身分証の偽造
ひとしきり弓の説明をして、『特殊な弓』と『それを使いこなす私』が特別なのだと納得してもらった。それも全て、私が渡り人だと言うことが大きく影響していると思う。もっとも、ジョブかスキルの影響が大きいだけだと言いたいのだけれど、比較のしようも無いので口を噤む。
「今後、どのように君のサポートをするのが望ましいのだ? 私も宰相閣下も、君がこの国を出ることを止めるつもりは無い。そもそも異界から人を攫ってくるような行為自体、許されないものだと憤りを感じている。戻してあげることが出来ないからこそ、自由に生きてもらえるサポートをしたいと考えているのだ」
「直ぐではありませんが、王都は離れようと考えています。他の国も候補としてありますが、今はまだハッキリしたところまでは決めていませんが。それでなんですけど、可能であれば冒険者ギルドのカードを作り直してもらいたいのです。ここを離れた後は名を変えようと思いますので、先にその名でカードが欲しいです。ランクはGからでも構いません」
「新たな登録用ステータスを使って、て事なのだろ。そこはカティアにやらせるから大丈夫だ。ランクは……」
「かまわんよ。貴族の横やりでランクを上げる行為が、今まで無かったわけでもない。私から閣下に話をし、誰かの推薦を貰った体裁は整えておこう。それより、今作ってしまった方が良いのではないか?」
さすがギルマスの屋敷、登録設備がそっくり揃っていて即発行してもらえた。ランクは据え置きなので、国からの強制依頼を受ける受け取る心配はない。軍からの干渉は有るかもしれないけれど、こればっかりは出たとこ勝負だろうしペナルティーは実質無い。
《ユーフェミア》
【種 族】 人族
【ジョブ】 狙撃名手
【スキル】 遠見、必中、強弓、速射
【魔特性】 水、無
これが新たに作ったカード用のステータスで、ユーフェミアの愛称がユーミと言うことになる。これだったら今までと表面上は変わりなく動くことが出来そうだ。見せるのはカティアさんに限定せざるを得ないだろうけれど。
「まだいろいろ隠していそうだが、そこは置いておくとしよう。ちなみに、他人のステータスも誤魔化すことが出来るのか?」
「無理でしょう。そもそもやり方が解りませんので。自分のステータスは、そういった自分だと思い込むことでごまかしています。催眠術でも使えればあるいは、とも思いますがスキルが有りません」
「そうか。出来ればアリスのカードを作り直せるかと思ったんだが、無理なら致し方ないな」
たしかに彼女も権力者に目を付けられそうなステータスではある。水晶からカードに直接書き込みを行うので、途中で介入することは難しいと言わざるを得ない。だけれど、ひとつ試してみる価値は無いだろうか。
「キャサリンさんはギルドカードをお持ちですか?」
「持ってはいないの。でもなぜ?」
「ちょっと試したいことがあるのですが、協力していただけますか」
キャサリンさんに水晶に手を乗せてもらい、その上に私の手を重ねて強く念じる。すると、水晶に現れていたキャサリンさんのステータスに変化が現れた。
「ジョブ、が変わったね」
「確かに。他はどうなんだい」
「名前は駄目、でした。スキルも弄れそうですけど、項目が多いと端から戻ってしまいます。これでカードを作ってみましょう」
異端審問官のジョブを法務官に変えてカードを作ると、ジョブとスキルの整合性が取れない以外は普通に作ることが出来た。それを使って入出金手続きを行うことが出来たし、依頼の受付も問題なく進められることが確認できた。
「何とかなりましたね。とっても疲れましたけれど」
「出来るもんなんだな。有り得てはならないんだが」
「折角だし持っていけ。嫌いなジョブが隠れたんだ」
「本当に有難い事です。アレは印象が悪いのですよ」
宗教色の強いこの国でも、異端審問官などと言う職業は公には認知されていない。いないのだけれど、こうしてジョブで現れる人が極まれに現れるので、教会中枢には存在するのではないかと囁かれているそうだ。
異端審問とは教義に反する者を捕らえて拷問するイメージがあるが、こちらでもそのイメージは変わらないようで嫌われジョブだと教えてもらった。スキルに調査や聴取はあるけれど、拷問とか物騒なものがあるわけではないのにそれでは切ない事だと思う。こうしてカードを作れたことは偶然ではあるけれど、ジョブの不利益を被っている人が、1歩でも前に進める手助けができたのだと思えば、人をだますだけのこのギフトも少し誇らしい。
その日は食事までご馳走になってしまって、解放されたのは夜も更けた時間となっていた。
ヘイルさんと再び馬車に乗って預り所まで移動し、そこから徒歩でギルドの本店へとやって来た。アリスを預かってもらったままだし、カティアさんが残っているのであればカードの再発行もしてしまいたい。
ギルド建屋の上階にある仮眠室で、カティアさん講師のもとでアリスの勉強会が開かれていた。近隣で見かける魔物の情報や遠出で注意する点などを、繰り返して教えてもらっているのだ。初心者は誰しも受けるもので、私もカティアさんに教えてもらった口だ。もっとも、教本を読み切ったところで問題なしと終了となったのは、四苦八苦しているアリスには言えないだろう。
切りの良い所でお開きにしてもらい、ギルドカード再発行の手続きを行った。作業自体はあっけないほど短時間で終わったのだけれど、カティアさんの追及がとんでもなく長かったのは、子爵邸での話し合いより神経を使うものだったのが解せない。
それでも、私やアリスを知らない街に移れば身バレし難くなったことを、カティアさんに喜んで貰えたのは良かった。




