戻らない保護者
アリスはレアなジョブを持っていたが故か、ヘグィンバームさんの言いつけで表に出ないようにしていたようで、たぶん経験値は初期値のままだったのだろう。冒険者登録をして私と一緒に森に入る様になってから、動きが格段に良くなったように見える。
ステータスでレベルが見えはしないけれども、着実にレベルアップを繰り返しているのだと思う。どういった仕組みになっているのか見当もつかないのだけれど、パーティーを組むと経験値が案分されて分配されるそうだ。均等割りではない分、高レベル者と組んで強制的にレベルを上げるパワーレベリングとかいう行為は出来ないらしいので、貢献度がどのように比較されているのかにはモヤモヤしてしまうけれど、昔からそうだったと言われれば「そういうもの」として納得するしかないのだろう。
アリスは嫌がらずに魔石などの剥ぎ取りもするし、荷物も積極的に持ってくれるからか貢献度合いは案外高いのかもしれない。それとも私が一撃で仕留めてしまうので、私が貰う攻撃側の貢献度が低いのかもしれない。
アリスは回復と解毒が得意で、良く自分に使っている。オッチョコチョイなところがあって、木の根で躓いたり毒草に触ってかぶれたりとか忙しい。もう少し慎重になってほしいものだと思う。
オーガクラスまでの魔物ならば私の中距離攻撃であっと言う間に駆除は完了し、アリスが剥ぎ取りをしてポーチに魔石を仕舞っていくルーチンワークが成り立つ。格上の魔物もケースバイケースで狩れているので、破格のペースで経験値を得ることが出来ている。それに、魔物の骨や皮を回収しては錬成を繰り返すので、ジョブレベルも少しは上がった。
それと信じられないことに、渡り人特有と言われたギフトがいつの間にか増えていた。このことはナタリーさんにも内緒にしている。絶対に問題になると思うから、親しい人にも言わない事にしたわけ。
《仙波真由美》(仮名:ユーミ) Lv14(27446/29193)
【種 族】 人族(渡り人)
【ジョブ】 錬金術師 Lv5
狙撃名手 Lv7
【ギフト】 能力隠遁、構造把握
【スキル】 真贋、創製、収納、整理、保存、付与、精密、嵩増
貫通、遠見、速射、必中、探知、経穴、俊足、多重、強弓
【魔特性】 火・水・土・無
ギフトが増えて物の構造が安易に想像できるようになって、化合弓の構造理解が進んだ結果、得ているスキルとの兼ね合いから滑車部のカムやリム強度、スタビライザーのサイズ等を最適化することが出来て、さらに強い矢を放てるようになった。もっとも、取り回しが悪いので最近では出番が減っている。
中距離用にシンプル構造の短弓を作ったので、生い茂った森の奥ではこちらが主装備となる。精密射撃の距離は150mが精々だけれど、その倍離れていても破壊力はオーガの頭蓋を貫通するほどだ。なにしろ、前衛職のモーリンでもまともに引けなかったくらいテンションが高く、スキル強弓の補正が絶大だなって改めて思ったものだ。
そんな感じでモーリン達との付き添いは別として、アリスと二人での狩りはランクC相当の魔物までをターゲットとして、オークの上位種、オーガの亜種、ベアの大型種など物理攻撃系を主体に、魔術を使うゴブリン亜種やウルフ亜種、飛行するワイバーン種をバンバン狩っていた。もっとも、カティアさんに怒られるしランクは上げたくないので、これらから取れた素材は売らずに残してある。
「アリスはスキルの効果って、実感できるようになってきた?」
「それがですね、回復なんかの魔法を覚えたのですよ。まだ他人に使ったことが無いので、効果ってどれくらいなのか見当がつかないのですけれど」
「まぁ、使う機会も無いからね。そういった戦闘スタイルだし、スキル目当てで保護したわけでもないから構わないよ」
教会に行けば何かしら魔法のヒントが得られるだろうけど、彼女のジョブを知る者はこれ以上増やしたくもない。ヘグィンバームさんが早く戻ってきて、よく相談をしてからと思うのだけれども、いったいどこに行ってしまったのか消息が全くつかめないでいた。
もともと出不精らしく、家を空けるなんてまず無かったらしい。それが、怖い顔をして帰ってきたと思ったら、「七日ほど留守にする。誰か尋ねてきても留守番で分からないからと追い返してかまわない」と言いおいて出かけてしまったのだそうだ。それが既に1か月以上前なのだから、アリスだけでなく私も心配になってしまう。
払ったお金は別に戻ってこなくても問題は無い。なにしろこの一月の稼ぎは素材の売却だけでも金貨一枚を超えているし、貯えの素材を換金したら十数倍にもなるはずだ。2人部屋に移って過ごしている宿代や食事代も、依頼報酬を当てれば十分に元が取れていると言っても良いので私に損など無いどころかプラスだ。
ヘイルさんにはヘグィンバームさんの捜索依頼を出しているのだけれど、公開クエストにはしていないので動きが鈍いのも致し方ないだろう。非公開専門の捜索系パーティーが動いているそうだけれど、どうやら大きなトラブルに巻き込まれてしまっていそうだとだけ聞かされていた。
それが私に関係していたなんて、この時には思いもよらなかった。




