救われたお礼
そんなだから、私はやはり普通ではないのだろう。普通でありたいとは思っているのだけれど、状況がそれを許してはくれていないのかもしれない。
「まぁ、ユーミはかなり規格外だからねぇ」
「オークキングをソロ撃破でしょ」
「しかも新人のFランクでだもんねぇ」
「Dランクにだって最短だって聞いているし、Eを飛ばしたんだっけ?」
「馬車持ちでソロの新人冒険者なんて聞いたこと無かったよ」
「見ず知らずの私を助けたうえに、ギルドで交渉までしてくれて」
「「「「「本当に、規格外!」」」」」
「だからこそ、こんなにも美味しく酒も飲めるんだろうけどね」
「食事もそうだけど、マメだし、面倒見もいいし、実は長寿種でサバ読んでるとか?」
「正真正銘17歳の普通の女の子ですよ、一応はね。両親を早くに亡くしてお祖母ちゃん子だったから、いろいろ出来ないと生きていけなかったってのもある。祖母を失くしてからは、まあ辛い事ばっかりだったからね。だからこそ、ちゃんと精一杯生きようと思うんだ」
冒険者なんて、多かれ少なかれ家には居られなかった者たちが就く職業だと思う。平民で商売をしている家なら、家業を継いだり暖簾分けしたりできるけれども、貧しくて売られたり継げる家業が無い者も多くいるらしい。学が無い分、天性の才能みたいなものでもないと雇ってもらうのは難しいのだろう。貴族なんかだと三男以降なんてのは家督は継げないらしいので、無理して騎士を目指すか家名を捨てるかなのだと言う。
近しい人だとアリスだって両親はすでに他界しているし、ナタリーさんは親の顔も知らずだと聞いている。もしかするとパーティーを組むって事は、家族になるのと同じ意味合いがあるのかもしれない。仲間とは違った絆みたいなものが結べる、そういった関係って天涯孤独な私には憧れなのだ。
明日の昼には村に入れる予定なので、夜番の見張りは私とアリスが引き受ける事になっている。馬車に揺られるだけの行程なのだから、これくらいは役に立たないと罰が当たりそうだ。
今のところ、隠れているつもりだろう監視者の気配しか感じていない。魔物も、定期的に駆除されている街道沿いにはあまり出没することは無いと聞いてはいるけれど、絶対は無いのでしっかりと寝ずの番を務める。アリスも慣れてきたのか、少しの仮眠をしただけでちゃんと起きて見張り番を熟してくれている。
1年前にここで野宿したときは、生きていけるのか不安だらけだった。
着る物と弓は揃えたものの、冒険者として稼げるかなんて未知数だったし、価値観だとかが全く違うであろう荒くれ者の集団に飛び込んで、馴染めなかったり搾取されたらと思うと気持ちも萎えた。考えたくないのに思考がネガティブに振れてしまって、ナタリーさんに騙されて売られるのではとか、そばに居る冒険者の慰み者になるのではとか考えてしまっていたなぁ。
それなのに気付いたらちゃんと冒険者として稼げていた。
1人で生きていけるだけのジョブやスキルを与えられていたのが、功を奏したのかもしれないけれどそれだけだとは思わない。関わりたくないと思える人も沢山いたけれど、親身になってくれた人や支援してくれた人が居たから、こうして私は立っていられる。
従姉たちには悪いけれど、私はこの世界でしっかりと生きていく。
あなた達が今どうしていて、この先どうなるのかは分からないけれど、もう会う事もなく係わりも切れる事が私の最善であり、あの人たちの最適であってくれればいいなと思う。
夜が明け始めたところでナタリーさんが起きてきて、アリスと見張りを交代した。
「あれから1年、あっと言う間だったね。それなのにユーミは冒険者として独り立ち出来て、こうして気持ちの良い仲間に囲まれて誇らしいよ」
「初めて出会ったのがナタリーさんで、本当に良かったと思っています。あの出会いがあって、いろいろと教えてもらったから前を向けたのだし、自分を見失わずにやってこられたんですよ」
「今回私は、渡り人である子供たちを戦地に送る為の手助けをした。師の推薦を受けた国からの要請だったとはいえ、すでに半数は消息が分からなくなっている。今更だけれど、もっと教えてあげるべき事が有ったんじゃないかって後悔している。任が解かれてしまったとは言え、残った子たちがこれからどう扱われるかも見届けずに帰るのは、責任を放棄したようで心苦しくもあるわ。狡い考えだと思うけれど、ユーミだけでも救えたのだと思う事で自己嫌悪を押しとどめておけている」
苦しそうにそう言葉を紡いだナタリーさんは、とても無理をしていたんだろうと思えた。だからそっと肩を寄せて、握りしめている拳を優しく両手で包んで言った。
「祖母の受け売りなんですけどね。人が差し伸べられる手はとても小さく、全てを分け隔てなく救う事など出来やしない。だから優先すべきを優先し、注力すべきなのだそうです。私の国では二兎を追う者一兎も得ずって言葉があるほどですからね。だから仮にナタリーさんが全てをって行動したとたん、私も救われることは無かったんじゃないかと思います。改めてお礼を伝えさせてください。私に幸せになるチャンスをくれて、ありがとうございました」
ぽろぽろと涙を零すナタリーさんを抱きしめて「お母さんみたいに思っているんですよ」って言ったら、「そんな年じゃない」って怒られてしまったけれど、実年齢で言えばそれくらいのはずだ。だからギュッと力を入れてもう一度お礼を言う。
「ナタリーお姉ちゃん。私を救ってくれて、本当にありがとう」
そうしてお日様が顔を出し皆が起きてくるまで、2人で寄り添って暖かいぬくもりをずっと感じていた。




