王都に向けて
夕食が鶏っぽい肉のソテーと茹で野菜にパンだったので、朝は期待してはいなかったら案の定パンとシチューだけだった。パンは硬くて少し酸味があるものだし、シチューは具などほぼ溶けてしまっている。お米は期待できないけれど、もう少し柔らかいパンが食べたいと思った。
昨晩の話では乗り合いの馬車に乗って王都を目指すことになっていたのだけれど、その乗合馬車がまだ村に着いていないと門番の男性に教えてもらった。1日くらい遅れることなんてザラだと言われ、そう言えば分単位で公共交通機関が運航されているのは日本くらいだったと思い出す。
娯楽も無い村の中で馬車の到着を待つのも勿体ないので、森の淵で弓の練習をしてみることにした。ここなら馬車の到着も見て取れるだろうし、誤射しても村に矢が飛び込む心配もない。森に飛び込んだ矢が人に当たるなんて心配もしたけれど、淵の辺りは木も疎らなので人が居れば気付けるだろうと的を置く。
試しに20mほど離れて射てみれば、全ての矢が的の中心に突き刺さった。的に集中すると大きく見えてくるし、体が自然とココだって感じに動いてくれる。これがスキルの効果なのかもしれないとナタリーさんに話せば、やはりギフトの効果が強いのだろうとのことだった。
最終的には100mほど離れてみても中央を外すことが無かったので、獲物さえ見つけることができるならば狩人としても暮らしていけそうだと思った。なにより思いのほか飛距離が長いことに驚いたのだけれど、ナタリーさん曰く普通はそこまで飛ばせないとの事。
太陽が真上に上ったころに馬車が到着した。荷馬車と乗り合いの幌馬車の混合キャラバンで、剣を腰に吊るした冒険者風の者も数人いる。魔物以外にも野生動物とかが襲ってくることも有るので、キャラバンには護衛が付き物だそうだ。
こちらの世界では貴族などの裕福層でなければ昼食を食べる習慣は無いそうで、お金を払って馬車に乗せてもらって即出発となった。
「お嬢ちゃんは冒険者じゃないのか?」
「まだ。狩りは村で少し経験があって、口減らしも有って冒険者に成ろうと王都に向かっている途中です」
馬車の横を徒歩で護衛する冒険者が珍しくって、ついつい目が行ってしまっていたのに気付かれたようで、冒険者のおじさんが話しかけてきた。そういった質問をされるのも想定の内だったので、事前に考えていた答えを話してニッコリと笑ってみた。
笑顔って苦手なのだけれども、愛想良くしていた方が希望をもった田舎者に見えるだろうと、少し頑張ってみたが功を奏したのだろう。おじさんもニカっと笑って色々教えてくれた。
「そうか。登録したてのGランクは薬草採取とかの簡単な依頼しか受けられないが、Fランクに上がれば討伐とかも受けられるようになる。Eランクくらいからはソロじゃ厳しいだろうから、早いうちにパーティーに入った方が良いぞ。あまりランクが離れてっと雑用を押し付けられたりするが、まぁ勉強にはなるかな」
「しばらくはソロで頑張ってみますよ。良いご縁があればパーティーでの活動も楽しそうですね。それにはまず、簡単な依頼くらいは熟せる様にならないと、ですね」
「だな。Dランクになれば護衛の仕事も受けられるようになるが、Dランクに上がるには人が殺せる事が必須だ。護衛なんぞやっていると思うんだがな、野生動物や低ランクの魔物より人間の方が恐ろしい生き物だと思い知らされる。盗賊だけじゃねぇ。人を攫って売りさばく商人や、平民なんぞ虫けらだと思っているお貴族様なんてのも居るからよ」
確かに人が襲ってきたのならば相手を殺せる覚悟と技術が必要だろう。そうでなければ自分が殺される事になってしまうのだから、それが出来ないのならば低ランクの冒険者のままでいるか、足を洗って商売でも始める必要があるのだろう。
それにしても、良くもまぁ馬の速度で歩きながら話ができるものだ。まずは体を鍛えることから始めないとだめだと思った。
その晩は野宿となった。
草原に入っていたので街道から少し脇にそれ、焚火を囲んで食事を取る。もっとも、干し肉と硬いパンを薄味のコンソメっぽいスープに浸して食べるといった簡単なものだった。食べ終われば各々マントにくるまって寝るだけだ。
さすがに草の茂った中で横には成れず、荷馬車から降ろしていた箱に寄りかかって眠りにつく。冒険者が交代で見張りをしてくれるらしいけれど、睡眠不足で日中は歩きっぱなしって、どれだけブラックな職なのだろうかと少し怖くなった。まぁ、街を拠点に日帰りの依頼を受ければいいかと、この時は安易に考えていた。
夜明けとともにモゾモゾと起きだし、焚火の火を借りて沸かした湯でお茶を用意して、パンを齧るだけの朝食を済ますとまた馬車に揺られる。二度ほどの休憩をはさんで、昼過ぎには王都に辿り着くことができた。