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王都を発つ

 いつも通りに起床して、宿でいつもの朝食を頂く。本来だったら長くお世話になったお礼をすべきなのだけれど、部屋を借り続ける事で追跡の目を誤魔化すため、いつも通りの受け応えで済ませるしかなかった。

 落ち着いた先で名物の小物か何かを買って、お礼の手紙と一緒にギルド経由で送ることで感謝を伝えようと、無理やり気持ちを納得させる。


 ギルドの受付に顔を出せばカティアさんが1番広い会議室へと案内してくれて、中にはギルマスのモンスーン子爵とヘイルさんの他に、【銀翼の剣(サルベーションソード)】と【ワルキューレ】のメンバーが揃っていて、ナタリーさんと歓談していた。

 今回の送迎にはギルドの馬車と御者を頼む予定だったのだけれど、【ワルキューレ】のメンバーが「馬車の購入が叶ったから、試運転兼ねて送ってあげる」と名乗り出てくれたのだ。さらにアスターシャさんが、個人的にナタリーさんを送ってあげたいと付き添ってくれることになった。


「ユーミよ、乗り心地の良い馬車に感謝が尽きぬ。宰相閣下も大変お喜びだった。この国が君に多大な迷惑をかけていることは承知しているが、機会が有ったら是非ここに立ち寄ってくれると嬉しい」

「あちらに心残りが無いわけではありませんが、こちらで生きていこうと思えたのも、こうして私に力を貸してくれた人たちのお陰だと感謝しています。ですから落ち着いたらまた、ここに来て成長を見てもらいたいと思います。そうですね、カティアさんがビックリするくらいのランクになって、ヘイルさんが腰を抜かすような魔物を鑑定してもらおうかな」

「はは、是非そうしてくれ」

「私が在職中に来てね。来なかったら訪ねて行くんだから」

「ええ、そうしてください。いろいろ、有難うございました」

「そうだなぁ。腰を抜かすほど美味い酒が良いかな。だから、あまり無理するなよ」

「大丈夫です。逃げれる距離は確保していますし、頼れる相棒もいるんですから」


 ギルマス、カティアさん、ヘイルさんの順に挨拶を済ませ、建屋の裏手に出て【ワルキューレ】の馬車に乗り込んだ。馬車には御者のミラさんプリシアさんが居て、私やアリス、ナタリーさん、アスターシャさんが乗り込んだ。他のナターシャさん、シーアさん、ナディさんは愛馬に跨り並走しつつ護衛を担う。

 馬車は私設計の最新型で、横向きのベンチシートはベッドにもなる可動式。横にスライドして独立するトイレも完備していて、馬車の底に水を貯えるタンクも備わっている2頭引きだ。トイレを独立させたことで護衛業務時の貸し出しも容易に行える仕様は、シーアさんのアイデアを採用した特注だ。幌は耐摩耗性に優れたサンドワームをベースに、耐火と耐水の特性を兼ね備えた薬剤を染み込ませてある。


 馬車での移動は快適すぎるくらいで、休憩だって不要なほどだった。それでも馬には休憩も必要だし騎乗の3人には休憩が必要なので、定期的に休憩を挟んだり御者を交代したりして進んだ。

 ペースは乗合馬車よりも早いとはいえ、目的の村は半日で着ける程は近くないので、1泊の野宿は必要だった。


「さすがに今日は、獲物を仕留めることは出来なかったようだね」

「ゆっくりさせて貰いましたし、監視の気配がうるさくって。なので、お肉は貯えから提供しますね。お酒も有りますけど……」

「なら私とナタリーに一杯ずつちょうだいな。他のメンバーは明日の晩にご馳走になったら良いだろう」


 アスターシャさんに逆らう者なんて居ないのだから、提案はそのまま確定事項と言うことになる。

 ブロックのベーコンを取り出してスープ用とおつまみ用に切り分ける。スープはベーコンと生の根野菜を塩コショウの味付けで煮込む。おつまみはカリカリに炒めたベーコンと、作り置きしておいたスモークチーズを出しておしまい。

 お酒は請われてワインを炭酸割りにしてあげると、倍飲めるとナタリーさんは上機嫌になった。私たち飲まない組は、レモンの搾り汁と蜂蜜を炭酸で割って警戒しながらも団らんに混ざった。

 話題はもっぱら冒険での失敗談で、ナタリーさんからアスターシャさんが新人の頃にやらかした話を持ち出せば、その時に手助けの範囲を間違えて全滅しかけたナタリーさんの話で混ぜ返す。【ワルキューレ】のメンバーもそれぞれが失敗談を言い合い、私とアリスもそれぞれ暴露した。


「アリスに手持ちの武器はって聞いたら、ハンマーだって答えたんですよ。てっきり戦鎚とか大きい物を想像していたんですけど、見せて貰ったら板金とかで使うような小振りな物を出されて」

「だってそれまでは、家に籠っていたんですよ。冒険者になりたての後衛職で、普通に剣とか持っている方がおかしいですよ」

「私は弓使いだけど、短剣も持っているよ。長剣も買ったことがあるけど、使えそうもなくって売っちゃったけどね」


「ユーミさんだって酷いんですよ。私たちの訓練だとかって言って、魔物を間引いてくれるんですけどね。加減を知らないから残った魔物が怯えちゃって、訓練にならないこともあるんです」

「それはオークとかゴブリンがだらし無かっただけだよ。矢で追い立てただけで震えあがるなんて、魔物としてどうかと思うよ」

「それに剣を向ける私たちの身にもなってくださいよ。弱い者いじめをしているようで、ものすごく罪悪感が芽生えるんですから。逃げる足元に矢を連射されて、オーガが腰を抜かしたのなんて初めて見ましたもの」


 子分のオークを見えない距離から瞬殺して、慌てるオーガが足を向ける先々に矢を射て足止めをした時の事だ。認識外から射られる矢がよほど怖かったのか、腰を抜かして座り込んでしまったのだ。私たちが近づいてもお尻をずって後退りするだけで、闘争心とかプライドとかをへし折られてしまった感じだった。

 あの時にとどめを刺したモーリンは、埋葬してあげようかとまで言い出したものだ。




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