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解放と迷走する疑惑

 ヘグィンバームさんが軍から解放されたのは、私が呼び出されアリスのも含めてカードを偽造した日から3日経った午後だった。

 食事はちゃんと出されていたようだけれど、精神的に追い詰められたしまった事からか、ずいぶんと痩せてしまっていた。それでも笑顔でギルドに現れ、私からの巻き込んでしまった謝罪に「気にすんな。諸々でトントンだ」なんて苦笑いを浮かべ、逆に「アリスの事をありがとう」とお礼まで言ってくれた。


 アリスのジョブは今まで調べた事は無かったそうだ。ジョブを調べるには教会に出向く必要があるらしいが、王都の教会は亜人に対する偏見もあって調べてはくれない。どうしてもと言う場合は地方から研修などで訪れる司祭を訪ねて依頼するか、手っ取り早く冒険者登録をするのが普通だと言う。当然それぞれ費用は用意しなくてはいけないし、そのお金が工面できない者は自身のジョブなど知らないまま希望する職に就くか、辺境に移るか国を出るのだと言う。


 だとするならば、アリスが狙われた原因はジョブ以外と言うことになる。一番有りえそうな理由で確率的に低そうな理由が消えた事で、原因と警戒対照を絞れなくなってしまった。


「アリスの冒険者登録時のカードがこれだ。ジョブは枢機卿(カーディナル)と出ていることから、教会に入ればそれ相応の地位は約束されるが……」

「アリスはハーフだ。教義に『人こそ神に認められし種族』と謳う教会が、はたして真っ当な扱いをするだろうかだな」

「良くて軟禁、悪ければ幽閉も有り得るか」


 この国の成り立ちは教会が大きく関与している。


 神話の時代、1柱の神が箱庭としてこの地と空と海を作り、そこに人族と魔族を住まわした。人は神の子として、魔族は人に仕える物として生み出された。故に魔族は人に従うべき家畜であり、人と魔族の混血種である亜人もまた家畜同等である。


 そんな出だしの教義を当たり前のように布教する教会は、人族至上主義を掲げる国を作って地上の支配階級を目論んでいくつもの国を興した。この国は特に教会の力が強い国として周辺国から認知されていて、それもあってか魔族の国へ侵略することを当然の義務だと考えている。

 だからこそ渡り人なる者を自己都合で呼び出し、厚かましい事に異邦人など踏み台や道具くらいの認識しか持ち合わせないのだ。


 ちなみに平民で熱心な信者という者はあまり居ない。なぜならば、そんな教義で腹は膨れるはずもなく、ドワーフなどの亜人が生み出す物が生活を豊かにしているのだから。国を動かす貴族では信者が多いそうなので、舵取りが思想的に偏ってしまうのは致し方ないのだろうが、末端はその日その冬を如何に越そうかが最大の関心事なものだから、なんとなくバランスが取れているように感じる。

 そんな国なので王都に近いほど差別意識は高まり、地方ほど亜人種との共存が多くみられると言う。例外は冒険者で、国を行き来して行動することも多い仕事柄差別意識はかなり低い。魔族の国との交流はさすがに無いらしいけれど、この国でさえ亜人種の冒険者は少なからず登録しているそうなのだから、差別意識はとても低いと言われている。身体能力は亜人の方が高いので、差別意識よりも嫉妬心が勝っているかもしれない。


 この世界に進化論が当てはまるかは知らないけれど、ハーフが居るのだから遺伝子的には近いはずで、元は単一種だったものが環境に合わせて枝分かれしたのだろうと考える事もできる。亜人たちが人族との交流を拒絶し始めたら、人族なんてあっと言う間に消え去ってしまうだろう。潜在能力の高い種族ほど子が少ないらしいし人族の人口が多い事からも、あながち的外れではないと思っている。


 ちょっと逸れたが、そんな感じでアリスの身柄を押さえる理由を絞り込み切れない。ヘグィンバームさんを言い成りにする人質か、排他的組織か、人身売買目的の人攫いか、上げればきりがない。

 そんな中だけれど、今使っているカードに記憶されているジョブは冒険者に一定以上居るらしいヒーラーにしてあるので、スキルの習熟を上げる活動程度ならば目立つことも無いだろう。ギルドの職員で回復スキル持ちが居て、勉強の合間に魔法の練習もこなし始めているアリスは、将来についてもある程度考え始めているのかも知れない。


「アリスは今後どうしたいんだ? また俺と一緒に暮らすか、冒険者として生活していくか、いっそのこと国を出てしまおうか」

「まだ先の事はわかんないけど、このまま冒険者を続けていきたいな。あの。もちろんユーミさんが迷惑に思うなら、他の方と組むなりしますけど」

「私はアリスといるのは楽しいから、アリスが望んでくれるならPT(パーティー)を組み続けたいかな。もちろん奴隷紋は消してもらうし、対等な相棒としてね。だからいっぱい勉強して私を助けてね」


 最後の言葉にアリスは眉をハの字にしてしまったけれど、おおむね皆が納得できる形に落ち着いたと思う。もし私の素性がバレて追われる身になったら、その時には子爵(ギルマス)にアリスの身柄を守ってもらえば良いと思っている。その事は後でヘイルさんに相談しておこう。




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