冒険者ギルドの建物は、この通りを真直ぐ進んだ右手にある。頭ひとつ分高い建物だからすぐ分かるだろう」
「「ありがとうございます」」
さすが商業国家の国境に位置する街なだけあって、道は広くて馬車が行き来しても狭く感じない程だし、立ち並ぶ店先には見た事も無いものが多く並んでいる。漂ってくる香りにスパイシーなものが含まれているように思うけれど、食べ歩くには時間的にまだ早いので後回しにしよう。
ギルドに顔を出して宿とかを紹介してもらい、貨幣を換金してもらってからゆっくり回ろうと思っていたのだけれど、行く途中の武器屋に寄ることにした。チラッと見ただけでも種類が豊富で、程度の良いものが並んでいるように見て取れたからだった。
アリスのジョブは聖職者に改編してあった。得意とする回復や浄化系の魔法を使うのに、類にもれず聖魔法書を用いる。これは既に持っているものがあって、宰相閣下の伝手で上位ランクの物を頂いていた。ただ、今後の近接戦闘には相応の武器が必要なので購入する必要がある。
店に入ってまずポールウェポンが並ぶ区画に行き、槍斧や薙刀を見て回った。本人の希望で、重くても良いので間合いの広い得物を探していた。ドワーフの血が混ざっているせいか、見た目は細いのに驚くほどの力持ちなのだ。
「気に入ったのはある?」
「そうですね。……これなら振り回せそうです」
しばらく見て回ったアリスの目に留まったのは三日月斧。金属製の柄に三日月型の大きな刃が付いていて、他の物より短めの物が多い。短いと言っても私の身長くらいで、私では両手でないと持てないほどの重量がある。
それなのに頭ひとつ低いアリスは片手で持ち上げ、軽々と振り回して見せた。
「見た目ほど重くないです。品質はどうです?」
「悪くないよ。材質も含有量は多くないけど、ミスリルを含んでいるから魔力も流せるはず。うまくすればターンアンデッドの効果を纏わせられるんじゃないかな」
魔力を持つこちらでは、武器に魔力を纏わせて追加の効果を与えられる人が居る。特に上位の冒険者はその比率が高く、炎を纏った剣や毒効果の槍などが有名だ。アンデッドなどの闇属性特化の魔物は、聖属性を纏わした武器か聖魔法でしか倒すことが出来ない。
少し前に「突いたり殴ったりできる方が良い」って聞いてはいたけれど、刃が大きく柄の先端に回り込んでいるから突くこともできるだろうし、総金属製の柄ならば殴ったって折れる事は無いだろう。
店番に聞けばアセルラ聖王国の通貨がそのまま使えるとの事で、お買い上げすることにした。




