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偽りの制約受諾

 暇になってしまったのでボウガンを試させてもらう事にした。使ったことは無いのだけれど、許可を貰って棚のボウガンに触れてみれば使い方がすぐ理解できる。ジョブ様様だ。

 そのまま持ってきて位置に着き、テンションが想像よりも低いので片手で弦を引いてセットし、一緒に持ってきた矢を溝に合わせて嵌めると的を射てみる。テンションに見合った勢いのまま射出された矢は、放物線を描いて的の手前に突き刺さった。どうやらもっと上を狙う必要があったようで、こちらはジョブの効果が発揮されなかった。

 次の矢をセットするのにふと後ろを見れば、さっきより驚愕を浮かべた顔が増えていて、余りの下手さに呆れられてでもいるようだった。


「ちょっと待て! お前は使い方を知らんのか!? いや、なぜ引ける?」

「テンションが低いのは使い方が間違っていたからですか? それとも調整中だったとか?」

「え? それを貸せ」


 いきなり取り上げられたボウガンの弦を、若手の兵士が歯を食いしばって引こうとして顔を赤くする。通常は巻取り機を使って引くそうで、どうやら強弓のスキルはボウガンにも有効だった様だ。ならば誤魔化しスキルに加えておかなければならないだろう。

 案の定、諸々おかしいという事になって建物の中に連れて行かれた。

 通された部屋には水晶があって、ステータスを暴くつもりのようだ。そしてここでも水さえ出されやしないし椅子も無い。


《ユーミ》

 【種 族】 人族

 【ジョブ】 弓名人(アーチャー)

 【スキル】 遠見、必中、強弓、速射

 【魔特性】 水、無


 ギルドの物と一緒で、うまい具合に誤魔化し済みのステータスのみが表示された。

 唸る軍人たちを他所に、ヘイルさんと並んで成り行きを見守る。既に弓がどうのと言ったレベルの話ではなくなっているので、ヘグィンバームさんがここに居る理由も無くなっている事だろう。逆に、私が留め置かれる可能性もあるのだけれど、私を留め置く意味は正直なところ無いはずだ。


「どうやら君自身の能力によるものだった様だ。そこでだ、我々は君を歓「それ以上は宰相閣下を通して下さい」なぜだ!」


 名乗りもしない連中が、また先走った事を言いかけたところにヘイルさんが割って入った。


「彼女は冒険者です。既にギルドで活躍もし、ランクも相応に上げています。それはギルドマスターであるモンスーン子爵もご承知ですし、ストラーダ宰相閣下からも励むようにとお言葉があったばかり。後々、彼女に咎が掛からぬように通すべき筋をまずはお通しください」

「だが、これだけの逸材を市中で遊ばせておくのは、国にとっても大変な損失だと思うが? 宰相閣下もそう仰っていただけるに違いない!」

「どうでしょうかねぇ。彼女一人が入ったところで、戦況が変わるほどの効果は得られるとは思えません。彼女のスキルを分かち合うのは、任意のスキルを付与するのと同じくらい不可能です。仮に勇者の随行者とするならば、今はまだ冒険者として能力を伸ばすべきかと」


 傍で聞いていて落としどころが見えないでいると、廊下が少し騒がしくなってきた。その騒ぎは徐々に近づいて来ていて、扉の向こうで止まるとノックの音が響いた。

 扉が廊下側から開かれて恰幅の良い初老の男性が2人、1人は優しそうな笑顔で、1人は今にも怒鳴り散らしそうな怖い顔で入ってくる。


「いつから軍部は、私に断りもなく善良な冒険者を尋問する権利を得たのかな」


 優しそうな笑顔の裏に、得も言われぬ迫力を持ってそう質問されたのは、その人と一緒に入ってきた人だった。尋問はされていないのだけれど、部屋の誰もが喋ることを許されていないように黙り込む。


「会議室で双方座ってお茶でも出ていれば文句は言わぬ。が、この状況は看過できぬな。さて、有望な新人が酷い目にあって他国に逃げてしまっても困る故、私が預かってゆくが問題ないな」

「いえ、話はまだ。その、今後の協力を得られるように。ええと、誓約書なりをですね」

「何をわけの分からぬ事を! そのような権限をお前らが有しているとでも思っているのか!」

「あの! 発言をお許しください。誓約書をかわすと何かあるのでしょうか?」


 言い争いになる前に、私は話を進めるべく話に割り込むことを選んだ。

 それに答えてくれたのは、同行者のヘイルさんだった。


「この場合だったら、『【制 約】 アセルラ聖王国の行動制約を受ける。違反時は犯罪奴隷の紋が発現する』とステータスに刻まれる。違反などしなくとも、国の奴隷になるのと変わらない」

「その程度なら、私は構いませんよ。それでこの場が収まるなら、この国に生まれた者として受け入れましょう。ヘイルさんが刻んでくれるなら安心ですから」

「そりゃ、出来なくはないが。本当にいいのか?」

「ヘイルさんなら分かっているはずです。私だったら大丈夫だって」


 軍が用意した誓約書をギルド職員のヘイルさんが刻むことで、三者の同意のもとに行われたとの体裁が整う事になった。

 多分、名前を偽っている私には効くことは無い制約。アレを見て見ぬ振りをしてくれるであろうヘイルさんに、すべてを託すことにした。


《ユーミ》

 【種 族】 人族

 【ジョブ】 弓名人(アーチャー)

 【スキル】 遠見、必中、強弓、速射

 【魔特性】 水、無

 【制 約】 アセルラ聖王国の行動制約を受ける。違反時は犯罪奴隷の紋が発現。


 そのステータスを水晶で確認したところで、今日は帰って良い事になった。

 帰りの馬車内で、途中で割り込んできたのが宰相閣下だったことを教えてもらった。あとで怒られるんだと嘆くヘイルさんに、今度ちゃんとしたのを見せるからと宥めたのは信頼の証だと思ってほしい。だって、さっき確認した本来のステータスには制約なんて無いのだから。




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