武器を変えようよ
本来であれば野営を挟んでの2日間だった日程を、独断と強行軍で1日仕事に短縮して王都に戻った。今まで何の鍛錬をしていたのかと言えるほど、彼らの動きは理に適わないものだったのだから。
「あなた方は、彼らを如何したいのでしょうか?」
見張りの兵士に問うべき質問ではないのは重々承知していたけれど、どうしても聞いておきたくなった。それだから「生き残りたいと思うのならば、それは彼らが足搔いて考える事」との回答に眩暈は覚えたけれど怒鳴る事だけは押さえることができた。
結果、そんな答えを得たので役割と装備の変更を提案し、まずは装備を整えるために王都のギルド本店に戻ることにしたのだ。
聞けば冒険者登録はしているものの、初期のクエストを満たしていないのでGランクのままだと言う。訓練名目で受けた依頼の報酬は、一応彼らに分配はされていたらしい。とは言っても素材の買取り分は貰っていなかったようなので、おそらく雀の涙程度しか貯えを持ってはいないのだろう。それも逃げる手段を奪うためだったのだろうと納得した。
金も持たずに装備を揃えるのは容易なことではない。
危険を伴う冒険者に金を貸すなんて物好きは聞いたことも無いし、装備を貸し与える者だって居るわけは無いのだ。だったら直談判するしかないと、ヘイルさん経由で子爵を呼び出してもらった。
「戦地に送られてしまった勇者たちの消息は、私の方でも掴めていない。おそらく捕まったか殺されたかだろう。攻め入った部隊は既に後退していて、攻めから守りに行動を転換しているそうだ」
「このままでは、残りの勇者も同じく使い潰されてしまうでしょう。彼らに恩も義理もありませんが、同郷の者として少しばかりの援助をしてあげたいと思うのです。具体的にはCランク位の冒険者による戦い方の指導と、ギルド名義での無利子の融資です。原資は私が出しますし、融資も武器防具の調達に限ります」
「私に許可を得る理由は?」
「ギルドが融資するのは、勇者への特例としてなのだと知らしめるため。あとは、軍に口出しをされない根回しが必要だと思ったからです」
「そうだな。私たちにとっても利は有り、どちらかと言えば渡りに船と言ったところなので承知しよう。それに、原資は私が出すのが良いだろう。その代わりに、君の知識を私達にも分けて欲しいのだが」
「分かりました。もう少し待っていただければ、極上の馬車をお披露目させていただきます」
新しい馬車の素材は集まりつつあって、ある程度は部品の加工も済んできている。当然ながら、それらの置き場は無いので空間収納に保管してある。空間収納の能力も高くはなってきているものの、学校の教室くらいのサイズしか広がってはいない。1度だけ満杯になってしまったことがあって、魔物の素材を全て嵩張らないようにインゴット状に錬成してしまっていた。
インゴット状の各種素材は、必要分だけ切り出して混ぜ合わせて加工していくので、素のままの素材より無駄が無くなって重宝していた。既にボールベアリングやサスペンションも完成していて、フレームも成型が終わって車軸まで組みつけ済みの状態だ。
素材未入荷のせいで出来ていないのは車輪。木のホイールにゴム質のタイヤを嵌めようと思ったのだけれど、未整地の砂利道では耐久性が心許なくて断念した。代替え案として、既存車輪の接地面にクッション性のあるブルースライムを加工したシートを張り、丈夫なアースドラゴンの革で包む予定でいる。
私用は錬金術を使って強度や精度を上げてあるけれど、普通の鍛冶屋や木材加工職人製でも問題は起きないはずだ。もっとも、定期的にメンテナンスと言うか部品交換は必要だろうし、それは既存の馬車と何ら変わらないはずだ。頻度と費用は多少高くつくが、乗り心地でお釣りがくると見込んでいる。
ギルドの施設には多様な武器が貸し出し用として用意されている。当然ながら練習用として刃を潰してあったり、要所を木製にしたりと訓練用に特化しているものだ。いきなり買うなんてできないので、ここでいろいろな武器や戦い方を学んでもらいたいと思っていて、ナタリーさんやギルマスの力を借りつつ勇者に来てもらった。
服部圭介は攻撃魔法と長剣を使った訓練を繰り返していて、これまでも受けてきているのでベテランからアドバイスを貰う程度でほぼ自主練となる。
自主練は近藤正直も同じで、大盾と斧槍を用いた牽制と防御の訓練に明け暮れている。
御園晃は短剣の扱いを教わりつつ、動き回れる体力づくりと遊撃手としての位置取りを訓練している。もう少し体幹がしっかりしたら短剣の二刀流も有りらしい。
三枝幸奈は補助魔法を覚えるようにアドバイスされ、練習がてら御園に魔法を放ってみたり攻撃魔法を復習したりと精力的だ。ナタリーさんもこれまでは制約が多かったようで、伸び伸びといろいろな魔法を教えていて双方楽しそうだ。
今回の発端となった水島裕子は、戦棍と丸盾を使った訓練と槍刀と言われる薙刀のような武器の訓練を並行して行っている。後方に居て幸奈を守る位置で戦うそうで、陣形に合わせて武器を使い分けたいと言っていた。
そんな感じで2ヵ月も経てば、Cランクの討伐依頼を安心して任せられる程のパーティーになっていた。




