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Side ヘイル

 ヘイルが呼び出されていたのは、子爵を賜るギルドマスターの屋敷だった。

 同席しているのは屋敷の主であるモンスーン子爵の他に、宰相を任されるストラーダ侯爵のみであり、人権擁護派の面々だと言っても差し障りのない布陣だった。


「ユーミと言ったか? 有望株の新人は、良く活躍しているそうではないか」

「はい。少々偏った価値観が見受けられますが、とても田舎育ちの娘とは思えない思慮深さを持ち合わせています。また、弓の腕前は他を寄せ付けない程です」

「Bランク揃いの【銀翼の剣(サルベーションソード)】でさえ、その腕前に畏怖を抱いたと申しておりましたそうで、宰相閣下のご心配も頷けますが……。ヘイルよ、ギルド登録時の値に嘘偽りは無いのだろうな」

「ギルドの水晶を騙くらかすスキルなんて聞いたことも無いですが、仮に彼女の渡り人とするならば、ギフトって言われるイレギュラーを考慮すべきかと。実際、ヘグィンバームが聞いたジョブが登録と違うのです」


 ヘイル自身、ギルド登録時の水晶を誤作動させる能力など、考えたくもないし有ってはならないと思っている。しかし、ユーミがヘグィンバーム作の特殊な(異世界の)弓を使っていると聞いて、久方ぶりに飲んだ席で彼から聞かされた話は、ギルドで報告を受けた内容と差異があった。

 本来であれば、即ギルドマスターである子爵に報告すべき案件ではあったが、ユーミと言葉を交わし彼女の活躍を聞くに中で得たイメージは、決して悪いものではなく報告を躊躇わせていた。アリスの件も含め、職務怠慢だと言われようとも口を噤むことを選んだわけだった。

 もっとも、彼女が国の把握していない渡り人だと言うのであれば、この場で上位者に保護を求めるのも吝かではない。


「ギルドの記録では弓名人(アーチャー)となっていて、遠見と必中のスキルのみが発現していました。弓名人(アーチャー)自体珍しいのですが、ユーミがある人物に語ったと言うジョブは狙撃名手(シャープシューター)。それが事実ならば、おそらくスキルも更に発現している可能性が高いでしょう。そうであるならば、オークロードを3射で仕留めるなんて与太話も真実味が出てきます」

「【月の雫(ムーンドロップス)】が証言したのだったか? 死体を持ち帰らなかったと聞いたが、冒険者が高額素材を持ち帰らない事などあるのか?」

「普通なら考えられません。ですが【月の雫(ムーンドロップス)】が仕留められる獲物ではなく、魔石を買いそろえる金など持ってはいないでしょう。剣も持たずに無傷で帰還しましたから、近接戦闘にはなっていないものと断言できます」

「それだから、アレが動いたと言ったところか」


 宰相閣下が言葉を濁した先が想像できてしまう。

 閣下の(スパイ)が軍部に入り込んでいるように、ギルドにも軍部を中心とした主戦派の(スパイ)が入り込んでいる。そこからユーミの関わる情報が洩れていても不思議ではないし、軍の関係者が勇者一行と同行したあの依頼時にも、彼女はその実力を見せつけていると聞いている。

 いままで見向きもされなかったヘグィンバームがここに来て行方不明なのは、ユーミの使う弓矢に先ず疑いの目を向けたのだろう。おそらく、奴は軍の工廠(軍需品製造)将校あたりに拉致されているとみて良いだろう。


「私もヘイルの話を聞く限りでは、ユーミなる娘が渡り人ではないかと考えます。他国でも渡り人を呼び出したのか、偶然渡ってきてしまったのかは分かりませんが」

「燃やされた輩が居ったであろう。そ奴と他に2人が、彼女(真由美)は向こうで関係のあった者だと証言しておる。あちらで行った行為、おそらく集団での暴行であろう行為の仕返しをされたのだ、と訴えておるそうだ。ならば何かしらかの偶然で今回の召喚に巻き込まれ、幸運にも難を逃れたのではないかと考えておる」

「ナタリー殿と王都入りした記録がございますので、そちらからのアプローチも懸念事項ですな。もっとも、彼女を拘束できるなどとは思ってはいないでしょう。魔術協会の主任研究員にして、Bランクを超えるCランクと称された【殺戮の魔女(ジェノサイダー)】に、軍部とは言え手出しすれば痛い目を見るは必須」


 ギルドに語り継がれる逸話である。

 国に飼われるのは嫌だとCランクを貫き通し、才能ある者を招き入れては育て、【銀翼の剣(サルベーションソード)】などの実力派パーティーの結成に関与した教育者である反面、そのすさまじい火力を持って小規模な魔窟氾濫(スタンピード)を燃やし尽くした才女が森に住むと。

 亜人の国など滅ぼしてしまえと声を上げる主戦派の多い軍部が居る王都で、ハーフを含む亜人が差別される事無く平穏無事に暮らせるのは、最終兵器となりうる彼女を有すると言われる冒険者ギルドの存在も大きいと言われている。


 できれば直接関わりたくはない立場のはずのユーミとナタリーが、定期的に会食を楽しんでいるのも耳にしており、愛弟子のような存在であるならば双璧となりうる存在になるのかもと淡い期待を抱いてしまう。


「宰相閣下はユーミをナタリー殿の代わり、もしくは双璧として擁護するお考えなのでしょうか」

「ナタリー殿を囲った覚えがないな。ユーミについても然りだ。よって仮に国を出ようが引き留めるつもりは無いし、寧ろ他国を見て回って見識を広げて欲しいとも思っておる。が、軍部に取り込まれることは拙いし、丸め込まれてしまった王家にも気を付けなくてはならんだろう」

「それでしたら、引き続きギルドから監視要員を付けましょう。ヘイルも出来るだけ気にかけてやってくれ」

「承知しました。受付は私とカティアで行う事にし、アリスも含めて面倒を見ましょう」


 ユーミの探査範囲はおそらく我々が考えるそれを大きく上回っているだろう。そうなれば監視や護衛の要員などバレていそうだが、今の所は苦情も相談も受けてはいないのでスルーしておこう。もし言われたらギルマスから直接話してもらえば、納得してもらえなくともギルドに敵対することは回避できるだろう。




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